サラワクの森
ミントママ
天の女神様は、このところ心を痛めていました。
サラワクの森が、ブルドーザーでどんどん壊されていくのを見ていたからです。
ある日突然、ブルドーザーが入ってくるまでは、サラワクの森は平和な森でした。
人間と動物達はとても仲良しで、みんなでこどもの世話をして、あるものをわかちあって暮らしていたのです。切り倒された木は海を渡って、外国へ運ばれていきました。
「女神様、私達はもうがまんできません。
私たちの森が破壊されていくのをやめさせるために、戦おうと思います。」
森の妖精が、女神様に訴えました。
「戦いはよくありません。戦いからは、何も生まれないからです。
残るのは憎しみだけです」「では、どうすればよいのでしょう」「切り倒された木と一緒に、あなたも海の向こうの国へ行ってきなさい。
その国の人に心を込めて、あなた方の悲しみを伝えてきなさい」森の妖精はうなずきました。
その日、切り倒された一本の大きな木といっしょに、海を渡りました。
その木は、いくつ物の机や椅子に、かたちを変えました。
(3がつ18にち はれ? きょうは、おばあちゃんがつくえをかってくれました。
さくらのさくころ、わたしはがっこうににゅうがくします。とてもたのしみです。)
亜美は、届いたばかりの学習机で、日記を書いていました。
足もとでは、ネコのミーシャがストレッチ体操をしています。
「あーみちゃん」誰かが亜美を呼びました。女の子の声でした。
亜美ははっとして、あたりを見まわしましたが、誰の姿も見えません。
ミーシャが、ふぁーとあくびをしました。「まさかミーシャ、さっきの声はおまえじゃないよね」
亜美は、ミーシャを抱き上げました。ミーシャは、ゴロゴロのどを鳴らします。
「あらっ!」ミーシャの首輪のあたりが、キラキラ光りだしました。
光の粒はどんどん大きくなって、亜美はまぶしくて思わず目を閉じました。
「あーみちゃん」 亜美はゆっくり目を開くと、ミーシャの首輪に小さな女の子がぶらさがっていました。女の子黄金(きん)色の髪をして、深い緑色の目をしていました。
「あなたはだあれ?」「あたしは、この机と一緒に遠い国から来たの。
この机は、木から出きてるでしょ。
初めは丸太んぼうだったのが、かたちを変えて机になったのよ」
小さな女の子は自分がサラワクの森から来たこと、森の木が切り倒されて、困ってる人や動物の話をしました。話を聞いて、亜美は胸のあたりがキューンとなりました。
おばあちゃんが、亜美のために心をこめて贈ってくれた学習机。
その机のために、悲しい思いをしている人や動物がいたなんて・・・。
亜美は、いつしか涙を流していました。涙は小さな女の子の体に、ポタポタとこぼれ落ちました。
「亜美ちゃん・・、優しい心をありがとう」小さな女の子も泣いていました。
その時、小さな虹ができました。小さな女の子は、虹の中に溶けるように消えていきました。
小さな女の子は、それからも毎日、ミーシャのからだにのって現れました。
その姿は、亜美だけしか見えないらしく、おとうさんもおかあさんも亜美が女の子の話や、サラワクの森の話をしても本気にしませんでした。
桜が満開になりました。亜美が小学校に入学する日です。
おばあちゃんが、お祝いにやってきました。
亜美にはケーキを焼いて、ミーシャにはお手製のソーセージを持ってきてくれました。
ミーシャは、おばあちゃんの足にすりよって、ゴロゴロのどを鳴らしました。
「おや、ミーシャの首のところにかわいい女の子がいるね」「えっ! おばあちゃん、この子が見えるの?」おばあちゃんはニッコリ笑い、女の子はペコリとおじぎをしました。
サラワクの森の話を亜美から聞いている間、おばあちゃんは一言もしゃべりませんでした。
何かじっと考えこんでいるようでした。やがて、ゆっくり口を開きました。
「木は優しい空気を、人や動物に運んでくれる。
切り倒されるのは悲しいことだけど、こうして亜美の勉強机になったんだね。
亜美はこの机を大切に使っておあげ」
「それだけでいいの?私に出来ることは他にはないの?」
「それは、亜美が自分で考えることだよ。あせらないで、亜美」
学校でも家でも、亜美は一生懸命勉強しました。
自然破壊についても勉強しました。
亜美の書いた作文『サラワクの森の悲しみ』は、作文コンクールで入選したのです。
入選した作文は、一冊の本になりました。
一冊の本は、多くの人に読まれました。
多くの人が、自然を破壊しないで、みんなが幸せになれる方法を考えるようになりました。
もちろん天の女神様のところにも、その本は届いています。