短編:snow tale
「雪が降ってきたわね」
手のひらを、天に向けたアーシャには、白く積もるものは降りてこない。
後ろの方から、早く中に入られては、と補佐役達の声が飛んでくるが気にしない。背の高い身体が、アーシャを包む。雪の冷たい粒が、なかなか当たらないのは、そのせい。あまり動くと危ないですよ、と、言葉を添えながらも、アーシャの自由にさせてくれる。灰色の空から白くふんわりしたものが、たくさん降りてくる。雪の中に、しばしの間、ただずんでいた。
「……やはり、降ろして欲しいわ」
「そうすると、裸足ですが」
「遠見台に出る気はなかったんだもの。それに、サリューが私を抱いていると、雪が、あんまり当たらないのよ」
無茶なわがまま、と、後ろからは、アーシャ様を凍死させないでくださいよ、と声が掛かる。小さな身体が、密着していると、震えているのは、嫌でも感じる。すぐにでも、室内に戻した方がいいのは、分かっているけれども、それでは、別の苦情がサリューに降りかかる。
「このままではいけませんか」
いつになく、残念そうな顔をするアーシャに、サリューは疑問を覚えた。
なんだろう、この、すごくがっかりした表情は。
心底、残念がっている。
「あの、……アーシャが降ろして欲しい理由って」
「教えない」
「でも……」
サリューがねばると、アーシャが、小さな声でつたえた。
「だって、……サリューの頭、今、雪がいっぱいかぶってるみたいだから、アーシャがはらってあげるのよ」
相変わらず、室内からは、野次の声。それを、ものともせず、外の時間は、気候にも負けず、ゆるやかに流れている。
「……抱いたままでも、はらえませんかね……?」
「ちょっと難しいわね」
「じゃ、このままで、いいですよ」
「そんな……」
ぎゅっと、さっきまでとは比べ物にならない力で抱き締められる。
「風邪引くわよ」
「王女を、病気にするよりはいいですから」
サリューが、顔の向きを変えたところから、アーシャの頭に雪が当たる。
冷たくて、……ぶるっと震えた。
これは、綺麗だけれど、ずっと、大変なものだ……守ってくれる人には。
「中へ、入りましょ、ミル達が心配しているわ」
「もう少しだけ」
「………?」
雪の中の恋人達は、ぴったりとくっついている。
刻がとまったように。
アーシャは、もう少しだけならいいかな、と、サリューの意図を理解した。
「さむい、けど、……あったかい」
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