ペンギンの森
ミントママ
ぼくは、よあけ前にこっそり家を出て、ぺんぎんの森へとむかった。熱病で、目が見なくなってしまったおじいちゃんのために、ホタルブクロをとりにいくのだ。ホタルブクロというのは、鈴のようなかたちをしたむらさき色の花だ。
ペンギンの森にある湖に咲いているホタルブクロの花びらをせんじてのめば、どんな病気もたちまちなおってしまうといわれている。
「ペンギンの森には、ばけものがすんでいる。人間を食べてしまう、それはそれはおそろしいばけものだそうだ」
村の人たちは、みんなそういって、だれひとり森へちかづこうとしない。ぼくは、大好きなおじいちゃんのためなら、ばけものとだってたたかってみせる。
森へはいると、ひんやりしていて、れいぞうこの中にいるみたいだった。カラス一羽、カシの木の枝にとまっている。
「おやおや、こいつはめずらしい。人間のこどものおでましだ」
カラスが、人間のことばをしゃべった!そのとき、とつぜん風がピューとふいて、ぼくはしけったじめんの上にしりもちをついた。
「こんなところで、なにをしてるの?」
女の子の声がした。カシの木のみきに、赤い服をきて、葉っぱのかんむりをかぶった女の子がすわっているのが見えた。
「のばらさま、人間の男の子ですよ。こどもですから、害はないでしょう」
カラスに「のばら」と呼ばれた女の子は、鳥のようにひらりとぼくのそばにおりてきた。
「ぼくは、湖へいきたいんだ。目が見えなくなったおじいちゃんのために、ホタルブクロをとりにいくんだ」
「その花がさいている湖は、ずーっと森のおくよ。こどもの足で歩いてたら、夜までかかるわ。湖まで、つれていってあげる」
女の子が口笛をふくと、大きなこうもりがとんできた。そのこうもりの大きさといったら、きっとコンドルよりも大きいだろう。
ぼくと女の子は、こうもりの背にのった。こうもりはぱっと空にまいあがり、木の上をスイスイとんでいき、ぼくたちはまるで風になったようだ。
「カラスがきみを『のばら』って呼んでいた。のばら・・・・きみは森のようせいかい?」
「さあ、どうかしら。ようせいかもしれないし、まじょかもしれないわよ」
のばらは、いたずらっこのようにわらった。空の上から、湖が見えてきた。こうもりは、きゅうこうかし、ぼくたちはじめんにおりた。
「あっ、これがホタルブクロだね!?」
リン、リン、リン。湖の岸いちめんに咲いているホタルブクロは、鈴のようなねいろをかなでた。花の中をのぞくと、あれれ、ないかがいる! それは小さなペンギンだった!!
「出ておいで」
のばらが手をさしだすと、てのひらにぺんぎんは、ピョンととびのった。ペンギンのおなかやせなかから、きん色のこながふきだして、キラキラかがやいている。
「このこなは、とてもこうかなものなんだって。ここにやってきたなんにもの人間が、ペンギンをつかまえようとしたの」
「それで、その人たちはどうなったの?」
「森じゅうのいきものが、みんなでおどしておっぱらったわ。こうもりも、ふくろうも、みみずくも、ヘビも、かえるも。人間は、びっくりぎょうてん。もう森へはこなくなった」
あちこちのホタルブクロから、小さなぺんぎんたちが、ひょいと顔出して、まるでこびとの国にきたみたいだ。
「ぼくはペンギンをつかまえて、お金持ちになろうなんておもわない。ただ、ホタルブクロがほしいんだ。おじいちゃんの目がもう一度見えるようになってくれたら・・・・」
のばらは、こっくりとうなづき、ホタルブクロを一輪つむと、ぼくにてわたした。
「さあ、帰りましょう。もうすぐおひさまが、空の上にくるわ」
ぼくたちは、またこうもりの背にのった。森の出口につくと、ぼくはこうもりからおりた。ホタルブクロは、もうリンリンとなってはいない。
「さようなら。わたしは、森へ帰るからね」
こうもにののったのばらは、あっというまに、森の中へととんでいってしまった。
それからどうなったのかって?ホタルブクロをせんじてのんだおじいちゃんの目は、なんでも見えるようになった。「ありがとう」をいいたくて、ぼくは何度ももりへいってみた。だけど、のばらを見つけることはできなかった。カシの木に、カラスがときどきとまっているのを見かけた。
「ねえ、あの子はどこにいるの?」
カラスは、ただカアカアとなくだけで、もう人間のことばをしゃべったりはしなかった。