猪子谷からイブネ 09.05.10
今日はヤブコギネットのオフ会であるが、会場は秘境イブネ。会場にしては遠くて、ゆっくりできない。
すべての道はイブネに通ず。時計回りにクラシ北尾根、マキガヒラ谷、P900の尾根、クラシ谷、P902の尾根、小峠の尾根、高昌山南尾根、下重谷、東西千種街道、タイジョウの尾根、佐目子谷遡行、銚子ヶ口からの縦走、上谷尻遡行。
私はすでに全部歩いているので、今回のコース設定に迷う。さらにその間にある小尾根、小谷の落穂拾いでもするかということで、小谷のひとつである猪子谷を登ることにした。
参加者の因果の綱引きは、意表をつく晴れと出た。県民の森から朝明へ行く道は、青空と新緑に藤の花がよいアクセントになっている。駐車場は6時40分頃だったと思う。集金人の姿は見えなかったがkasayaさんらしき人を見ながら通過。途中、道を歩いている東雲さんに出会い、足の具合を聞くが元気そうだ。砂防学習ゾーンの空き地に車を停める。支度をして7時頃出発。
堰堤を巻きながら登っていくと挙動不審な人物を発見。見覚えがあるような、ないような人だったが、聞いてみると宮指路さんだった。立ち話をしているとkasayaさんが追いついてきた。三人で根ノ平峠を目指す。朝から暑いことだが、日焼けもイヤなので長袖を羽織ったまま歩く。根ノ平峠で新しくできた池を眺めている東雲さんを発見。
4人で話をしながらちんたら西へ下る。上高地のカツラを見ていくという東雲さんと分岐で別れ、さらに上水晶出合で小峠を目指す宮指路さん、kasayaさんと別れる。また一人になった。やはり私はマイペースで歩ける単独が性に合っている。花を撮ったり、新緑に染まる愛知川の流れをぼんやり眺めてイワナを追った日々を思う。トチの大木が河畔に木陰を落とす辺りは、愛知川源流を代表する珠玉の風景と言っていいだろう。
コクイ谷出合で休憩後、杉峠への登山道を歩く。この道から見下ろす御池谷も好きな風景だ。登山道はやがて川の屈曲点で渡渉することになるが、妙齢の女性がそこで水汲みをしていた。知らない人だがいちおう「ヤブコギの人ですか?」 と尋ねる。やはりオフ会参加者だった。HNはみんみんさんだそうな。「さっきグーさんに追い抜かれました」 とおっしゃる。付近にはイワカガミが咲き乱れている。まあ、写真でも撮っておこう。
河畔のヤマシャクヤク 涼しげな愛知川 咲き出したイワカガミ
さてコースが違う私は猪子谷渡渉点で 「僕はこの谷から行きますので、イブネに着かなかったらここの捜索お願いしておいてください」 と言い残して別れる。冗談ではあるが、万に一つの保険でもある。入り口は歩きにくそうだったのでしばらく右岸を巻く。谷に復帰すると、如何にも鉱石らしい赤茶けた岩床が続く。やがて高昌鉱山跡。石垣に囲まれた平坦地が段々畑のように続き、精錬の残滓、一升瓶、ドラム缶、陶器の欠片、鍋、トロッコの車輪等々が散らばっている。耳を澄ませば往時の活況が聞こえてくるようである。
更に登れば膨大な量のボタ山が続く。左へ行けば坑口や住居跡があるのは以前確かめてあるが、今日は右の谷を行く。更に分岐があるが、高昌山北の鞍部に突き上げるのはどれなのか、等高線を見ても複雑でよく分からない。水量の多いのを行けばいいだろう。
ミツバツツジの咲き残りや石楠花のつぼみ、野鳥の囀りなど、新緑五月らしい眼福の谷を行く。人の気配はない。いかにヤブのオフ会でも、ここを選ぶ人はいないだろうと思う。しかし頭上の小峠からの尾根を登る人は多いだろうと思うと、差ほど孤独でもない。
猪子谷の川床 鉱山生活跡 足元を埋め尽くすボタ山
余談になるが最短距離を狙うならP902の尾根である。根ノ平峠、タケ谷出合、902、イブネはほぼ35度02分の緯線上に並ぶ。このコースの難点は最後の登りが常識外れの急斜面のうえ、ヤブであることだ。しかし逆に考えると、木が一本もなければこんな急斜面は危なくて登れないのである。
これと対極にあるのは朝明から杉峠経由でイブネという登山道コース。地図上ではあまりに遠く、敬遠したいところではあるが安全度は高い。
Slow but steady wins the race ということもある。
さて長閑だった猪子谷に滝が現れだした。これは等高線から予想できたことである。沢靴なら快適だろうと思われる滑や適度な斜滝が続く。しかしやがて何処まで続くやら先も見えない多段の滝となる。これは巻くしかない。左岸崖っぷちを木や岩を頼みとするハードな登りとなった。巻きと言えども斜度がきつくて鼓動が激しくなる(添付写真)。気がつけばまたいつもと同じパターンに嵌っている。何やってんだか。何処まで巻いても滝は続いてイヤになる。この付近の滝は沢靴でも直登は無理である。
獣道がやがて杣道のごとくなり、滝が終わると突然テープが現れた。これは何ぞや。目で追うと、どうも小峠の尾根に続いているらしい。しかし私の目的は谷詰めであるからこれは無視。渓相は一転して穏やかになり、カエデやブナが林立する桃源郷となった。新緑の葉を揺らす風が汗をさらっていく。天国とはこのような場所であろうか。やがて高昌山の鞍部が見えてきた。あそこへ上がればイブネに着いたも同然。北端経由の快適な水平歩きが待っている。
上部は滝が続く 傾斜が急になってくる 源流はのどか
北端へ向かっていると下重谷越しのイブネに人が見えた。おーいと掛け声が聞こえる。誰に言っているのか分からないが、こちらも声を張り上げる。北端に着くと地図を見ている女性と会った。オフ会参加者のようだが知らない人である。会場に着いたら先着者は数人。早く着いて、その辺を散歩している人もいるらしい。懐かしい顔、最近見た顔、知らない顔、続々と人が参集してくる。山頂付近はだだっ広い平原になり、人が集うにはちょうどよい具合だ。以前のような笹薮だったら不可能なことである。
それにしてもイブネという遠い会場にご苦労なことである。更にご苦労に思うのは登山口までの遠さである。グータラな私にとって、いつも会場が鈴鹿なのは有難いことである。
人数が多くて自己紹介が延々と続く。遮るもののないイブネの平頂で紫外線に炙られ、虫干しされている40人の集団。その光景は異様である。新手の宗教団体のようでもあるが、誰もUFOを呼ぶ踊りをしなかった。宗教団体というより、やはり無邪気な遠足の延長か。
自己紹介という名の懲罰と懺悔を肴に昼食を頂く。その後はやはり知らない人には近づき難く、既知の人と集まっておしゃべりしているうちに閉会となった。
下重谷を隔ててイブネを望む 山頂に点在するタテヤマリンドウ 日傘を用意する人も
帰路は長谷川さんと同行。高昌山南尾根を下りてみたいとの長谷川さんの希望でそのコースをとる。ここは2、3年前に下りたが、まずまずの上部に比べ、下部はヤブとズルズル激下りである。ジャスト猪子谷と登山道が交わるところに着地できた。その後登山道周辺をキョロキョロと消息不明者を気にしながら朝明へ戻ったが、手懸りはなかった。結果的に無事下山できたようで良かった。先ずは身の丈に合ったコース取りが肝要であるが、ご自身の研鑽の弁を信じたい。