通り過ぎる

 

通り過ぎていく人々…アナタはそう云う人々に気を止める事は滅多にないはず…

さて、これは私のそばを通り過ぎていったある人の話…

 

ある冬の日の昼下がり、私は居間のパソコンに向かって何と云う事なしにネットサーフィンをしていた。

2時間ほどそうしていた後、当時このサイトを開いていなかった頃の私はいつものように、趣味の執筆を始めた。

この家の居間は応接室としても使われる事があり、暖炉を模した棚が部屋の中央にある。

そして、今この話を書いている私の背後にそれは位置し、そこから庭に続く出窓が臨める。

さて…今日のノルマを達成し、休憩に入ろうとした時の事…私は奇妙な音に漸く気が付いた。

 

     ぎし、ぎし、ぎし、ぎし

 

それは築二十年の我が家の床を踏みしめる音がした。

はて…おかしい。

今日は私以外誰もこの家にはいない筈なんだが…

留守を任されていた私はふと、後ろの暖炉型の棚を振り返った。

 

     ぎし、ぎし、ぎし、ぎし

 

まだ、その音は続き、私は体をひねって真後ろを向いた。

そして、音の主が姿を現した。

…女性…なんだろう。

黒いフレアスカートの上にブラウスを着た、綺麗な長い髪の女性が台所側の通路…つまり今の私の向かって左の方から

何気なく歩いてきた。

彼女は私に全く気付いていないらしい。

 

     ぎし、ぎし、ぎし、ぎし

 

彼女はその長い髪を揺らしながら、部屋の中心を支えている柱の陰に向かって歩いていく。

このまま歩いていけば、私を鉢合わせになるだろう。

こんな事に慣れきってしまっている私はぼんやりと、そんな事を考えていた。

だが、いつまでたっても、彼女が柱の陰から出てくる事はなかった。

おやおかしい、私に気付いたのか…

私は立ち上がり、あろう事か柱の陰を覗いてみた。

 

     彼女の姿はもうそこにはなかった

 

私はこの出来事を胸に仕舞ったまま、今日に至ったが、いつまでも疑問な事があった。

 

     なんであのひと、顔がないんだろう

 

顔がない、と云うには語弊があるが、つまり、彼女の顔の印象が全くないのだ。

その場所だけいつまでも霞がかかっている。

何故、顔がなかったのだろうか…今でも思い出せないでいる

 

アナタも自分の部屋にいる時、誰かが来たら確認する事だ。

その人に顔があるか…