本の読後感等あれやこれや
最近読んだミステリの感想を中心にした日記
■ 歌野晶午「女王様と私」角川文庫 |
Date: 2021-07-15 (Thu) |
丁度12年前に感想を書いている。その時はゲーム感覚で全体を感じとっていたようだ。今回再読してみて、まったく内容は記憶になかった代わりに新鮮な感覚で読み進めることが出来た。
■ 歌野晶午「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」角川文庫 |
Date: 2021-07-15 (Thu) |
乱歩作品の現代翻案版7点。歌野氏の翻案なので当然原作の設定を踏襲してはいるが、更に一ひねり、ふたひねり・・・。
現代ならではのテクノロジーの折り込みがうまく設定に活かされていて、何の抵抗もなく乱歩特有の異常な世界に溶け込んでいる。
■ 柚月裕子「検事の死命」角川文庫 |
Date: 2019-07-10 (Wed) |
「検事の本懐」とほぼ同様の5章構成からなる。
痴漢容疑で逮捕された男の供述は、被害者のそれとは完全に食い違っていた。この迷惑防止条例違反案件を描いた3〜5章が秀逸。
ミステリーなら反則に近いような荒業ではあるが、まあ一応フェアにヒントは明示されていたということかな。
■ 柚月裕子「検事の本懐」角川文庫 |
Date: 2019-07-10 (Wed) |
検事時代の佐方を5章のショートストーリーで描く。
各章は一応独立しているが、緩やかな時系列の繋がりを持って、最終で左方の父親のエピソードに至る。
■ 柚月裕子「最後の証人」角川文庫 |
Date: 2019-07-10 (Wed) |
検事から弁護士に転身した佐方貞人の活躍を描く。絵にかいたような法廷物として読むのもいいが、物事を曖昧にしない佐方のアプローチが見どころ。従って単純に勝訴敗訴云々を超えたところに視点が置かれる。それは真実は間違いなく暴かれるべきだという姿勢に基づいている。
少し無理筋と見えなくもないストーリーの運びもあるが、一気に読了。
■ 江戸川乱歩編「世界推理短編傑作集」創元推理文庫 |
Date: 2019-06-29 (Sat) |
・盗まれた手紙 ポー
・人を呪わば コリンズ
・安全マッチ チェーホフ
・赤毛組合 ドイル
・レントン館盗難事件 モリスン
・医師とその妻と時計 キャサリン・グリーン
・ダブリン事件 オルツィ
・13号独房の問題 フットレル
■ 沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」幻冬舎文庫 |
Date: 2019-06-29 (Sat) |
壮絶な愛? どうしようもないカップルの出会いから別れまで。
■ 深木章子「鬼畜の家」講談社文庫 |
Date: 2019-06-16 (Sun) |
探偵が事件の関係者と接触、そのインタビューで構成することで事件を多面的に浮き彫りにし、虚実入り混じった情報の中から真相をうまく炙り出していく。表題からの予想と異なり、敢えて言えば東野作品の初期のものに近い香りがする。
読後感が、『よく出来てるし、確かにそうなんだけどね〜』
子供3人を連れて、住居を転々とする鬼畜と言われる母親が、次々と大金をせしめていく。
■ シーラッハ「禁忌」東京創元社 |
Date: 2019-06-14 (Fri) |
第二長編
没落貴族、父親の自死を経て写真家となり名声を得る男。
これが第一章にあたる 緑
女性検察官がある誘拐事件を取り扱う。被疑者は緑の男。
被害者は発見されていない。これが第二章にあたる 赤
高名でやや偏屈な弁護士が緑の男から弁護の依頼を受ける。解決編の第三章にあたる 青
そして最終章 白
ともかく説明を最小限に絞った文章。間を読ませる技法は時として読者を突き放しているかとも見える。ちりばめられたエピソードにも油断は出来ず、細かなところまで注意を要する。
全体の50%のページを費やした緑の章での布石は十分だが、唯一この作品名は?
■ シーラッハ「コリーニ事件」東京創元社 |
Date: 2019-06-11 (Tue) |
第一長編。
作者が出自に正面から向き合ったテーマだとの評価があるようだ。かの国が先の大戦で犯し、永遠に批判を浴び続ける行為の数々は、現代に生きる人々の心の中に影を落とし、絶対に忘れてはならないことと受け止められている。
一方の我が国ではどうか。敢えて忘れ去ろうとしているのでは。
■ 逢坂剛「相棒に手をだすな」新潮社 |
Date: 2019-06-10 (Mon) |
連作集その2
・心変わり
・昔なじみ
・ツルの一声
・老舗のねうち
・ツルの恩返し
・別れ話
の6編
骨董品店『天無人』を経営する、60代後半と思しき老嬢二本柳ツルが新登場、私とジリアンの活躍に年季という名の花を添える。
■ 逢坂剛「泥棒に気をつけろ」新潮社 |
Date: 2019-06-10 (Mon) |
某(名前がいくつもある)とジリアン他(名前がいろいろある)の活躍を描く連作集。
・いそがしい世間師
・痩せる女
・弦の嘆き
・八里の寝床
・弔いはおれがする
の5編
世間師、ひらたく言えば詐欺師に限りなく近い何でも屋のお話。
■ 乃南アサ「水曜日の凱歌」新潮文庫 |
Date: 2019-06-04 (Tue) |
占領下の日本。これに真っ向から取り組んだ作品を読むのは初めての経験だ。私が一時を東京で過ごしたのは戦後をすでに10年以上経過したころのこと。まだ巣鴨プリズンの壊された跡地がそのまま残っていたことがその名残か。
進駐軍兵士の大和撫子に対する防波堤、いやな言葉だ。取り扱うテーマは重いものだが、少女の目を通した数々の話は薄められてさりげなく語られる。
■ 浅田次郎「活動寫眞の女」集英社文庫 |
Date: 2019-06-04 (Tue) |
浅田次郎と同年齢だとは知らなかった。過去の著書から、もう少し上の世代だと思い込んでいた。
少しだけこちらの方が当時の京都については詳しいかと思われるところもあるが、残念ながら清水から送り火を見るという経験はしていないので、これは悔やまれる。実験の傍らで特製酒(エタノールを水で薄めただけ)を片手に左大文字を不完全な形で拝んでただけ。
本作品、太秦を中心とした大正から昭和初期の映画界のはなしを伏線として昭和44年の等持院近辺の逸話が面白い。主人公の当時の日常についてはやや現実味に欠けるが、テーマに合わせた設定なのでよしとしよう。
■ シーラッハ「カールの降誕祭」東京創元社 |
Date: 2019-06-01 (Sat) |
・パン屋の主人
・ザイボルト
・クリスマスの降誕祭
の3編。
ザイボルトは少しほっこり、他の2編は極めてシュール。
日本の裁判員制度をドイツでは参審員制度と呼称する。大きく違うのは重大な刑事事件に限定されず、労働、行政、社会事件全般に適用されていること。また25歳以上で政党他の推薦により任命され4年の任期があること。成程、事前にふるいに掛けられて推薦されるのなら、辞退はないだろうし、極端に偏向した意見の持ち主が選定されることもなかろう。
■ シーラッハ「犯罪」東京創元社 |
Date: 2019-06-01 (Sat) |
目を引いた一文、『ベルリンでは、ボールの十五倍も多く金属バットが売れる』のだそうな。かの国で野球が大流行という話も聞かないので、他に使い道があるということか。物騒なおはなしです。
刑事弁護士として、実際に起こった事件を元にした短編集。
■ 逢坂剛「平蔵の首」文春文庫 |
Date: 2019-05-26 (Sun) |
平蔵で思い出したことがひとつ。
昔部下で新卒入社直後の娘が返り支度の最中に、『きょうは鬼平の日だ』とのたまわった。
当時はゴールデンタイムに「鬼平犯科帳」が連続ドラマとして大人気の頃。確かにそうなんだけど、本人が英文科卒で英会話バリバリの上、容姿もいわゆる和風とは正反対なので唖然とした記憶がある。『お母さんといつも見てる』のだそうだ。家庭環境というものはこんな微笑ましい出来事も生み出すものか。
あの池波正太郎作品の存在があって逢坂版はさて、と座り直して(寝転んで)満喫。
常日頃、助さん各さんが印籠をだそうが、遠山の金さんが大見得を切ろうが、もし悪党が認めなかったら、更に悪党のほうが実践的な喧嘩殺法で強かったらどうなる、を夢想してきた。逢坂さんもこの疑問を拭い去れないようで、現場には出向かないか、影武者を必ずたてるような方策をとる設定にしている。ダメを押すために、平蔵の読みが常に盗賊達より一枚上手であったと。更にもうひとつ、平蔵の容貌を悪党どもには知られないようにしていること。これで初めて平蔵の隠密行動が可能になる。
本短編集は平蔵の容貌が知られていないことがサブテーマとして生かされている。
夢想その2、いくら強い剣豪でも入浴中や厠でマジックよろしく四方八方から剣を突き立てられたら間違いなく命は無い筈。だと思う。殺気を感じてあらかじめ回避? いやいや毎日そこまで緊張してたら疲弊して身が持たず自滅してしまう筈。
■ エイモス・チュツオーラ「やし酒飲み」岩波文庫 |
Date: 2019-05-26 (Sun) |
酒飲みの寓話? 混沌
晶文社版に出会ったのは、学生時代のこと、なつかしい。岩波文庫を手に取ったのも寺田寅彦随筆集以来だ
■ 歌野晶午「ずっとあなたが好きでした」文芸春秋 |
Date: 2019-05-23 (Thu) |
長編のつもりでページを開いたが、目次をみるとなんと短編集らしい。それでこの分量か!ちょっと意外。この作者なので単純な恋愛ものではあるまいという先入観は持ちつつ、発表時の第一刷なので巻末の解説や作者コメントはない。可能な限り文庫を選ばずに図書館利用を重視する目的でもある。並んでる順番に読みたい。作者に騙されたい、ということ。
スタートの表題作、「ずっとあなたが好きでした」は最後の1行勝負か。それもピタっと決めるのではなく、少しもやもや感を残して。
二作目。「黄泉路より」は んー?最後の1行勝負連作集ではなかったのか。
三作目。「遠い初恋」は・・・・
仕掛けはこの作者らしいもの。最終の13作目はさながら墨書の『大』の字を書くような具合。右下の最終的な〆はほんのわずかに上方に軽く撥ねた感じだ。
■ 石持浅海「殺し屋、やってます。」文芸春秋 |
Date: 2019-05-22 (Wed) |
依頼を受けてから3日以内に依頼内容を検討して諾否を連絡、受諾してから2週間以内に実行。前金は300万、完了後の残金は350万。完了出来なければ前金返納の上、更に違約金350万を支払う。これが私の副業のルール。副業の名称は俗に言う殺し屋。
以上の設定で編まれた7編の連作集。作風の通り、『私』の理解者及び業務関係者との会話による論理の応酬で依頼理由を探り、納得がいけば依頼完了に向けて取り組む。そして依頼完了後のことはまったく言及されていないのも、本連作集の特徴。敢えて言えば倒叙ミステリの新機軸か。犯人だけは明々白々なのだ。
■ デビッド・ヤング「影の子」 |
Date: 2019-05-21 (Tue) |
旧東ドイツを舞台にした歴史ミステリとうたわれた作品。
考えてみたら初めてのシチュエーション。ベルリンの壁崩壊の詳細もすでに30年を経過し忘却のかなた。改めてネットで探ってみたが、いかに当時も不勉強だったか痛感。冷戦終結についても壁の破壊と排気ガスを撒きながら走行する2サイクル・トラバントの映像報道が印象的。またスポーツの面では不思議に活躍する選手が多かったこともある。
本作品は英国作家によるもので、必ずしも当時の東独の状況を完璧に映し出しているかは不明だが、非常に興味深い物語経験であり、ミステリとしては一般的な評価方法を使うと2/5☆くらいかと思うがドイツ作家の手になるものももう少し読んでみたいという心境にさせるに十分な読み応え。
<壁>の近くで発見された少女の無残に損壊された遺体。シュタージ(国家保安省)の関与が推測される状況の中で、当のシュタージ所属イェーガー中佐から捜査を命じられたクリポ(刑事警察)所属のミュラー中尉の活躍。
■ 誉田哲也「プラージュ」幻冬舎文庫 |
Date: 2019-05-20 (Mon) |
再放送で星野源主演ドラマの方に先に遭遇。
水戸行きの深夜バスの中で眠れないままにぱらぱらとページを追っていた中で石田ゆり子のイメージが浮かんできた。ん?どこかで見たようなおはなしだな〜と。で 結局一睡もせずに読了し水戸駅に到着。
前科を持つ者が寄り合って居住するハウスの話。ではなかった。誉田作品だものね。
■ クイーン「エラリー・クイーンの冒険」創元推理文庫 |
Date: 2019-05-16 (Thu) |
新鮮な気持ちで再読。11編のミステリ・アラカルト。
「見えない恋人の冒険」から埋葬の概念を少し調べてみた。諸外国では依然として宗教上の理由(キリスト教、イスラム教etc)その他からも火葬ではなく埋葬が主流。日本では厳密には法律で埋葬が禁止されている訳ではないが同様に仏教の思想が主流で、ほぼ100%が火葬となっている。また埋葬地の管理面から条例で定めて埋葬を受け付けていない例がほとんどらしい。
日本の様に自治体が共同墓地を作ろうとしても予定地地元の了解が得られず難航するなんて諸外国からは想像も出来ないことなのかもしれない。国土の広さが大きく影響して来るわけだ。
この点は翻訳ミステリやゾンビの活躍する作品を読む場合に念頭においておかないと勘違いを起こしてしまう。死に化粧はエンバーミングで諸外国では高度な技術が維持されている。我が国では火葬までのつかの間のものでしかないが、死者をおくる葬儀の中で徐々に手間をかける傾向にあるらしい。
■ 垣根涼介「光秀の定理」角川文庫 |
Date: 2019-05-12 (Sun) |
表題に惹かれて読んでみる気になった。光秀と定理のどこに関連性があるのか。>> 面白かった、確率ね〜
■ クイーン「災厄の町」創元推理文庫 |
Date: 2019-05-12 (Sun) |
町の中心部の見取り図が付いている。名作の誉れ高い作品なのであらすじはおいといて全体的な印象を。
現代のミステリ作品と比較すると顕著なのは時間経過の冗長に感じられるところ。だからこそ本格ものとして楽しむ為には十分なエッセンスがより明確に浮かび上がってくるのだが。
■ 佐藤正午「月の満ち欠け」岩波書店 |
Date: 2019-05-12 (Sun) |
上京して東京ステーションホテル2Fで会ったのは、七歳の小学生にしては、椅子で足を組んで上体が前のめりになったその姿勢は大人の女じみているが、顔つきはどこにでもいる子供だった。だが・・・
小説家が作品名を考える時、どんな発想に基づいでつけるのか想像してみたが、本篇だけはまったく考えが及ばない。読み込み不足なんだろうか。強いて言えば繰り返し、うーん判らない。
■ 加納朋子「トオリヌケキンシ」文芸春秋 |
Date: 2019-05-12 (Sun) |
下校途中に通り抜け禁止の表示を無視して、隘路というかほぼ隙間に近い路地に足を踏み入れてみると、同級の女の子とおばあさんに出会った、という表題作を始めとする短編集。
■ 樋口有介「あなたの隣にいる時間」文藝春秋 |
Date: 2019-05-10 (Fri) |
邪悪な人間は一人も出てこない。これはいつもの通り。そして犯罪は発生するが本作では死人も出てこない。
■ 小林泰三「アリス殺し」創元推理文庫 |
Date: 2019-05-10 (Fri) |
不思議の国のアリスのような変な夢を見るようになった栗栖川亜理。どうも毎日似たような夢ばかりで首を捻っているとハンプティダンプティが殺されて・・ というお話。
交わされる会話は掛け合い漫才もどきで遅々として進まないが、油断してると突然に物語は進展、ギャグまみれの邪悪な面々が躍動しまくってグロ有り、エロなしで終末へ。感情的な側面をまったく排除した理詰めで小気味のいい、でも後味少し悪めの出来合い。堪能
■ 小林泰三「大きな森の小さな密室」創元推理文庫 |
Date: 2019-05-04 (Sat) |
販促用の文庫カバーが旧カバーの上に掛けられていたので気づかづにまた買ってしまった。大前壽生さんの新イラストの所為だ、同時購入の新作『アリス殺し』は従来の丹地陽子さんなのに・・・
”ミステリのパロディと表現したら近いか。お馴染み七つのテーマの謎に個性的な探偵達が挑む”と前回は記述している。
いかにもこの作者らしい作品群。いわゆるボケと突っ込みのコント芸を織り交ぜながらいわゆるミステリの典型を7つ。
密室、倒叙、安楽椅子・・と続き最後は日常の謎で締めくくり。とはいいながらこの作者のこと一筋縄ではいかない。