朝日新聞滋賀版
昭和36年7月7日
辺地教育の実態をカメラに
政所小茨川分校で法政大学生
施設充実へ陰の協力
生活なども真剣にメモ
教育の機会均等が叫ばれ、恵まれない辺地の教育施設の充実が大きな世論となってきた。そこで辺地教育充実のため朝日新聞では「教育施設助成会」=東京本社内=をつくり全国的な募金運動を展開しているがすでに県下では約七十の小、中学校のPTAも参加している。ところで法政大学ではカメラ部員約八十人が夏休みを利用して全国八ヵ所の辺地学校を訪れ、辺地教育の実態をカメラにおさめ都会の人たちに認識してもらうことによって、この運動に協力しようとその一班の同校四年生○○哲○君(21)=福岡市出身=ら六人が五日午後永源寺町茨川、政所小学校茨川分校を訪れた。
■ 一行はこの日午前七時二十分近鉄八日市駅についた。折からのドシャ降りのなかを部員達は一人平均約20キロものリュックを背負って降り立った。水、キャベツ、キュウリ、玉ネギなどの野菜を背負って荷物はさらに増えた。バスで永源寺町役場へ。ここで同町役場好意のトラックで政所小学校につき、高田校長と会ったのち、いよいよ目的地の茨川分校へ向かった。林道とは名のみでまったくの河原。それも今度の豪雨でいたるところに土砂くずれ。途中の折戸橋は橋の中央に大きな穴があいていた。あぶない橋を渡って折戸トンネルをすぎるともう通れない。一行はここから茨川地区まで約五キロを歩いた。学生たちは「こんな奥地に住民がいるとは思えない」といいながら午後二時すぎついに茨川地区にたどりついた。
おみやげに大喜び
■ 茨川は戸数八戸、人口二十八人の部落で、小さい丘の上にかたまっている。分校は河原ぞいで先生一人、児童五人という県下一小さい学級。地区の出身で三十一年も勤務する石井一正教諭(五〇)が一人。東京からくる大学生のおにいさんを待っていた児童たちは○○君らからボール、絵本、鉛筆、鉛筆削り、さらに東京の名所絵はがきなどのおみやげをもらって大喜び。「同級生がいないので競争意識が乏しく、また教材不足で子どもに意欲がない。しかし読み書きでは本校に勝るとも劣らない」という石井先生の説明をきいた学生たちは五年前、NHKから贈られたラジオと、二十余年もたつというオルガン、二十余冊の図書だけが教材の教室にびっくり。そのうえ無配地区だけに新聞雑誌を取っている人は一人もいないのを知って辺地教育の現実をまざまざとみせつけられた表情だった。
検診は二ヵ月に一度
■ 地区の二十八人が児童以下と中年、老人でしめ青壮年は一人もいないことや二ヵ月に一度検診に訪れる校医。水田はなく一〜三アールの畑地で野菜を作り、全部が炭焼きで暮らしを立てているなど生活の実態や、歴史、風俗の説明を学生らしい態度で真剣にメモしていた。一行は十一日まで分校付近の河原でテント生活をしながら、こどもたちの生活、労働、こどもと先生の人間的な関係、また地区の人たちの生活などをカメラにおさめ、来月二十五日から東京西武百貨店で、全国の八地区の辺地学校の実態とともに展示されることになっている。
上記の記事はマスコミに顔が利く末岡氏に朝日新聞から直接取り寄せてもらったものである。ただしFAX送信なので細かい字が潰れており、HPに転記する時点で文脈から推測した文字もある。学生の名は文脈と関係ないので判読できなかった。
なお近鉄八日市駅とあるのは近江鉄道の略と思われる。 戻る