谷尻尾根から大峠 01.10.14
ここで谷尻尾根と呼ぶのは上谷尻谷と北谷尻谷の間にある尾根のことを言う。正式名称ではないが面倒なのでそういうことにする。
朝明中峠分岐を7:16に出発する。久しぶりの早出で朝の空気が清々しい。中峠7:54着。曙滝で少しだけ汲んだ水を飲む。正面に銚子ヶ口が良く見える。3分休憩して下降、大トロ橋8:16着。この橋は大分前から通行禁止と書いてある。しかし皆渡っている事はご承知の通り。いつもながら下を見るとゾクゾクする。ロシアンルーレットのように誰かがいつか落ちるのだろうか。
神崎川左岸を北に進むと道端に人が寝ていた。テントもツェルトも無しにシュラフから顔を出して目をつむっている。生きてるのやら死んでるのやら不明だが、関わりになると厄介なので黙って通過する。しかし家で寝てきた私がこうして歩いているのに、未だに起きないのは山で泊まった意味が無いではないか。
窯跡と支流を二つばかり見送りお金明神登拝口に着く。西へ登るとやがて神域の杉木立だ。なんとなく神聖な気持ちに身が引き締まる。谷の水で手を清める。乗越しを右折して1年半ぶりのご対面。相変わらず畏怖の念を抱かせる顔立ちが、朝日を浴びて荘厳に輝いている。肩に上がるとお賽銭が増えている。佐目の人たちは最近来ないのだろうか。
塔尾金明神に別れを告げて、お金峠を目指す。9:25着。看板が朽ちて落ちていたので括り直しておいた。ここは1年ぶり。ズルズルと谷真を西へ降りる。9:38コリカキバ着。ここは数年前に釣りで訪れて以来だ。北谷尻谷から落ちる二条の滝はそのままだ。神崎川は俗化したが、ここはまだ原始の匂いがする。久しぶりのご対面に心が躍る。コリカキ場といってもカキ氷を作る場所ではない(ちょっとくだらない事を書きました)。昔お金明神へ参拝する人々が身を清めた場所だ。手を洗う程度ではなく、褌一丁になって水垢離したのだろう。だから私のように朝明から参拝するのは邪道である。しかし佐目、相谷集落でも最近は朝明まで車で来て中峠を利用するらしい。暫し爽やかな空気を吸いながら休息。
さてここから水舟の池、大峠方面を目指すなら北谷尻谷を遡行するのが普通だが、今日の目的は谷尻尾根をトレースする事にある。コリカキバから真西ではなく磁石の西に方向を定めて尾根に取り付く。等高線どおり最初は急登だ。杉や潅木で歩きにくい。人の歩いた形跡は無い。20分ばかり息を切らせて860mの小ピークに登りついた。何も展望は無い。先へ進むと鞍部は明らかに峠の形をなしており、左へは古い杣道がある。右へは緩やかな勾配だ。北谷尻谷を少し歩いてから、ここへ這い上がった方が利口だった。鉱山関係者や杣人が昔、北谷尻から上谷尻へ移動するのに使ったのだろう。
この先少し平坦であるが、じきにP921への急登になる。古い大杉の倒木が天然の小屋になっていたり、朽ちた杉の株にシャクナゲの根が取り付いていたり面白い光景が展開する。薮をすり抜け頑張ってP921へ到達した。小数点以下の表示が無い標高点は標石が無い。これは実際に人が足を運んだわけではなく空中写真を図化機にかけて表しているだけである。
P921は少し北に張り出していてガレている。そこから釈迦ヶ岳や竜ヶ岳が見える。北北西にとんがった山が間近に見える。これは銚子ヶ口から南に張り出す尾根の1040mほどのピークだろう。眺めのいいガレの上でおやつを食べて休息。
ここから先はなんと赤テープがあった。標高点マニアが西から来たのだろうか。やせ尾根を西へ西へと進む。釈迦ヶ岳東尾根に良く似ているが、はるかに歩きにくい。シャクナゲの密林が頑強に抵抗するので、登りは大変難儀だ。ザックに挿した三脚が引っ掛かって立ち往生する。地図に現れない小ピークの登下降に疲れ果てる。それでも時おりテープの切れ端がついている。物好きもいるものだ。
11:20、990m程のピークに着く。あまり展望は無いがブナが生えている。紅葉はまだまだ早い。ここを下ると毛むくじゃらの小動物が3匹泡を食って逃げ出して、その音にびっくりする。狸のようだった。この先うまくピークの密林を避けてトラバースの道が切ってある。鉱山師のものだろうか。やがて尾根が不明瞭になり適当に歩いていたら、イブネ銚子ヶ口縦走路に飛び出した。11:45。
1040m程のピークの北端に出て、少し先のガレから南西方向の展望を楽しむ。タイジョウの形が印象的だ。その向こうに少し見えているのが綿向山か。もっとよく見えそうなガレの先端にロープを使って降りた。どうもとっさに山の判別がつかないが、写真を撮る。三脚の仰角調整ネジが無くなっていた。薮に引っ掛けて折れたのだろう。
北西に向かって次のピークを目指す。登りきった所が1080m+αのピーク。銚子ヶ口山塊の最高点で本峰より高い。このピークは北東に張り出しており、先端へ行ってみたが薮で展望が無い。薮を切り払ったらさぞや三重県境の山々の展望が素晴らしいだろう。大峠でせわしない昼食をとる。帰りにかかる時間プラス余裕1時間を日没から逆算するとそろそろ帰らねばならない。この先名残惜しいが、今日はここまで。秋の日は釣瓶落としだ。
帰りはもうあのヤクザな谷尻尾根を通りたくないので、大峠から北谷尻谷の支流に直接下りた。V字型がきつくて、谷真の落ち葉が堆積したぬかるみを歩くしかない。時おり階段状の滝が現れるが、下降困難なものは無い。やがて金属の光沢を帯びた鉱石が現れると、水舟の池東の鞍部から来る谷と合流。靴を濡らさず歩くのが大変だ。ひたすら下る。所々大文字草が群生している。淵を見るとやはりイワナが気になる。
銚子ヶ口方面から下る支流を何本かやり過ごして、トウシミ谷手前まで来ると右岸が平らになり快適に林の中を歩ける。休憩して写真を撮る。再び谷が狭くなる所で4人パーティーと出会った。お互いコースを問うた。「ジュルミチ谷から帰ります」とのこと。一瞬??? 今から銚子ヶ口でもあるまいし、たぶんP903西の峠を越してジュルミチ谷左俣へ出るのだろう。
ようやくコリカキバへ戻った。だがまだもう二山越さないと家へ帰れない。谷尻谷源流は鈴鹿最深部だ。同じ道を帰るのも芸が無いと思い、少し出合から下ってキツネ峠へ向かう谷を登ることにする。ところが下谷尻谷には道が無いし、疲れていたのでこれは違うかもしれないと思いながら最初の小谷に取り付く。すごい急登で少し歩いては肩で息をする。小さな滝から頭を出したら目の前に雄鹿がいて逃げていった。その先の樹間にまだ小動物がいる。何じゃありゃ、カモシカの子どもだ!そーっとカメラを取り出す。3〜4匹いる。フラッシュを焚くといけないのでオフにする。よく見たらカモシカではなく縞が取れたウリボウだった(この写真は帰ってからガックリした。暗かったので手ぶれとピンボケで全くダメ)。這い上がったら親が出てきて、共に一目散に逃げていった。恐かった。
やはり谷を間違えたようで見たことも無い小尾根に出た。コンパスを見たら方角も90度狂っていてパニックになる。どうも塔ノ峰の直下らしい。高いところへ登ったらやはりそうだった。細長い塔ノ峰を北に向かう。1年前にトレースした場所なのに、また降り口を外してすごい薮の中へ迷い込んでしまった。ヒロ沢を念頭に置いていたので東へ寄りすぎたらしい。まあいい、どうせ下っていけば神崎川に出る。やがてキツネ峠からの谷に出会った。すぐ3m程の滝。触る端から岩が崩れていくボロボロの滝だ。仕方ないのでロープで下る。
グズグズの石を踏んで、まもなく神崎川に出た。疲れると頭もボーっとしてくるようで高巻き道を見落としていた。戻るのも面倒なので川の中をヒロ沢出合まで歩いた。誰もいない。昼に残したおにぎりを食べる。
ヒロ沢の登りは一般道の有り難さを感じた。しかし足が上がらず、大きな段差では一息おいて手も使って登る。お年寄りと言うのはこんな感じかな。ヨレヨレながら、ハト峰まで35分で登りきった。昭文社の地図ではコースタイムが1時間40分となっている。これは全くおかしい。逆に朝明〜中峠の登りが30分となっているのはやや早い。何を根拠においているのか良く分からない。
ハト峰からの下りで膝が痛くなり、棒きれを拾って杖にする。修行が足らんのか、歳なのか。多分両方だろう。筋肉痛の予感がするので、帰ってから入念なストレッチをした。それが効いたのか、翌日の痛みは殆ど無かった。
おまけ写真 イノシシです。ピンボケですいません