焼合谷と釈迦ヶ岳東尾根 10.09.05
焼合谷は2002年に遡行しているが、地形図との照合がはっきりしなかったので再度行こうと思っていた。しかし半ば忘れていて、随分日が経ってしまった。その間に起きた9.2被害調査も兼ねて出掛けることにした。
尾高キャンプ場は朝明と同じく関係者以外通行止めとか、駐車禁止とか、ゴミを捨てるなとかお寒い看板が乱立していた。配水場付近でチェーンが掛かっていたので、路肩の空き地に駐車する。以前は車で入っていた林道をテクテクと歩く。この谷は慌てて入渓すると堰堤越えに手間取るだけである。下の谷を覗くと両岸が欠け、土砂が流入して砂洲になっていた。最後の堰堤だった付近も明るくなり、そこから真新しいコンクリートの林道が延びていた。これを詰めると、アッと驚く複雑なパイプの新堰堤。庵座谷と同じものである。銘盤にH21年7月竣工とあった。
ここから入渓となる。いきなり三段の明るいナメ。これが以前の何処に当たるか分らない。日照りで渇水を心配したが、このところ夜間に雨が降るのでまあまあの水量だ。この先ずっと花崗岩の白く明るく広い谷が続く。夏の欝蒼とした樹林の谷のイメージは生まれ変わった。豪雨で両岸の樹林が流れ去り、途切れ途切れにあった昔の登山道も流れたようだ。心配された赤錆びは一部だけである。白石と清流と蒼い淵、そして手頃な滝が続いて爽快である。初心者を連れてくるにはうってつけだろう。


パイプの新堰堤 途中の滝
谷が北から西へ変わるあたりでシャワーになりそうな滝。右をへつることは可能だが、暑いのに巻くことはない。ただヤケゴは泳ぎがないので、ザックの防水をしてこなかった。そこで空身になってシャワーで登り、また戻ってザックを担いでへつった。飛沫を浴びて一気に涼しくなった。これを登るとすぐに西尾本第四巻P59にある女郎滝と思われる滝。登る前にちょっと休憩。パンに蜂蜜をかけて食べる。これは右から巻けるのであるが、こいつを巻いちゃあ中盤で登る滝がないといえる。注意していれば、単独で登っても危ないものではない。その上の河原にシカの頭蓋骨が転がっていた。その後しばらくゴーロが続き、やや退屈になる。9:05藤原谷出合通過。やがてまた階段状の手ごろな滝が次から次へ現われて遊ぶことができる。


手頃な滝が次々と現れる
600m付近で滝手前に細長く深い淵。これまでの淵は股下位だったが、ここは腰までいきそうだ。タバコやカメラを雨蓋に入れて、粛々と進む。さすがに最初は冷たい。そして滝に取り付く。どんどん登るに従って谷幅は狭くなってくる。比例して滝もまた細長いものになってくる。680mの左岸、釈迦ヶ岳東尾根から岩ナダレが凄まじい。本流もガラガラの岩の堆積で潤いが無くなってきた。源流が近づいてくると、ヤケゴの陰惨な顔が徐々に出てくる。ゴルジュの狭さと暗さが息苦しい。しかも稜線はガスの中。昨日は抜けるような青空だったが、一日で大違いだ。まあ直射日光に炙られなくてよいのだが。



腰まで浸かって通過 狭くて長い滝 徐々にゴルジュの雰囲気
760m付近、左手(右岸)に大きな支流。偵察には行かなかったが、絶壁が聳え、人を寄せ付けない陰鬱な雰囲気である。話を総合すると、これが石原谷なのだろう。右の丸山谷を進む。ガラガラの谷。左岸岸壁の高い所に岩屋がある。しかも縦に穴が二つの二階建てである。前回も見たのかどうか記憶がない。偵察に登る元気はなかったので写真だけ撮る。次は右岸の岸壁がオーバーハングになったゴルジュの滝。これはハッキリ覚えている。西尾本P62の写真である。圧迫感を感じながら、覆い被さった岩の下を登る。




荒れた雰囲気の石原谷 左岸高所の岩屋 オーバーハングのゴルジュ 左の場所を登って見下ろした写真
この先、見覚えある顕著な二俣(820m)。右俣にあたる正面は急峻なルンゼ。左俣は多少傾斜が緩く、本流と思われる。前回はこの二俣が石原、丸山の出合と思って、わざわざ困難な正面ルンゼを登ったのだ。西尾本では1:2とあるが水量は逆である。しかも左俣をヒゲ一本で済ませ、滝の記述もない。改めて右俣を眺めて、えー、こんなに狭くて急だったかと思う。ちょっと登ってみる。怖い。水流はナメる程度だが、体を岩に密着させるので濡れる。中段まで登ってためらう。登ったのは8年前、そのとき、出口で行き詰った。出口オーバーハングのCSが難関なのだ。というか、落ちたら終わりなので、滑る石に体を預ける思い切りが出ないのである。西尾本P64に「CSを抱きながら上部に出るが一部難しいところがある」とあるのはここだと思う。あのときは空身で何とか登って、あとで荷物をロープで引上げた。さて今日は登るか、やめるか。これ以上登ると下りられなくなり、進退窮まる可能性もある。やはり単独だからやめておこう。


左俣の滝場 右俣ルンゼ
それに左俣は未見なので、そちらを偵察してみたい。立った右俣に比べ、左はある程度寝ているが、滝が連続していた。15〜20mの滝を数個登る。岩に凹凸があるので見た目ほど困難ではない。しかし集中を切らしてはいけない。このまま登ると釈迦ヶ岳山頂に出てしまう。山頂に用はないし核心も終わりのようなので、910mで右手の小支流へ入って東尾根を目指す。もう沢とお別れなので暑くなるといけないと思い、ヘルメットに水を汲んで頭からかぶった。背中が冷やーっとして震える。
涸れ谷の途中で地面を見てオッと思う。20cmくらいの水晶の原石が落ちていた。西尾本にも水晶を拾ったと書いてあったので、前回も注意していたが見つけられなかった。やっとお目にかかった。しかしズッシリ重たいので持ち帰るのをためらう。バテていたのでやはりやめた。他に小さいのが落ちていたので、これを土産とする。すぐ尾根に出られると思ったが、東尾根直下は急で青息吐息。ササをつかんで、なんとか攀じ登る。時計を見ると、キャンプ場から4時間も掛かっている。体力の低下が悲しい。高度計は1005m。地形図と辻褄が合う。東へ尾根を下りながら昼食適地を探す。なかなか良い場所がない。キリがないので930mピーク手前の平坦な尾根芯で開店する。どうせ誰も来ないからいいだろう。

水晶原石
静けさや岩にしみいる何とやら、ツクツクボウシが盛んに鳴いている他は静かなものである。ササを揺らすそよ風に汗が引いていく。地面には蟻がたくさんいた。観察していると剥がれ落ちたクロワッサンの皮を一生懸命引っ張っている。働き者だ。ご褒美に「おにぎり村」で買った極上のコシヒカリを数粒恵んであげよう。「アリがとう」と言ったか言わぬか定かでないが、体と同じ大きさの米粒を見事に運搬していった。
この尾根は以前外して、また焼合谷に戻ってしまったので、今日は暑くても尾高山まで正確にトレースしたい。地図を片手に下りて行くが、けっこう踏み跡はしっかりしているしテープも増えたようで、外す心配はなさそうだ。しかし長ったらしい尾根で、涼んだはずの体からまた汗が噴き出す。
地図ではコンター745m小ピークが要注意であると思っていた。ここをまっすぐ行かず、左折せねばならない。そう思っていながら見事にここで外した。何となれば間違った尾根にもピンクテープが付いていたのである。しかもご丁寧に分岐だけではなく、少し下りたところにも付いていた。これはコンパスですぐに気がついて戻った。正しい尾根にもテープがあった。いい加減なものだ。
このあとは見覚えのない風景だったが、田光の大谷側から上がったときにトレースしているはずである。それにしても長ったらしい。もう大汗で、谷音が聞こえるたびに右手の斜面を下りて行きたくなる。しかも、うっかりするとクモの巣が顔面にべったり。この不快感は例えようもない。尾高山への登りは短いとはいえ、立ち止まって喘ぎながら登る。飲み水も切れた。やがて樹間からヤグラが見えた。よたよたとこれに登って下界を展望する。薄曇りながら田光の学校周辺も判別できる。振り返れば釈迦ヶ岳のお姿も。


尾高山から釈迦ヶ岳 尾高山から田光地区
少し先の分岐から南へ向かうコースへ入る。よく整備された道ではあるが、ここもクモの巣だらけで、あまり使われていないようだ。やがて正面が明るくなり、展望のある広場に出た。その下の道路には14歳になる愛車が忠犬のように待っていた。おお、ドンピシャだ。若い男女がバーベキューを楽しむ施設の傍を、夢遊病者のようにふらふらと歩いて車へ戻った。