雄猫の尿は、骨盤尿道から陰茎尿道を経て尿道口へと排出されます。骨盤尿道が内径3mmほどあるのに対して、陰茎尿道は内径が1mmほどしかなく、また多少蛇行しています。このため尿中にストラバイトなどの結晶が存在すると陰茎尿道が閉塞してしまうことがあります。尿道が閉塞すると排尿することができなくなり、雄猫は長時間トイレで排尿しようといきみ続け、ときには苦鳴を発したりします。尿道閉塞が長時間におよぶと尿毒症をおこし、対処が遅れると死亡します。
このように尿道閉塞をおこした場合は、まず尿道に詰まった結晶を取り除き、つぎに尿道カテーテルを通して尿を排出した後に膀胱内を乳酸リンゲルなどで繰り返し洗浄します。その後は尿道の炎症が治まるまで3日ほど、尿道カテーテルを入れたままにし、同時に食餌療法を開始します。
多くの雄猫は、こうした処置と食餌療法で症状は改善します。しかし療法食を食べてくれない場合や、食餌療法をしていても再発してしまう場合は、外科手術(会陰尿道瘻術)をすることになります。
会陰尿道瘻術とは、狭い陰茎尿道部分を切り取り、比較的広い骨盤尿道から直接排尿できるように尿路を作り替えてしまう手術です。1971年にWilson&Harrisonが発表した手術方法が世界的には有名ですが、この方法では術後合併症の発生も比較的多いとされており、それを改善するための変法も報告されています。
当院の手術方法は、1984年に術式を考案し最初の一例を手術して以来ずっと実施している方法で、1982年に山村らが報告した方法を改良したオリジナル術式です。多数の症例に対する手術実績とその後の長期間にわたる経過観察では、良好な治療成績が得られています。(第17回中部小動物臨床研究発表会、平成20年度日本小動物獣医学会(近畿)にて報告、JVM獣医畜産新報 2009年10月号に報告掲載)
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術式解説
1.
最初に、陰嚢を中心として、肛門の下側から包皮の上側部分をの皮膚を切り取ります。この切皮ラインは、この術式独特の物です。
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2.
包皮粘膜を陰茎から剥離して(左図)、包皮と包皮粘膜を筒状のまま温存します(右図)。 |
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3.
尿道背側を骨盤尿道という部部分まで切開し、十分な開口を確保してから陰茎を切除します(左図)。
尿道と包皮粘膜を接合した部分が狭窄するのを防ぐため、尿道開口部は、左右に開いた状態で縫合固定します(右図)。
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4.
包皮と骨盤尿道を、粘膜が向き合うようにして単純結節縫合で接合します。縫合は、腹側6時の位置から開始して1.5〜2.0mm間隔で左右交互に進めます(上左図)。
さらにその外側に、3〜4mm間隔で単純結節縫合を加えます(上右図)。全周を縫合した後、包皮側から生理食塩注射液をシリンジで圧入して縫合部から漏れがないことを確認します(下写真)。
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5.
尿道と包皮粘膜を接合した部分の周囲組織に単純結節縫合を施して死腔(皮下の隙間)を無くし(上左写真)、次いで皮下埋没減張縫合を施して皮膚を寄せます(上右写真)。
皮膚を単純結節縫合で閉じます。
尿道と包皮の接合部が落ち着くまでの間、尿から保護するために尿道カテーテルを留置します。
この尿道カテーテルは手術後5〜7日間留置します。 |

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手術部位の外貌写真
上左写真:手術後10日(抜糸直後)
上右写真:手術後19日
下左写真:手術後50日
下右写真:手術後3843日(10年半)。
もともと排尿に関わる部位である包皮口をそのまま利用するため、手術後の外貌も自然で違和感のないものとなります。
尿の流出が自然な形となるために、尿垂れによる皮膚炎の発生も抑えられ、患猫のQOL(生活の質)は良好なものとなります。 |
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