惣王神社からベンケイ・舟石 2012.08.19
通風山さんから情報があったベンケイ手前のブナの巨木を見に行った。それがなければこんなコースは多分行かなかっただろう。鈴鹿スカイラインから一号線の猪鼻へ出る道は、以前京都へ行くときの定番だったが、今はまず使わない。そこから黒滝集落へ入るのは初めてである。河原は子どもの歓声が響き、川遊びの客で賑わっていた。ここは初めてなのに、以前見たような気がしてならない。橋を渡って惣王神社の駐車場にクルマを停める。朝雨が降っていたので、今日も遅い入山である。通さんは葱玉(ネギタマ)神社だと思っていたそうだが、なるほど漢字が似ていて笑える。ここでも耳の治癒祈願をする。最近あらゆるものに願をかけている。
神社の階段の脇に「ベンケイ→」とあったので、トラバース道を辿る。しかし道はすぐ曖昧になり、植林の斜面に入ってしまった。下山後確かめたら、すぐに急登に入るのが正解らしく、いきなり間違ったようだ。しかし要はこの尾根を登ればいいだけなので、適当に高度を上げる。汗だくになった頃、シカ避けフェンスのある尾根芯に出た。道は不明瞭で夏草が生い茂り、ヘビは出るわ、アブはうるさいわで難儀する。その後道は明瞭になったが、植林のつまらない風景である。高温多湿のうえ、今朝の雨で地面はズルズル。普通ならヒルの猛襲に遭うはずだが、この山は殆どいないようで助かった。見たのはたった一匹のみ。ヒルはいないが、地面の小枝が妙な動きをしてギクッとした。見るほどに擬態に感心するナナフシであった。地球上にこんなヘンテコな生物がいると、やはり神は存在するのかとも思えてくる。
傾斜が緩んで600m等高線に囲まれた台地状の場所に着く。ブナはもうすぐだと思ったが、また進路に迷う。ヤブがうっとうしいので一旦南側の開けたところに出る。南部の山々が見えるが、山名はサッパリ分からない。やがてここも歩けなくなり、またフェンスを乗り越えると道らしきものがあった。尾根の北側の端を歩くのが正解のようだ。テープを辿り、道が高度を下げ始めた時に巨木が目に入った。葉や地面の実を確認、間違いなくブナである。標高は僅か620m足らず。周囲は植林でブナなど全くない。不思議なロケーションだ。この木はかなりの老木で、大きなウロができて、節穴から向こうが見えている。
ナナフシ どう見ても枝 つまらない植林道 尾根の南へ出ると展望がある
計測作業に入るが、谷側が急斜面で難儀する。山側地上130cmは穴と対になったコブの上端くらいである。コブを避けたすぐ上で測るのが妥当だろう。四苦八苦の上出た数字が348cm。先々週の綿向山に次いで2番目だ。長らく三国のブナが一番太いと思っていたが、南部で3m越えが相次いで見つかるとは驚きだ。写真を撮ったりメモを書いたりして時間は過ぎていく。お昼は近いが、こんな痩せ尾根で見通しもない所ではしょうがない。せっかくのベンケイブナまで来たから、ベンケイ三角点まで登るとしよう。見晴らしがあればいいがと思う。
穴とコブが対になっている メジャーは348cmを指した 下から見上げるベンケイブナ
思いのほかベンケイまで登りがきつくて大汗をかく。飲料水が見る見る減っていく。高度計を何度も眺めてようやくベンケイに着いた。涼しい風は吹いているが景色は全く見えない。ガッカリ。しかも地面は水分をたっぷり吸って座る気のしない場所である。仕方ない、もうひと頑張りして県境まで出るかと、再び歩きだす。この先はクルマでも通れそうな広い道で、右は植林だが左は広葉樹林である。ここに至ってようやくブナやミズナラを見る。気持ちのいい道だ。
県境に飛び出すと視界がパッと開け、広々した伊勢平野が一望の下である。伊勢の人間が近江側から登り、また伊勢を見るのもいいものだ。北に双耳の仙ヶ岳、眼下には鬼ヶ牙と新名神の高架など箱庭のようだ。すぐ近くの舟石の上で遅めのお昼とする。雲の間から時々直射日光が当たるのが難点だが、これ以上乾いた場所はない。なにせ花崗岩の上だ。靴を脱いでくつろぐ。風もあって結構涼しい。食べながら地図を眺めて帰路を検討する。ピストンは面白くないし、あの草だらけのヤブは御免だ。ベンケイから南西に延びる尾根が使えそうだ。太郎谷へ下りれば道がある。その道は駐車地へつながっている。これにしよう。
ベンケイは展望なし サルノコシカケを思わせる舟石 伊勢平野を眺める
方角を定めて急斜面に飛び込む。しばらくで等高線が舌状の平坦地に出た。地図では分からないが先端は小ピークとなっていて、その手前に「黒滝」と書かれた道標が右を指していた。ほう、この尾根は道であったか。予定通り尾根を行くか、道標に従うかで迷う。右の方が近いだろうが、尾根通しで下りることにする。最初は良かったが、やがて枝打ちされた枯れ枝や、間伐の倒木が邪魔になってきた。ヤブよりマシだが、転んで体を突いたりしたら大変だ。急がず緩々と足場を確かめて下りる。振り返ると大変な急斜面で、仮に高価な忘れ物をしたって、もう取りに戻る気力はない。
やがて太郎谷に下り立った。地図では破線だが、ここまで林道が伸びていた。ちょうどコンクリートの板を渡した橋の所だ。この先はもはや楽チンで、急ぐ理由はない。谷へ下りてシャツを脱ぎ、タオルと清水で汗を流した。裸で木陰をブラブラして涼んでいるうちに、枝に干しておいたTシャツはもう乾いていた。広い林道をテクテク帰ると、途中で山側へ登って行く林道との分岐に出た。下山途中の「黒滝」看板は多分そこへ出るのだろう。神社でサンダルに換え、河原で足を洗おうと思ったら「川で遊ぶ人は300円を払ってください」という立札があった。こんな山奥でも世知辛いことだ。
さて帰宅して写真をパソコンで見たら妙なものが写っていた。ベンケイブナの木肌に顔があるのだ。人面というより不動明王に見える。気味が悪いというか、有難いというか・・・
顔がお判りだろうか