下重谷からイブネ 00.9.24
シドニー五輪女子マラソンが9月24日であることを知った日から、心の葛藤が始まった。山かマラソンか。雨が降ってくれれば心置きなく観戦できるのだが、あいにく今朝は晴れ。心穏やかならず。結局山へ出掛けることにしたが、8時20分まで観戦。今日の山行は時間が読めないのでゆっくりもしていられない。高橋尚子の激走に後ろ髪引かれながら、録画に切り替えて出発。コンビニで食料を調達して、8時45分朝明着。
8時50分出発。9時35分根の平峠、また来ましたと道標に挨拶。お茶を一口飲んで下る。イブネにはガスがかかっている。根の平峠の前後は昨日の大雨で川になっていて歩きにくい。上水晶までの道には栗の実がざわざわと落ちていた(写真)。
コクイ谷出合までの川沿いの平坦地の雰囲気が素晴らしい。苔むした岩とコゴミの葉、そしてトチノキ(と思う)の大木とせせらぎの音。この道は以前、せっせと神崎川源流の渓魚を減らしに通った道で、釣り仲間で岩魚街道の名を付けていた。今はもう竿を持たない。
コクイ出合では増水で靴を脱ぐハメに。足の裏が痛い。御池谷の湾曲部で対岸に渡ったら、道に大きなザックが二つデポしてあった。何かあるのかなと思って上へあがった。女性が一人いて、話を聞いたら鉱山跡を探しているらしい。しばらくして男性が斜面から降りて来た。
この平坦地には窯跡と違う石組みがあった(写真)。お二人は京都からいらっしゃったそうで、昨日は豪雨の中テント泊だったそうだ。溶けた鉱石のクズを拾ったというので見せてもらう。
二人と別れ、登山道ではなく川沿いを歩いた。少し上の所で鍋、茶碗、一升瓶などが散乱して、これも昔の鉱山関係者の生活道具と思われる。歩きにくくなったので、小谷を上って登山道に出た。鹿が驚いて逃げていった。
登山道が下重谷を横切る所から谷に入る。渓流シューズは持参してないので両岸の歩けそうな所を登る。うっすらと道型がある。所々崩れているが昔炭焼きが入った道だと思う。案の定窯跡発見。2m位の滝がけっこうあり、岩魚の飛び出してきそうな落ち込みもあるが普段はもっと水量が少ないはずである。
窯跡を過ぎると道が無くなったので谷芯に降りる。しばらく遡行するとまた道型あり。950m地点で時計は12:15。昼食とする。谷の清流で味噌汁を作り、おにぎりを一個食べる。時間が惜しいのですぐまた出発。左からルンゼ状の支流が入り、本流は滝になっていて、その支流の落ち口に古ぼけたテープがぶら下がっている。こんな所にもやはり入った人がいるとみえる。テープはその一本きりだった。
支流をのぼって高巻きして本流に戻ると、すぐまた等量の二俣となった。高度1000m地点である。二俣の間の尾根が歩けそうだったので乗り換える。地形図どおり急斜面となるが、よく目を凝らすと古いジグザグの道型がかすかに見えてくる。木をつかみながらどんどん登る。谷ははるか下になってきた。
やがて細い平坦な尾根に飛び出した。御所平のような短い笹と潅木、ブナがまばらにあって、霧が立ちこめている。幽玄な雰囲気だ。ここでGPSで測地。予想点とぴったりである。この尾根を登りきると最高点に達し、前方は霧に包まれた背丈ほどの笹の大海原である。少し前方へ下ってみたが右も左も分からない。これは土地勘がないと遭難しそうである。
コンパスを首にかけ、地形図を持ってもとに戻りイブネ北端の標識を探した。程なく見つける(写真)。ここでお茶を飲み、タバコを一服していたら風が出てガスが晴れてきた。ラッキー。釈迦ヶ岳南面のガレがみえる。東には国見岳、御在所岳そして鎌尾根を従えた鎌ヶ岳が頭を出している。南に目を移せば雨乞岳の巨体が間近。
さて、ここから登山道を帰るのも芸が無いので、南東方向へ小峠まで落ちていく尾根を下降の予定。地形図を見て使えると判断した。それに佐目峠へ回るよりうんと近い。クラシ谷左俣から這い上がる地点まで進み、そこから「南東へ南東へ」と呪文を唱えながらコンパスを見て進む。
驚いたことにこの尾根には、古いテープが巻いてある。同じようなことを考える先達がいらしたんですね。心強いが、お世辞にも登山道と言える代物ではない。テープを見つけたり、失ったりしながら進む。道らしきものは尾根の右側を巻いている。右の沢音は猪子谷源流らしい。そのうち逆落としの傾斜になり、シャクナゲの木をつかんで降りていく。所々崩壊している。やがて道型は尾根の中心に戻り、松ノ木のある岩場に出てここで休憩。急斜面ではたとえ畳一畳分の平坦地でも貴重なものに思える。ここは見通しが利くので写真を撮った。絶景である。
御在所山頂から手前に迫る尾根が圧巻である。三次元のうねりが美しい(左)。これも歩いてみたい。鎌ヶ岳が頭をだしている(右)。東雨乞岳の巨体。人の知らない角度で山を眺められるのもバリエーションの醍醐味である。
神崎川の沢音はまだ遥か下である。夢中で下っていくうちに、小峠に気付かず御池谷まで降りてしまった。ここには鉱石の溶けたクズがゴロゴロしている。やかん、皿などの生活用具も散乱していた。河原へおりて顔を洗い、残りのおにぎりを食べた。対岸へ飛び石で渡り、登山道へ。コクイ谷出合では少し水が引いていたので、靴を脱がずジャンプ一番飛んで渡った。午後三時。この辺りに人がいないのは珍しい。オリンピックのせいか?
3:13上水晶大阪宗光氏の地蔵さんに手を合わせる。3:41根の平峠着。大柄なソロの男性が休息していた。ここまでくれば家に着いたも同然なので、私も腰を下ろして休憩してお話した。愛知県の大府からいらしたそうだ。重登山靴だったので尋ねたら、来週穂高へ行くので靴慣らしの由。4:00に一緒に降りる。4:30朝明着。薮漕ぎとぬかるみでズボンはどろどろ。帰ったらまたカミさんに怒られそうだ。
今日はほぼ思い描いていたコースをトレースすることができてラッキーだった。