第3話 王子と宰相
「いいか、よおく聞いておけよ。あのナーセットの宰相は油断するな。外面若くてヤワそうに見えるが、この大陸で彼を上回る政治力を持つ男はいない」
「敵を誉めてるんですか…王子?」
18歳の青年王子の顔がムッと子供のように歪む。
「違うっ。注意だ、注意。私は何度もヤツを甘く見て、痛い目にあってきた。正直、お前とヤツを取り換えてみたいものだ。とにかく、ヤツをなめるな。えらい目にあうぞ」
「はいはい。…分かりました。セルシュの宰相の私は、ナーセットのサリューとかいう男に劣るということですね」
「そういうことだ」
「ぐ…」
断言されて、男は絶句した。
40をとおに超えた、熟年宰相は、顔を真赤にした。セルシュの王子ミアムの言葉はあまりに冷静だった。
「でも…」
「いいから…。目でみろ。頭で考えろ。サリューは、才能を発揮して、まだ一年にも満たない。それでも、大国の目のある輩は、彼が危険人物であることを、嫌というほど分かっている。だから…この大陸随一の天才宰相…と、密やかに囁かれているのだぞ」
「初耳ですね…」
「それは、ラセト、お前が見くびっているからだ。今まで目にも入ってなかったからだろう。…言っておくが、この間のほとんど決まりかけていたナーセット王女と私の結婚…あれをぶち壊したのも、彼だ。我が国の政治は、お前と私のほぼ二人が王の補佐として活躍している。だが、…ナーセットは彼一人。それで我がセルシュを始め、大国の脅威をしのいでいる…この力、分かるか…?」
ミアムは、ちら…と、会見の席について、ナーセット側をのぞいた。
まだ来ていない。しかし、そのうち現れるだろう。
「本当は、私一人で来るつもりだった。だが、お前にも、サリューという男をみせてやりたくてな。あれが、私達の敵だ」
扉が開いた先を、ミアムはラセトに示した…。
「アーシャ様。誉めて、誉めて、称えていいですよ。…私を」
「ああ、すごかったわね。ご苦労だったわ、サリュー」
疲れきった顔のアーシャは、棒読みのごとく鷹揚のない台詞を口にした。
「あれが、セルシュの片腕と言われるラセト宰相…、なかなか注意のいる人でしたが、私を二人で攻撃しようとしてもね…」
「何で、五時間もかかるのよお…。三人とも夢中で気付いてくれないし」
「私は気付いていましたよ。さりげなく、休みをいれていたじゃないですか」
ソファにぐたりとのびている王女に、合図する。
「でも長すぎたの。…疲れたわ。結局、しっぽ巻いて帰っちゃったわね。あの中年宰相、何だかサリューを甘くみてたようだけど」
「私が若すぎるからでしょう。あ…、アーシャ、セルシュの王子から贈り物もらったのでしょう、開けましたか?」
「ただの宝石よ」
眠そうな声。何だか、サリューの顔と声が遠くに見えたり聞こえたり…。
「こんな場所で眠ったらいけませんよ。私がベッドまで運ばなきゃならないじゃないですか。アーシャ様…、まだ夜じゃないんですよ? こら…、…アーシャ、…いくら疲れたからって、…ねえ、…ほら…。ああ、駄目だ」
ため息をつくサリュー。苦笑まじりだ。彼は、大人しくアーシャを抱き上げた。
「いつまで続くんでしょうかね…、こんな時間…」
第3話 end
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