第壱話 宗教調査
ピンポーン。
呼び鈴が午後の穏やかさに似合わず大きな音を響かせてなった。
「ハイどちら様ですか?」と、返事をしたのはこの家の住人、S夫人であった。
年の頃は、50を越えたところだろうか、ごく普通のどこら辺にもいそうな主婦であった。「はい。このたび役所から住民の宗教への加入状況の調査依頼がありまして、そのお手伝いをしておりますボランティア団体のものです」
「わが国では、宗教の自由ということがありますので、この調査は任意となっております」
「もしよろしければ、ご協力願えませんでしょうか?」
こう答えたのも、定年を迎え、することも無いのでボランティアに参加しているという人のよさそうな顔の男性だった。
「別にかまいませんよ」といってS夫人は、ドアをあけた。
「ご協力ありがとうございます」男性は、深くお辞儀をすると調査票がはさまれたボードと鉛筆を取り出し、おもむろに話し始めた。
「え〜、ご質問いたします」
「S夫人は、今現在なにか特定の宗教に加盟しておられますか?」
「いいえ、私は自分で言うのもなんですが、かなりの宗教不信者です」
「夢は自分でかなえるものだし、困ったときに助けを求めても救ってくれくれるとは思えません」
「第一、宗教なんて心が弱い人が騙されているんじゃないでしょうか?」
「隣の奥さんを、旅行に誘ってもお金が無いとの一点張り」
「あそこの家は、結構裕福だし別の奥さんに何にそんなに使っているのか聞いた所」
「宗教のお布施にお金を使い、なんでも、一回、拝んでもらうだけで何十万もかかるというじゃないですか」
「まったく、ばかばかしいにもほどがあります。それならば拝んでもらう分を何かおいしいものを食べた方が得だと思いませんか?」
男性は、愛想笑いをしながらS夫人の話を聞き、ところどころ何かをメモしていた。
「そうですねぇ、人それぞれいろいろありますから・・・」
「わかりました、S夫人は宗教とかそう言った類のものは信じないということですね」
「そうなんです、近所の人なんか私が何も信じていないということを知っているから、宗教の勧誘なんかも来ませんよ」
S夫人は、自慢げに微笑んでいた。
「一つお聞きしたかったのですが、その指に巻かれている赤いテープは何ですか?」
男性は、S夫人の人差し指と、薬指そして小指に巻かれている赤いテープを指差し質問した。
「あっ、これですか。これはですね、お昼のTV番組で健康によいといって紹介されていたものです」
「この他にも、いろいろ健康によいことが紹介されるので、宗教は信じませんがあのテレビ番組だけは信じます」
男性は、またもや愛想笑いをしながらS夫人の話を聞き
「そうですか、S夫人は健康に気をつけていらっしゃるのですね」
「長い時間、ご協力ありがとうございました」といって、S夫人宅を後にした。
その後に、扇動可能な住民としてカウントされたことは言うまでも無い・・・
第弐話 少年の気持ち
人類は、永遠の平和を手に入れた
天気も管理下におくことが出来るようになった、しかも地盤も完璧になったので天災というものが無くなった。
精神医学の発達により、ストレス解消マシーンが発明され、人が憎しみあうことも無くなった。
社会保障も完全になり、老後の不安も、衣食住すべての不安は解消されたので、犯罪も起こらなくなった。
ここに一人の大統領がいた。
この大統領は、人類の平和獲得の立役者であったが、近頃、憂鬱になっていた。
「平和になったのはいいのだが、人間は一人で生きていけるようになると協力しなくなるものだな・・・」
「自分のことだけ考え、自分の好きなように生きている」
「はたして、これが幸せなのだろうか?」
「昔は、協力しなければ生きてゆけなかった・・・協力して天災と戦い、そして向上していった・・・」
「平穏に生きることが幸せか・・・それとも向上することが幸せか・・・私にはわからん」
大統領は、ゆっくりと長椅子に横たわった。
疲れていたこともあり、大統領は眠たそうにしながらもこの問いについて考えていた。
(向上しなくて良いはずが無い・・・しかし今の幸せを捨てて昔に戻るのもどうだろうか?)
(なにか、安全でそれで且つ人が協力しそうな・・・)
(定期的に、潜在的な敵を・・・)
(敵を・・・)
(そう・・たとえば・・・・)
(オオカミが来た!)
第参話 飲酒運転追放
ある、一人の警察官がいた。
この警察官、成績は優秀なのだがお酒がぜんぜん飲めないので、上司に付き合うことも出来ず。
出世の道からは、遠ざかっていた。
警察官は考えた、どうしてお酒を飲めるか飲めないかで出世に影響するのだ?
こんな社会が憎い。
そんなある日、本庁から飲酒運転による事故発生率が高いという調査がまとまった。
これは使えると考えたのが、あの警察官。
飲酒運転の取締りを強化すれば、世の中全体の雰囲気が変わるかもしれない。
お酒を飲めない警察官は、1人だけではなかった
そういった警察官が張り切って取締りをしたので、住民は捕まるのが怖いのでどんどんお酒を飲む機会が減っていった。
それにつれて、人事の内容も成績が重要視され、あの警察官はどんどん出世していき、出世するにしたがって、飲酒運転取締りの強化や交通事故の発生抑制に力を注いだ。
成果が上がれば上がるほど、予算のつきもよく警察官は出世していった。
予算がつくので、車メーカーも本腰を入れて、事故が起こらないような車の研究をはじめ、車の性能はどんどんよくなった。
そして、人類は絶対に事故が起こらない無人自動車というものを発明し、いつでも好きなときにお酒が飲める社会になった・・・