御在所藤内沢 02.02.10
雪が少ないので雨乞岳に行こうかとも思ったが、寒波が来て冷え込むとの予想に藤内沢に変更。朝起きるとさほどの冷え込みでもなく氷も張っていない。用意もしてあるので予定通り出発。ゲートに着くと満車だ。雪も無く全然寒くない。藤内沢は岩石が露出しているかもと、いやな予感がする。8:30用意をして歩き始める。舗装路を歩くのは疲れる。8:45登山口。
裏道を黙々と歩く。鉄橋の下の淵で小さなアマゴがジャンプしている。水温が高いのだろう。登山道も雪が無い。暑くなってきて手袋をはずす。日向小屋の温度計は0度。ホンマかいな。途中で藤内小屋のご主人がポリタンクを5個も背負って降りてくるのとすれ違った。あれを満タンにしてまた登るのかと思ってびっくりする。盛況の小屋で一息入れる。9:13。
小屋から少し登っていくと雪が出てきた。兎の耳付近からちょっと雪山らしくなる。昨夜少し降ったようだ。藤内沢分岐には「ロッククライマー以外は危険です。立ち入らないで下さい」と言う威圧的な看板。いつも思うけど、なんかいやな感じ。「トーシローはさっさと帰れ」と聞こえる。しかし3ルンゼに限りザイル無しでも行けてしまうのである。むろんアイゼンは必携。
藤内沢は毎年入っているが、やはり今年は雪が少ない。と言っても必要最低限はある。テストストーンまで進むと藤内滝の氷がドーンと目に入いる。井上陽水「氷の世界」。小雪が舞いだして冷えてきた。やはり時期は時期だ。ここでアイゼンを装着し、フリースからヤッケに着替える。ピッケルもザックから外し、完全装備。ちょっと写真を撮りに1ルンゼの氷瀑まで登ることにする。久しぶりに冬山らしい所へ来て、嬉しくなって滝手前の氷の斜面にピックを突き立て、アイゼンを蹴り込んで登る。あまり強く打ち込むとピックが抜けなくなる。写真を撮ってまた元に戻る。
藤内滝はすぐに巻かず、滝に近づいてから右岸の急斜面に取り付く。直径30cm位の氷柱が数本立っている。ええなー、やっぱしここは。パーティーやら夫婦連れやらソロやら結構人がいる。巻き道に上がるとすぐ氷と岩のミックスの壁となる。ここを夫婦の奥さんの方がどうしても登れなくて、渋滞を引き起こす。必死にもがいているが埒があかない。こんなとき早く行きたいからと、すぐ下で待っていてはダメである。もんどりうって上から落ちてきたら、アイゼンの24本爪キックを喰らって大怪我をするからだ。ご主人がアーせいコーせいと上から世話を焼いていたが、最後は引っ張り上げてもらっていた。谷を挟んだ右手には前尾根のパーティーが指呼の間に見える。
前尾根フランケ下の氷柱はいつもよりやや小さめ。すぐの蝙蝠滝では初心者連れのリーダーがザイルを出していたので、先に行かせてもらう。打ち込み一発と前爪で攀じ登る。この後の登りも相当急だ。20cm位の雪を掻き分けると下は氷になっている。夫婦がアンザイレンで登っていて邪魔なので、抜かせてもらう。いったんトレースが消えてしまった。昨夜の雪のせいか。全く固まらないサラサラの雪で、この前の本谷のシャーベットとは大違い。やはり寒い時に来ないとダメだ。1000m付近から右の前尾根P2(ヤグラ)方向へ入ってみたが、デブリで潜って歩けなかったのでもとのコースに戻る。
3ルンゼまで雪壁の連続。なんか例年より斜度が上がった様な気がする。そんなことはあるはず無いが積雪量が少なく、トレースの階段ができなくて滑りやすいせいだろうか。やがて上部に見事な樹氷が見え出し、潅木の間を上っていくと鋸岩。視界が開けると同時に、花咲か爺さんがありったけの灰をぶちまけたような満開の樹氷が視界を占領する。右手には見事な階段状の蒼い氷瀑。素晴らしい!とても写真では表現できない。今日の氷は出来がいい。気温はぐんと下がり、下部で濡れた手袋やピッケルのリストバンドがバリバリに凍りついた。朝の下界からはとても想像のつかない世界だ。
今日はスクールが無いらしく、おじさんが一人固定ロープを張ってアイスクライミング。ちょうど降りてきたところらしく、我々が氷を見ていたらアイスバイルとユマールを貸しましょうかと言ってくれた。固定ロープにユマールなら誰でも安心して登れる。しかし今日は単独なのでハーネスを持ってこなかったゆえご遠慮申し上げた。元気のいいおねえさんが道具を借りてチャレンジ。私は左の傾斜が緩い所を登って1段目のテラスに先回りして上から写真を撮ってみた。さらに終了点まで登りかけたが、どうも確保が無いと気持ち悪いので途中でやめた。バカな事をして降りるのに難儀した。垂直の壁で苦闘するおねえさんを横からパチリ。
ここから樹林の中の急斜面を登る。前のパーティーの女性陣がずるずる滑ってなかなか登れない。雪質のせいもあるが二歩進んでは一歩ずり落ちてくる。まあしかし、おばさん達が連れられてとは言え、ここへ来る根性は見上げたものだ。うちの細君にもこのぐらいの根性があればと思う。じきに裏道取り付きの東へ飛び出す。遊んでいたらもう時間はお昼になっていた。山上公園は行ってもしょうがないので樹林の中にツェルトを張ってランチタイムとする。
もうアイゼンは用が無いのでしまいこんで、コンロやコッヘルを出す。ツェルトにビシビシと雪粒が当たってくる。天気が悪化してきたようだ。中は快適。ロープに吊るしてあるだけなので風にあおられるが、湯気を追い出すのにちょうど良い。ラーメンを食べた後、残ったスープに「サトーの御飯」とコンビーフを入れて再び火をつける。この怪しげな雑炊けっこう美味い。
帰りは国見尾根に回ろうと思ったがツェルトから出てみるとホワイトアウト状態。根性が無いのであっさり裏道に変更。細かい雪に叩かれながら下山する。ガスの中にぼんやり見える前尾根を眺めながら高度を下げると、見る見る雪が減ってきた。途中で珍しく上ってくる外人さんと遭遇。「この上、アイゼンが要りますか?」と流暢な日本語で聞かれた。降りてくる人の多くがアイゼンを履いているので不安になったのだろう。「このコースは上までアイゼンは要りませんよ」と答えておいた。かえって歩きにくいだけだと思うがどうだろう。
藤内小屋の人にポリタンクを五個もいっぺんにボッカするのですかと尋ねたら、上げるときは二個づつだそうだ。スカイラインの出合で蒼滝方面の橋が工事で通れないので困っている登山者に出会う。豊橋から電車できた由。袖すり合うも他生の縁、駅まで車で送ってあげた。