庭の住人
夜の庭…アナタはそれをぼうっと眺めていて、突然怖くなったりしませんか?
おや、怖くない?そうですか…
何かが飛び出してくるような…そんな気はしませんか?
おや、しませんか…
私はなりますよ
あんな事があった日から…
それは何と云う事はない夏の夜の事だった。
私は買いたての本を読んで、気分がいい感じに盛り上がっていて、上機嫌で烽じ茶を啜っていた。
烽じ茶飲んで最中を食べるのが好き、と私が云うと知り合い連中は「じじむさい」だの「やっぱり」と云う。
私はどうも和風贔屓な所があり、周囲から奇異な目で見られる事もしばしばである。
さて…そんな事はさておき、居間で至福の一時を過ごしていた時の事、庭から奇妙な音がした。
音の正体はすぐにわかった。
それは、庭に架けられた「橋」を踏みしめる音だ。
「橋」と聞いて何処かの庭園を想像した君、愚かな思考は中止したまえ。
単に出窓からの段差が大きすぎて、家の母が雨の日落下して腕を骨折したのをきっかけに、父が日曜大工で製作した
「庭を覆う橋」を作っただけである。
尤も、元々猫の額より小さな通路のような庭だったため、庭を覆う地面が隆起して板張りになっただけにしか見えなかったが。
まあ板張りなため、そこは人が歩けば、何があっても音がするのですぐにわかると云うわけだ。
誰かが尋ねてくる、または家人が帰ってきたと云うならそこまで気には留めなかったのだが、どうも勝手が違うようだ。
何せ、その時の時刻は真夜中だったのだし
私は初め、泥棒の類か、と疑った。
しかし、木刀片手に庭に出た私の目には、そんな怪しい影は全くなかったのである。
おかしい、さっきから家のお座敷犬は引っ切り無しに吠えているのに…
私は犬をなだめながら、中に引っ込んだ。
その時である…
みし、みし、みし、みし、みし
聞こえた、確かに誰かが庭の橋の上を歩いている。
みし、みし、みし、みし、みし
間違いなく人間の重みで板が軋む音だ。
みし、みし、みし、みし、みし
音は狭い庭の中を行ったり来たりしている。
みし、みし、みし、みし、みし
私はもう一度、さっき開けた出窓を開けた。
みし、みし、みし、みし、みし
誰もいない庭の橋を、見えない誰かが歩きつづけていた…
アナタもふと聞こえる音に耳を済ませては如何ですか?
もしかしたら聞こえるかもしれないですよ…
この世の者ではない誰かの足音が…あ、今何か聞こえませんでした?