南尾根からソノド    04.01.18

  

 両ヶ池から藤原岳いつぞや霊仙山への途上、幾里谷左岸尾根から見たソノドはなかなか良い山だった。冬晴れの日に登りたいと思っていながら果たせず、今日に至っていたが絶好のチャンスがきた。何で日曜だけこんないい天気になるのかと、文句?の一つも言いたくなるほどの快晴だ。しかし本音を言えば、今週は雪が降りすぎて登頂は難しいだろうという予想。積雪状況によっては、最悪林道でギブアップもありうる。

 6時半頃寝ぼけマナコで窓を開ければ、西に聳える山々は雲一つなくクッキリとスカイラインを描いている。これは忙しいことになった。朝焼けの写真を撮らねば。日の出まであと30分。山の用意はしてあるので、大急ぎで洗顔、着替えをする。ウチの奥さんは日曜でも早起きなので、朝食の用意はできているが食べる時間がない。早食い大会のように飲み込んであたふたと出発。ミルクロード両ヶ池には先着のカメラマン二人が三脚を立てていた。しかし期待に反して雪を頂いた竜ヶ岳は赤く染まらなかった。見事な空振りだった。

 そのまま時山を目指して車を走らせる。途中R306の鞍掛方面ゲート偵察に立ち寄る。工事関係の人がゲートの向うに置いたブルドーザーに給油していた。何度カギをかけても壊されるそうで、現在は掛かっていなかった。「今日は日曜だから役人が来ないので大丈夫と思いますよ。明日また新しいカギを掛けに来るでしょう」と言われた。今日は御池岳じゃないから関係ないが、イタチごっこも根気のいいことである。いったい、どんな人が壊すのだろう。

 県境を越えて打上集落からどんどん西へ走り、時山に着いた。雪は想像より少ない。むろん我が菰野町よりは多いのだが、豪雪で鳴る時山のことだから、すごいことになっていると思っていた。この調子で行けば、もしかして薮ヶ谷林道を車で走れないかと淡い期待を抱く。しかし考えは甘かった。林道取り付きは除雪された雪が壁のように盛り上がって、車の通行など問題外である。仕方ないので少し先に駐車して山支度をする。さすがに朝の空気は冷える。8時25分出発。

 林道の奥にある・394の登山道取り付きまで、道なりに3Kmはあるだろう。これは御免蒙りたい。そういうときは南尾根から登ろうと漠然と思っていた。ソノドに登れなかった場合、保険としてP730に登頂して格好を付けるためだ。末端はお墓があるし、薮っぽいので暫らく林道を行く。道には鹿の足跡しかない。斜面から落ちた雪がゴロゴロして非常に歩きにくい。右側は見上げるような急斜面で、さて何処から取り付こうか迷っていたら、鹿が這い上がった場所を見つけたので跡を追う。

 枝の隙間から。これが精一杯。「道は鹿に聞け」・・・シカ君はなかなか巧みに急勾配を避けて、雪とヤブの少ないコースを上へ上へと上がっている。多少ラッセルも楽だ。植林の急勾配が続くが、足跡を踏みながら頑張って登る。やがて50m位先に木の間から鹿を二頭見つけた。心の中で鹿に礼を言う。それにしてもしんどい登りだ。植林の先はヤブツバキ・シロダモ・ヤブニッケイ・カシなど常緑樹が目立ってくる。500mを越えるとコナラ・ヤマザクラ・ヒイラギ・アカマツなど。

 左手谷越しに文字通り長々しいナガオが壁のように立っているが、その頭越しにチラリと真っ白い山が覗いた。霊仙山だ。振り返れば烏帽子・三国のラインが見える。しかしすべては樹林越しで写真にはならない。無風快晴で口笛でも吹きたくなるほど気分は高揚している。肉体はしんどくても精神は極楽、これ不思議。
 550mから鹿の足跡も消え、樹木も落葉樹とアセビが中心になった。この先いきなり急登になってネを上げる。バテてきたのでジグザグを切らないと登れない。登り切ったところで平坦になったので休憩する。鹿のラッセルが期待できないので、ここでワカンを装着。

 P730 展望はないが美しい広場尾根は痩せてハッキリしている。それにしても展望の悪い尾根である。枝が邪魔して、神々しい白さを見せる霊仙山の写真が撮れない。だんだん姿が大きくなってくるのに残念だ。オッパイのような独立峰は鍋尻山だろう。隣は日山かな。尾根芯も木が多くてルートを真っ直ぐに取れない。疲れてくるとちょっとした障害物がこたえる。この調子ではP730も展望期待薄だ。10時17分、やっとのことでP730着。ご褒美は何もなかった。やはり予想通り360度ヤブで展望なし。しかし平坦で休むのにはちょうどいい。

 休みついでに地図を出す。この北は二万五千図の境目なので、もう一枚をつなぎ合わせる。そうしたらソノドのあまりに遠いことに愕然とする。これだけ苦労して二時間近く歩いて、まだ距離的に1/4くらいしか消化していないのである。しかもここから最低鞍部まで高度を下げ、また登り返しである。ちょっと気力が萎えてきた。無理だな・・・と思う。掲示板に書いたように、お昼まで歩いてメシ食って帰ろう。

 幾里谷左岸尾根の向うに白山すぐ先のほぼ平坦な丘で右前方に真っ白な加賀白山を発見。しかし樹林が邪魔だ。ワカンのまま木登りをするという危ない芸当で写真を撮る。しかしもう少し先で見える場所があった。あほらし。ややぼんやりしているが御岳、乗鞍も見えている。丘を越えると徐々に高度を下げていく。楽なことは楽だが、登り返すことを考えればあまり有難くもない。650m付近は全くの水平で、珠玉の二次林・珠玉の尾根と言えるだろう。紅葉も見てみたい。

 最低鞍部はコルにしては珍しく標高点となっている。596mはゴクローと読める。せっかく稼いだ高度を落としてしまい全く御苦労なことだ。「御苦労のコル」としよう。ここでやっと霊仙山の全景を拝むことができた。高木がなくなったのだ。しかし潅木のヤブと深雪が邪魔で非常に歩きにくい。足場の不安定ななかで写真を数枚撮る。登り返しもヤブで苦労する。雪は多いところと少ないところで極端に差がある。

 御苦労のコルから霊仙山今日の行程で一番しんどかったのがこの登り返し。ともかくエラくて足が上がらない。特にふくらはぎが疲労してきた。そんなにきつい登りではないのだが、頻繁に立止まって息を整えないと進まない。南斜面で日を受けた雪の状態も悪い。あまり進まないので100歩までは立止まらないことを自分に課す。しかしどうしても50歩しかもたない。楽しいはずの山登りが、いつのまにか肉体の酷使に変わって、つらいばかりだ。やはり心の底には「山頂まで行かずしてどうする」という強迫観念があるようだ。いまだ悟りの道は遠い。

 いつの間にか背後には御池岳が見えている。しかしもろに逆光なので白いのかどうかも分からない。時山のものか西山のものか不明だが下界から12時のサイレンが響いてきた。その後いったん登りから脱して、水平の尾根に出た。790mあたりだ。山頂まで我慢と思ったがここで昼食にし、荷物をデポして山頂を目指す作戦に変更する。12:15〜12:45までお昼タイム。暖かいものを食べて一息ついた。

 ソノド山頂ここにザックの中身をぶちまけて地図、コンパス、カメラだけ持って出発。不思議なことに体中に力が漲ってきた。今までの疲れはシャリバテだったのだろうか。背中も軽いし快調に登る。しかしソノドだと思っていたピークは間違いで、本物はかなり先だった。また気力が萎えるところだが、今はまだ大丈夫だ。タイムリミットを午後2時に設定しているので、まだ余裕がある。ヤブでピークがよく見えず、ともかく黙々と歩くしかない。やがて登山道らしき堀割り状の道に出た。それに従って登ると小さなコバに着いた。山頂はすぐ西のようだが、ヤブがすごい。掻き分けてピークに立つと奈良大学WV設置の標識があった。1:26着。

 ソノドは冬でも展望がなく、夏はどうしようもないだろう。何とか伊吹山が見える場所を探して撮影する。失敗に備えて何枚も撮る。伊吹の右に能郷白山と白山がよく見えている。伊吹の裾には薄い雲がたなびいて、なんとも言えない雰囲気である。残念ながら霊仙山は見えない。北へ向かう縦走路も歩きたいが時間が許さない。秋にでもまた来よう。

         伊吹山                           能郷白山               加賀白山

 緩い下りほど快適なものはない。登りの半分以下の時間でデポ地点に到着。飲料水がなくなったので、休憩がてらコンロで雪を溶かして水作り。やはりそのままの雪をほうばっても渇きは癒されない。荷造りをして自分のワカンの足跡をたどる。せっかくの下りだが雪が悪くて尻セードは不可能。登りの苦労は夢だったかのごとく、御苦労のコルまでわずか15分で着いた。まだ霊仙山は美しく、性懲りもなく同じ写真を撮る。

 鼻歌もここまでで、P730への登り返しでまた地獄を見る・・・ちょっと大げさか。ここも偽ピークがいくつもあって騙される。本物まですごく長かった。なぜこんなに体力がなくなったのだろう。釈迦ヶ岳大蔭尾根以来体を使っていないし、禁煙で少し太ったようだ。あとで冷静に地図を見れば、馬鹿正直に往路をたどらなくとも、御苦労のコルから薮ヶ谷に降りるという手もあった。庵座谷でひどい目にあったので本能的に避けたのだろうか。

 時山集落を見おろすP730からは正真正銘下り一方である。登りきれずにジグザグを切っている自分の往路の足跡に向かって「お前もこんな登り方をして、大変だったなあ」と、ねぎらいの言葉を掛ける。頭がおかしくなってきたのだろうか。尾根の先端にある鉄塔からは雪を被った時山集落が見下ろせる。なぜこのような山奥の狭隘な谷に人家がひしめきあっているのか不思議である。

 鉄塔から右へ戻って、登ることは不可能な急斜面に飛び込んで降りる。癪だから少しくらい滑りたいのである。しかしこれほどの斜面でも座ると動かない。足で漕ぐと周囲の雪ごとズルズルと落下した。雪崩に乗っているようなものである。4:25駐車地点着。過不足のない、いい時間だ。やはり目標地点を踏んでくると満足度が違う。まだ無理に悟りを開かずとも良いだろう。

A=駐車地点  B=ワカン装着  C=P730  D=写真撮影  E=御苦労のコル  F=昼食地点  G=偽ピーク  H=ソノド山頂

赤線が本日歩いたGPSトラック  (スタート時やや誤差・尾根上は正確)
黄線は登山道