善右ェ門谷から藤原岳 00.11.5
藤原岳天狗岩から南方を見ると、眼下に膨大な空間が展開されている。そこが善右ェ門谷の領空である。運が良ければイヌワシの飛翔を見ることができる場所である。今日はそこから藤原岳へ登ってみようという計画。果たしてもくろみ通り事が運ぶかどうか。(写真の説明はマウスポインターでご覧下さい)
天気予報は雨だったが、朝から好天、ラッキー。マヨネコさんから青川渓谷のヒルはまだ元気であるという情報を得て、茨川まで車で行くことにした。いつもうんざりするつづら折りのR421も、朝日を受けて輝く紅葉の山肌が映えて苦にならない。石榑峠を越えるとますます天気が良くなってきた。遠景は多少靄がかかっているが、雨に比べたら雲泥の差である。
オフロードの茨川林道に入ると、茶屋川両岸の紅葉が美しい。うっかり見とれていると川に転落してしまいそうだ。鉄塔を頂いたヒキノの尾根筋が朝日を反射して黄金色に光っている。それにしても長い林道だ。約10KMある。茨川の人々は何故このような山奥に集落を成したのだろうか。
集落跡に駐車して、身支度を整え出発したのは9時1分。又川のときと同じだ。名大ワンゲル部の小屋横を通って左岸の道を進む。やがて川に下りると水量が多くて渡れない。仕方なく靴を脱ぐ。足を拭いて、次の渡渉に備えて靴下は履かずに歩く。斜面のトラバース道は悪いし、すぐ無くなるので河原を歩くほうが開放感があっていい。前回は水に入らず歩きとおしたが今日はダメである。面倒になってついに水の中を歩く。さほど冷たくない。一陣の風が吹くと、はらはらと落ち葉が舞い降りて川面を染めて流れていく。
9:44蛇谷出合。ここを真っ直ぐ行くと蛇谷に入ってしまう。左が本流である。そのあと右へ急カーブする所に平地があって石組みが二つあった。少し進むと前方に天狗岩が姿を現した。高度感にあふれている。咽が渇いたので、左の小支流から黒い岩の上をほとばしる清冽な水を汲んで飲む。うまい。10:08善右ェ門谷出合着。しかし真っ直ぐ進む。ここまで来たら三筋の滝を拝みたい。
滝は轟音を立てて落ちていたが、三筋ではない。ここで休憩。バナナを一本食べる。巨岩を中心にして広場になっており、絶好の休息場である。滝下は標高650mであり、覚えておくと高度計の修正に便利である。
10:27 出合まで戻って善右ェ門谷に入る。初めは緩やかな傾斜で、河原も大きく開けた明るい谷だ。もう水の中を歩く必要も無いので、石に腰掛けて靴の水を切り靴下を履く。靴紐をきりりと締めて、これで足元が固まった。しかし靴の水分がじんわりと靴下を湿らせてくる。これは仕方ない。
700m地点で、天狗岩方面から雪崩のように膨大な岩くずが押し出している。坂本谷が崩壊したときの大雨のせいかもしれない。
やがて谷は狭まって小滝が続き、咽元が絞られたところで多段の斜滝となった。めぼしい滝はここだけである。左から高巻くがトラバースが危うい。降り立った所は石灰岩の伏流で、水は無くなっていた。少し登ってから、慌ててひき返す。水の補給を忘れていた。滝上まで降りて、岩の下から染み出すこの谷の一番絞りを1リットル頂く。
また谷は広がり苔むした石灰岩の転がる斜面となった。カエデの類や朴の落葉が白い岩肌に彩りを添えている。
860m地点で顕著な二俣。地形図を出す。ぴったり地図のとおりで、左俣は天狗岩から東方の最低鞍部に達する谷だ。遠回りになるので右俣にコースを取る。沢コースは詰めが一仕事だ。950m地点から見上げるような急斜面となる。手足を使っての石灰岩の岩登りだ。ただ歩くより面白い。
それも束の間で1000mからゆるくなり、1050mで傾斜は無くなった。西尾根バリエーションルートとの合流点だ。AM11:42善右ェ門谷遡行終了。北にP1128の丸い頭が迫っている。展望台は南にあるはずだが薮で見えない。
どうせ頂上は人がたくさんいるだろうから、ここで昼食とする。好物の焼きおにぎりと、テルモスの湯でチキンラーメンだ。サラダや果物は無いが、一食ぐらいビタミンを摂らなくても死にはしないだろう。赤く染まった一本のもみじを見ながらのお昼はおいしいなあ。
12:10発。南へ背丈を越える笹を漕いでいくと、登山道に出た。食後の登りはこたえる。12:22展望台着。人は十数人。ここは1120mの標柱があるが、まちがいなく1140mある。アンテナを持ち込んだアマ無線家が、山頂にいる間中、大声でしゃべりまくっていた。うるさくてケータイより迷惑だ。
カスミがかかっているが、遠く御在所岳まで見通せる。昨夜の天気予報は大うそだった。荷物はすべて防水のスタッフバッグに入れ、レイングローブや傘まで持ってきたが、すべて無駄になった。でも嬉しい。
天狗岩や御池岳が迫力だ。天狗堂は何処から見ても姿がよろしい。それにしても今の時期にしては異常に暖かい。無線氏がいなかったら、眠ってしまいそうな陽気である。
12:43 治田峠へ向かって出発。この道は一般道だが利用する人は少ない。いい所なんだがなあ。特に急降下のあとのトラバース道は素晴らしい。紅葉の樹間から見え隠れする天狗岩や御池岳を眺めての水平歩きはこのコースの白眉である。
1:34 蛇谷分岐着。ここは平らになっているので一休み。急いで帰るのももったいない。おやつを食べてゆっくりする。
蛇谷へ向かって下降すると、テープはあるが道型は全く無い。もう廃道寸前か。やがてテープを失ったが、別に谷へ降りていくだけだから何処を通ってもいい。680m位のところで谷と合流。左右へ飛んで下っていくが、両岸の踏み跡はすぐ消える。
この谷も昔鉱山があったと聞く。石組み、ビンや鍋、コクイ谷と同じ鉱石クズなどがある。水量が増えてきたので、水中に入る。どうせ茶屋川で濡れるので同じ事だ。
2:42出合着。往路と同じ所を下る。茨川の神社に寄って、無事帰還の御礼をする。鳥居は比較的新しく、お供え物もあった。3:17 車へ到着。
河原へ座り込んで靴を洗う。靴下を脱いだら足の裏がふやけて、シワシワになっていた。今日は水陸両用でよく頑張った足を丁寧に拭いて、乾いた靴下と履きかえる。あー、気持ちいい。
帰途の林道では太尾、ミズナシの山腹が夕日に映えて綺麗だ。この時期、たまに対向車があるのでブラインドカーブでは要注意である。R421を登っていくと、朝と反対に竜ヶ岳近江側が残照を浴びて、紅葉の山肌が燃えている。素晴らしくて、何度も車をビューポイントで停める。三脚を立てたカメラマンもいる。HPの小さな写真では表現できないのが残念だ。
まあ人それぞれだろうが、やはり鈴鹿は秋と冬がベストだと思った次第。
MEMO
善右ェ門谷は水量が少ないので沢登り的面白さは殆ど無いが、それゆえに藤原岳への登路として充分に使える。藤原岳は花の季節になると聖宝寺道、大貝戸道とも大変な人出で、渋滞を引き起こす。
山に来てまで渋滞はイヤだという人は西尾根あるいはこの善右ェ門谷を登ってみるといいだろう。ガイドブックに載っていないので誰もいない。今日も山頂以外は無人の野を行く一人旅だった。上部は石灰岩なので同じ花が咲くと思うが、保証の限りではない。
ところで善右ェ門って誰やろ?