藤内沢3ルンゼ 03.01.26
同行者 なっきいさん、通風山さん、隊長
土曜日に仕事場から双眼鏡でゴマ粒のような藤内沢の登山者を確認。動いてないようでいて、じっと見ているとのろのろと少しづつ位置が変わっていく。対してスキー場のスキーヤーは颯爽と滑降してくるのが手に取るようだ。若い人に地味な登山の人気が無いのもうなずける。ともかくラッセルの必要が無い事は確認できた。
藤内沢は毎冬行くが、一人で行くのも飽きたのでHP仲間数人に声を掛け、都合のよかった上記3人の方々と同行した。今日のメンバーは電脳仮想空間で知り合ったサイバーフレンドである。と言ってもサイボーグやクローン人間ではなく、生身の中年子持ちシシャモである。子持ちであると共にHP持ちであり、お金持ちである(管理人を除く)。
無風快晴の素晴らしい日になった。しかし悪天に恵まれると言う表現があるように、厳しい冬山らしさが味わえなかったのは少し残念で、こんな緊張感の無い3ルンゼは初めてだった。一昨日降った雪で氷が埋まってしまい、易しいルートとなった上にポカポカ陽気となった。しかしまあ、それはそれで遠望を眺めながら仲間とワイワイできて楽しかったとも言える。むしろ面白かったのは雪がゴッソリ積もった帰りの国見尾根だった。
7:10頃家を出る。私の家からはまるで絵のように鈴鹿の山並みが眺められるが、R306まで西上すると屏風のように山が迫ってくる。これが千種辺りまで進むと真っ白な鎌ヶ岳、御在所岳が眼前にそそり立ち、胸が高鳴ってくる。ひょっとしてここはシャモニー? しかし手前の家並みは純然たる日本建築で、どう転んでも菰野町だ。
ちょっと早めの朝7:30集合としたのにも拘らずスカイラインゲート前は車でいっぱい。通風山さんは他の二人と初対面。しかしなっきいさんとはお隣の町なのだ。舗装道路をトコトコとウォーミングアップしながら歩く。裏道登山道に入るとさすが人気の御在所岳だけあって、道は固く踏み締められていて歩きやすい。朝から上天気で藤内小屋までに一汗かいてしまった。既に小屋のツララは日を受けてポタポタと雫を落としている。
早めに兎の耳でアイゼン、ヘルメット、ハーネスなどを装着して、にわかクライマーの出来上がり。「忍者部隊月光」を思い出す(知らない人は詮索しない事)。藤内沢に入ると正面雪壁の上に一ノ壁やバットレスが威嚇するようにそそり立つ。右折して滝に近付き、氷柱のある急坂を登る。氷柱の表面は溶けかかって濡れていた。ピッケルのピックを突き立てて登っていく。ルートのど真中にある氷柱が邪魔で私は左を通過したが、なっきいさんと痛風山さんは壁との間の穴を潜ってきた。体の大きな隊長は潜れないかと思ったが、何とか穴を通過。以外にスマートなことを立証する。巻き道に這い上がるとすぐ70度くらいの壁。先に登ってみて、確保なんかいらないと判断。木の根もあるし。
前尾根P5フランケの大氷柱は無残にも途中で折れて雪上に転がっていた。相当太く成長していたが、暖かさで自身の重みに耐え切れなくなったのだろうか。その先の蝙蝠滝は落差が無くなっていて簡単に登る。今日はロープもハーネスも無用の長物となった。この先45度くらいある雪壁が続く。私はこういうところは割と好きだ。一気に高度が稼げる。傾斜がやや緩い所で前尾根や下界の風景を見ながら雪上で休息。爽快な眺望だ。
P2ヤグラの見えるところから左3ルンゼへ。足も潜らず、快適な急斜面をガンガン登る。高度が上がるに連れて背後の風景がアルペン的になってくる。ダイエットがままならない通風山さんは大汗をかいてタオルを首に巻いている。夏の沢登りさながらだ。やがて僅かに残る樹氷が見えてくると、鋸岩までもう一息だ。
鋸岩の氷瀑は不作だった。規模も蒼さも物足りない。1パーティーがアイスクライミング中だった。氷が緩んでいるので登攀者がバイルやアイゼンを打ち込むたびにバラバラと氷のかけらが降ってくる。写真を撮ったりして休息。そのうち後のグループが追いついてきて混雑してきたので、左の岩尾根(奥尾根)に避難する。この尾根の上は絶景である。霊仙御池から竜、釈迦まで雪化粧した鈴鹿中北部の山並みが一望できる。冬は格別だ。国見峠越しにイブネの巨体も間近に見える。ここで昼食にするのも悪くないが、まだ時計が早い。
「近畿の山と谷」には御在所三角点辺りからの展望を「巨象のやうな雨乞岳、鎌ヶ岳の怪偉、釈迦ヶ岳の荘重、鈴鹿の精鋭をこの一帯に集中した観があり・・・(中略)・・・眺望の豁大比類なきを覚ゆる」とある。昔の人は大層な表現をなさる。ここからは更に竜も御池も見える。釈迦ヶ岳を荘重と言うなら、更に白い竜ヶ岳は壮麗と言うべきか。御池岳はなんと表現するか?語彙の貧困からとっさには出てこないが、その長々とした巨体は「北の重鎮」としておこう。
充分展望を楽しんでから奥尾根をそのまま詰めて中道へ出た。山上公園はポカポカ陽気で陽射しが眩しい。風が無いので何処でもお昼にできる。適当な所に腰を据えてランチタイム。隊長はビールを買いに。御在所ならではである。食後になっきいさんのコーヒーをご馳走になる。なんだか寝てしまいそうな陽気だ。鎌や入道も双眼鏡があれば人が見えそうだ。御在所岳は思い思いのコースで登ってきたハイカーやクライマー、ロープウエィで上がってきた観光客やスキーヤーが行き交う不思議な山である。
外国人も交じる観光客とすれ違いながら裏道取り付きへと向かう。裏道は登ってくる人々が引きも切らず、トレースは踏み固まっていて歩き易い。こちらは下りなので鼻歌交じりである。ところが国見峠から北はめっきりと足跡が減り、一昨日の雪に捕まる。途中で年輩のご夫婦に追いつくと、その先は単独のワカンの足跡だけ。でも無いよりははるかに歩き易い。先行者は国見尾根へ向かっている。時々雪を踏み抜いて溺れそうになる。
天狗岩が見下ろせる所まで来るとワカンの単独行者が休息していた。先行者はこの人かと思ったら、逆に不動さんから登ってこられた由。トレースが無く、死ぬほど辛かったとのこと。深雪のあの急登、さもあらん。ということは先行者は右折の近道で裏道へ降りたことになる。
この先尻セードを交えて降り、先に天狗岩に登って後続を待つ。雪の付いた岩峰にびびるなっきいさんをシュリンゲで引っ張り上げる。岩の上は天下を取ったような爽快な眺めだ。まだ鋸岩周辺に人が沢山いるのが見える。「今度地震が来たら落ちるかも」と言いながら「ゆるぎ岩」を鑑賞。P1004との鞍部でまた一息。
さてここから不動ヶ谷手前まで落差100m以上に及ぶ尻セード大滑降。キャー、面白いなあ。ピッケルで制動をかけないとスピードが出すぎる。先ほど死に物狂いで登ってきた方に申し訳ない気持ちだ。あとは沢沿いに深雪を楽しみながら歩くのみ。不動の滝はツララと木々の枝に積もった雪で幽玄な雰囲気を醸し出していた。国見不動の祠に今日の安全を感謝してお参りする。滝場にあって水源を守る岳不動は三岳寺から派生したものか。この辺りは一度雪が溶けたら丁寧に歩いてみたい場所だ。
やがて雪も浅くなった平坦な樹林を歩き、川を渡り返して藤内小屋に着いた。藤内沢は物足りなかったが、国見尾根は先々週より積雪が増えていて楽しめた。トータルとしてはなかなか良き山行であったと思う。お付き合いいただいた皆様に感謝。