コクイ谷から御在所岳西峰 01.05.06
御在所岳西峰というのは望湖台と長者池の間から北西に伸びる尾根上の、1150mの等高線に囲まれた細長いピークである。この言い方が正しいかどうか私は知らない。三角点を本峰とすれば西峰であるが、山上公園を東峰として三角点峰を西峰という言い方もできるのでややこしい。
とりあえず今回は勝手にツチノコ山と呼ぶ。尾根上の1050mの等高線を囲むと1066m標高点を目玉とするツチノコに見えるからである。「鈴鹿の山と谷」は名前の通り尾根には冷淡で、この場所には触れていない。
この尾根は雨乞岳やイブネから見ると素晴らしい盛り上がりを見せ、良く目立つ。上水晶谷へ落ち込む長大な尾根で、以前から目を付けていた所である。朝明からやるか武平峠からやるか迷ったが、伊勢谷から根の平峠の道は飽きたので武平峠を起点とする。
8:00にトンネル出口の駐車場を出発。雨乞岳へ向かう。植林地を少し登れば、だいたい900mラインのトラバースの道は久しぶりで歩く。この間御池岳にいなかったウグイスが鳴いている。雨乞道と別れ、沢谷を下降して滝を巻いてコクイ谷へ降り立つ。この辺り道が悪い。倒木がかなりあり、その根っこにまだイワウチワが咲いていた。ミツバツツジがちらほら。
あくまで透明な水は表面に縮みのような皺を寄せてサラサラとながれている。ここからしばらく竿を出して渓流釣りを楽しむ。たぶん連休に攻められているし、釣り下りだから期待はできない。最初全然アタリが無かったが三つ目のポイントでアマゴがかかった。その下で真っ黒な魚がかかり、よく見たらイワナだった。この辺りまだ錆びているのかな。両方ともリリース。
竿を持ちながら足を濡らさずに川どおしで歩くのは容易ではない。右岸の飯場跡台地がある所まで来て、面倒になって竿をたたむ。この台地には生活用具が散乱し、ネコノメソウが咲いていた。錆びたトロッコの車輪が放置されている。すぐ先の右岸から落ちる黒壁の滝でポリタンクに水を汲む。
最初コクイ谷出合から取り付こうと思っていたが、地図を見てここから真東に尾根を登ってツチノコの目玉(P1066)に登った方が早いと判断。斜面を上がると崩壊止めのような石組みが数段あった。これは知らなかった。石組みの中には縦に深い穴が幾つも開いている。炭窯にしては深すぎる。なんだろう。
尾根の傾斜は急だ。左手には深い谷があり、あまり近づくと怖い。シャクナゲが密生してどうにもならない悪タレ尾根だ。まだ花は咲いていない。さらに木につかまって登ると一本だけ咲いていたので写真を撮る。まだ咲き初めなので真っ赤である。
いい加減くたびれた所で古い道型に出会う。なんだこれは、何の用でこんな所を登ったのだろう。確かに斜面をカットした人のつけた道だ。その上に点々と獣の足跡が付いている。私のようにバカみたいに直登せず、うまい具合に付いているのでそれをたどる。
10:35、935m地点で倒木に腰掛けて一服。左の谷は涸れ沢になってしまった。静かな山中でタバコを吹かしているとまさに山の懐に抱かれているような気がする。腰を上げて、更に進むと道は沢の源頭に吸収されて無くなってしまった。そこはガレで登れないので、再び右手の樹林の尾根に這い上がった。
急登に苦しんでいるうちに前方が明るくなってきた。ようやく平らな所に出た。ちょうど1,000mである。向こう側は開けているがガスで展望は全く無い。ここならGPSが使えそうなので測地してみた。なんたること、尾根を一本間違えている。というより、谷を一本数え違えたのである。はやく取り付きすぎた。イワナにかまけている内に、肝心の仕事をしくじってしまった。
こうなったら目玉は諦めてツチノコ山に直登するしかない。またシャクナゲを漕いで東へ登る。そのうちシャクナゲは無くなって、まばらな樹林帯となり、適当に木を避けてジグザグに登る。ガサッと音がして白いものがすぐ消えた。鹿だろう。近藤氏の「見しやそれとも分かぬまに・・・鹿の尻影」の歌が思い出される。
前方が明るくなって11:24 草原地帯に出た。高度計から見てどうやらツチノコ山に着いたらしい。測地すると1150mの北端である。 ここはまるで仙ヶ岳の御所平のようだ。涸れた草地でここだけ木がない。西面が大きく開けているが、ガスで全く展望が無い。惜しいなあ。七人山や雨乞岳が見えるはずなんだがなあ。ともかく昼食にもってこいの場所である。
コッヘルに滝で汲んできた水を入れたら、細かいゴミがいっぱい入っていた。まあ、別に死ぬような事も無いだろう。食事をしながらガスの晴れ間を待つ。そのうちかろうじて山が見え出した。眼下に見えるピークは方角からして沢谷と魚止め谷の間のピークか?その右手に ぼんやりと七人山と雨乞岳の裾が見えるが、それ以上晴れなかった。
ここはテープがないと喜んでいたら、離れた所に紫の紐が結んであった。また彼か。食後のだるい体で御在所岳へ向かう。紫の紐がたくさんある。ツチノコ山に木が無いのは北端だけで、あとは潅木に覆われている。黄色いアブラチャン(タンコウバイ?)が咲いて美しい。ピークはすぐ終わり下降にかかると眼前に望湖台が聳えていた。何であんなに高いの?100mも落差は無いはずだから錯覚だろう。もう御在所岳の喧騒が聞こえてくる。
望湖台の下や左手の尾根にはアカヤシオのピンクが散りばめられて、えもいわれぬ美しさ。もう少し晴れていたらなあ。登りの笹に手を焼くころアカヤシオが眼前に。地面には青が美しいリンドウの花。笹をひと漕ぎすると遊歩道に出た。まだ12時40分か。目玉までバックしていても良かったな。12:52下降。
御岳権現下の斜面はアカヤシオ満開。一息入れてから遊歩道を歩き、峠道を下降。もうゲップが出るほどのアカヤシオだ。この道は鎌ヶ岳の雄姿が拝める所だが、今日はぼんやり。19分で武平峠まで降りてしまった。あっけないこと。ツチノコの目玉とその南の鞍部は、天気のいい日の楽しみとしておこう。