稲森谷から鎌ヶ岳 03.06.29
何でわざわざ日曜めがけて雨が降るのかと、天を恨むことが多々ある。今日は逆だった。毎日うっとおしい梅雨空の中で、珍しく申し分のない天気になった。こういう時はたくさん天に感謝を捧げよう。取材用写真が撮れるかも知れないので鎌ヶ岳に行くことにした。ありきたりのコースでもつまらないので稲森谷から登ることにする。幸運ならイナモリソウが見られるかもしれない。でも、もう遅いかな。
膝の調子が芳しくないので、ちょっとズルして林道雲母峰線を車で上がる。キララへの分岐を過ぎるとダートである。道が雨でえぐれて車高の高い四駆でないとちょっと苦しいかもしれない。ずっと前に釣りで稲森谷へ入ったことがあるが、もう少しましだったような気がする。大堰堤のプールへ降りる手前でガードがしてあったので、そこの広場に駐車する。ここは鎌ヶ岳の良い展望台になっている。残念ながら山頂だけガスの中だ。
林道を歩いて降りると大堰堤のバックウォーターはなくなっていた。砂が堆積したのだろうか。小さな流れを渡って稲森谷取り付きに向かう。ここは支流が交錯しているので、初めての人には分かりづらいだろう。最後の堰堤と分かれて、ほぼ谷の中を歩くようになる。水量は少なく、鈴鹿中部によくある素朴な谷だ。斜面が砂ザレなので、流されやすい登山道である。時々丸太の橋が水没している。
等分の二俣を左へとる。右俣にも炭焼き道がありそうだ。やがて二段の滝に出会う。沢靴なら物足りないような滝だが、登山靴ではつらい。右に高巻き道ができていたのでたどる。かなり高巻いた所で何としたことかその道は突然なくなってしまった。植林作業用の道なのだろうか。急斜面を苦労してまた谷の中へ下りる。
谷は徐々にカーブを描いて西に向きを変える。鳥獣保護区の看板があるところで休憩する。標高650m位。暑くもなく寒くもなく快適な気温だ。ここは鎌〜キララ縦走路へ上がる分岐である。尾根へ上がってしまった方が楽なことは明白だが、この先の谷は未見なので最後まで詰めることにする。
大きな花崗岩が散乱する荒れた谷になってきた。花崗岩の急登というか岩登りになってきた。これはなかなか面白い。水はまだ岩の間を縫うようにして流れている。谷の左手は明るく、稜線に何処からでも上がれそうであるが、せっかくなので最後まで詰めることにする。最後は砂ザレの急登なので、地図に現れない小尾根に入って木をつかんで登る。這い上がった所はズバリ馬の背分岐だった。地図上からして当然の帰結である。一気に風が強くなった。そういえばイナモリソウはなかった。もともとこの谷の何処ににあるのか私は知らないのでしょうがない。せっかくこの谷で発見されて名が付いた花なので、いつか見てみたいものである。数は減っているらしい。
今日の分岐からの見晴らしは抜群。伊勢湾の彼方、知多半島、渥美半島の伊良湖岬まで見える。右手から伸びてきているのは志摩半島か。だとすると盛り上がりは朝熊ヶ岳?海の真中にあるのは神島か。展望を楽しんだ後、白ハゲの登りにかかる。白ハゲの花崗岩の間に白い花を鈴なりに付けた木がある。ネジキの花だ。愛らしく清楚な花である。山を始めた頃は花なんか何の興味もなかったが、ネジキの可憐な花やコアジサイの上品な紫を見て、しみじみいとおしく思うようになった。もうすっかりオジサンになったか。
快適な道を緩やかに登って、カズラ谷分岐を過ぎるとブナが多くなってくる。遠く神島まで望みながら、すぐそこの鎌ヶ岳山頂にはガスが流れてよく見えない。まるでアルプスにいるようにガスの流れが早く、山頂は刻々と姿を変える。これもオツなものだ。岳峠へ出ると、とうとう自分もガスの中に入ってしまった。まだ11時にもなっていないが、グループが昼食中。。絶壁を左に見ながら急登にかかる。岩の間に白い穂のような花。ショウマの類だろう。葉がヤマブキに酷似しているのでヤマブキショウマ(バラ科)ではないだろうか。
山頂は賑わっていた。周囲は見事360度真っ白け。おまけに西からの強風が吹き荒れる。皆さんこんな所でよく呑気にお昼御飯なんか食べていられるなと思う。長居は無用。直接長石尾根に下りる。樹林帯で風を避けて昼食とする。下界は快晴ながら、ここは未だガスに閉じ込められている。おにぎりをほうばっていると、突風とともに座っている地面がぐらりと揺れた。地震!と思ったら突風で木の根が浮いたのだった。岩の上の浅い土に根を張っているので、根こそぎ持ち上げられたのである。木にとって厳しい環境だ。
随分久しぶりなので記憶になかったが、ここからものすごい逆落とし。降りるのも大変だが、時々出会う登りの人は大変だ。木のお世話になる。アカヤシオは持つとスベスベで気持ちがいい。シロヤシオはゴツゴツ。コナラは皮に水分を吸ってしっとりしている。シデは筋肉質、でシロモジは少しザラザラしてグリップがいい。
ガスから脱出して見晴らしがよくなり、左手のピークに人が見えている。あの尾根は登山道ではないはずだが。御在所岳山頂は相変わらずガスの中である。900mの三ツ口谷分岐先から犬星谷方面へ降りる。真っ直ぐ尾根を行ったのでは車に帰れないからだ。この谷は一応道はあるが、あまり人が通らないので荒れている。二俣出合手前に二段の滝がある。下3m上5mくらいか。出合から右岸沿いを降りていくと犬星の大滝落ち口。恐々下を覗く。あー、恐。
巻き道から滝下へ降りて休息。やはり滝は見上げるに限る。ここから東へ登り、馬の背尾根へ乗り換える。鎌ヶ岳は尾根から谷、谷から尾根への乗り換え道が錯綜しているので地図を良く見ないと頭が混乱する。窯跡を見送って尾根鞍部へ這い上がって左折。湯ノ峰まで時折左手に御在所岳を眺めながら良い道を歩く。もう山頂のガスは晴れてきた。足元にギンリョウソウ発見。しかしどうも見慣れた筒型ではなく、おちょぼ口で先が青くなっている。これが開花なのだろうか。イチヤクソウもあった。この二つは似ても似つかないが、図鑑を見ると同じ科である。13:30やっと湯ノ峰到着。
さてこのままでは三岳寺へ行ってしまうので、車のある稲森谷入口へ降りなければならない。ここからは本当の道なき籔漕ぎ。南へ適当に降りる。急斜面でずるずる滑る。やがて地図どおり稲森谷の北支流に出会う。炭焼き道がそこはかとなく残っている。皮肉にも一番難物は人間の作った堰堤。また籔をこいで巻くと朝の取り付きに出た。やれやれ。林道をひと登りして駐車地へ。すっかりガスが晴れた鎌ヶ岳は、なかなか良い姿をしていた。