野登山・仙ヶ岳・宮指路岳縦走    02.12.01

 地図を眺めていて随分と鈴鹿南部がご無沙汰であることに気がついた。ご無沙汰どころか山行記に鎌ヶ岳以南が一つもないではないか。別にガイドではなく趣味としてHPを作成しているのだから偏っていてもいいのだが、それにしても・・・である。これはHP開設以来南部に行っていない事を現わしている。山日記を繰って調べてみると最後に登ったのは野登山が二年前、仙ヶ岳が二年半前、宮指路岳が三年半前となっていた。

 スリバチ滝埋め合わせと言う訳ではないが、今回はこれをいっぺんに回ってみようと思う。小岐須渓谷一ノ谷を起点にするとほぼ長方形のきれいな周回コースとなる。破線で書かれている一ノ谷コースの様子も見てみたかった。ガイド地図に一ノ谷のコースタイムは載っていないが、奥村氏の地図から拾って全部足すと7時間15分。昼食や休憩、寄り道を入れると9時間近くかかりそうだ。一年で一番日の短い初冬であるから早発ちは必須条件となる。登山口を7時ごろ出発したい。ところが小岐須の有料駐車場に着いたのは8:15。寝過ごしてしまった。まあ、タイムオーバーになったら小社峠から降りようと思って8:22出発。

 駐車場から河原へ降りると鉄橋が掛かっていた。これを渡って植林の尾根を巻いていく。植林が終ると籔っぽい道になり、マユミに似たゴンズイの赤い実がまだなっていた。やがて道は谷に近付く。下を見るとすごいゴルジュで、二段の滝が掛かっていた。これが地元で言うスリバチ滝だろうか。滝の巻き道は谷に接近した傾斜した岩でちょっとここは怖い。朝の雨で濡れてなお更である。トラロープが張られていた。滝上は滑り台のようなナメが続いていた。沢登りに面白そうだと思ったら、あっという間に凡庸な籔沢に変わってしまった。

 チドリノキ傾斜の緩い沢沿いの道を進んでいく。標識類は沢山ある。何でここが破線の道なのか分からない。最近整備されたものか。落葉樹はすでに殆ど裸であるが、シロモジが僅かに散り残り、チドリノキがまだ美しい黄色を保っている。シロダモは赤い実をつけている。秋の盛りなら良い所だと思う。350m程で道は左の支流に入る。やがて水がなくなりそうなので水筒に汲んだ。高度を上げていくと背後に入道ヶ岳の巨体が浮かび上がってくる。天気予報は晴れてくるといっていたが、どんよりとした曇り空で山容はぼんやりとしている。

 やがて前方の尾根にポッカリと空いたコルが見えてきた。絵にかいたような「窓」だ。沢道の常として詰めは傾斜がきつくなる。しかしうまく道はジグザグにつけられている。その分見えていてもなかなかたどり着かない。9:25やっと625mの窓に到着。左へ行けば鳩ヶ峰である。頭を雲に隠した鎌ヶ岳や入道ヶ岳を眺めながら一服。せっかく空気のきれいな所に来ながらわざわざタバコで肺を汚さなくてもいいようなものであるが、かえって背徳的な快感がある。それに瀕死の日本財政に少しは貢献できるというものだ。

 杉木立真西に野登山へ続く尾根を登りにかかる。随分と傾斜がきつくて時折立ったまま休む。両側は背丈ほどの笹であるが、道ははっきりしている。地面はコナラ、ミズナラの落ち葉がびっしり敷き詰められている。雑木林の中にときおりモミの大木が現れる。それにしてもいつまでも傾斜がきつい。通報ポイントと書かれた数字の看板が要所に立っている。1〜10まであるようだ。パラボラアンテナが見えるようになるとやっと緩やかになり、アセビの林。尾根の側面を巻く笹道を越えると国見広場に飛び出した。ちょうど10時。一昨年ここで風の寒さに震えながら昼食を摂った事を思い出した。また休憩だ。天気は好転せず、鎌ヶ岳の先は雲の中。

 銅板の屋根このまま車道を真っ直ぐ進むと仙鶏尾根取り付きに近いが、野登寺の大杉に再会したいのでアンテナまで登って三角点を目指す。国見石のところに「伊勢の村々いと鮮やかなり、海より向は尾張三河の山々も見え渡り・・云々」の看板があるが、今は木が茂って見晴らしはよくない。二等三角点851.6に寄る。ここにも詳細な説明書きがある。干上がった池(鏡ガ池)の横を笹を分けて進むと最初の杉。見事だ。周囲5、6mはあろうか。いったい何年経っているのか。鶏足山野登寺の歴史は千年を超えるといわれるが、それを裏付ける太さだ。寺の前に来て驚いた。前回来たときは幽霊屋敷のようだったが、屋根が美しい銅版で葺き替えられ光り輝いている。現在修復中のようだ。鐘撞堂の屋根も真新しい。寺の西にある枝が一方向に伸びている杉(母の杉?)も見物する。野登寺の杉は平成10年の台風でかなり被害が出て伐採されたが、残ったものは大切にしたい。

 仙鶏尾根よりタカノス(・786)付近寺の裏手を上がって道に出る。仙鶏尾根取り付きまで車道歩きとなる。マイクロウェーブのアンテナと車道は由緒ある山の景観を台無しにしたが、体の不自由な人でも素晴らしい風景を眺望できる山が各山域に一つ位あることは認めなければならない。車道からこれから向かう仙ヶ岳、宮指路岳がよく見える。

 ガードレールの隙間から植林の中を急降下する。もう11時だ。野登寺でゆっくりしすぎた。痩せ尾根とキレットの仙鶏尾根を急ぐ。急ぐといっても私も機械ではないからアップダウンの繰り返しはきつい。相変わらず曇天のままだが、南尾根のピーク群がよく見えている。小岐須峡エスケープ分岐からの急登でへばる。時折立ったまま休みゼイゼイ言いながら11:55仙ヶ岳東峰着。やっと人に会う。団体もいて賑やかだ。野登寺開山の祖、仙朝上人が入定したとされる仙ノ石の傍らで昼食とする。ミイラが埋まっているかもしれない上でラーメンをすするのも妙な気分だ。しかしそんなことは殆どの登山者が知らないだろう。

 仙ヶ岳を振返る12:32東峰発。10分近くで本峰961m仙ヶ岳。ここも賑わっていて居場所がないので県境稜線を北に向かう。小社峠(800m)まで急降下だ。道は安定しているが、なにぶん急なので木をつかんでブレーキをかけながら下る。峠には誰もいなかった。ここまで160m降りた分は取り返さなければならない。仙ヶ岳より15m低い宮指路岳へ行くのに何故急坂を登らなければならないのかと思ってはいけない。この不条理こそが縦走なのだ。

 犬帰りの険そろそろ疲れてきて登りがつらい。こういうときは「ありがたや、ありがたや」と心の中で言いながら登るのだ。何が有難いかと言えば、健康で山を登れることや、この素晴らしい自然を作り給うた神に対して感謝するのである。そうするとあら不思議、足がスイスイと・・・スイスイとやっぱり動かない。さすがに足は脳から離れているだけあってバカである。この有難さが分からない。しかしバカな子ほど可愛いものである。短いながらもこの二本の足が胴体から生えているお蔭で山に登れるのである。その点、頭は肩の上に乗っかって運んでもらうだけでズルイともいえる。
 このように愚にもつかないことを考えて歩いていると、ほらもういつの間にか犬帰りの険である。

 砂地のザレに風化した花崗岩が点在している。難所とされるがそう大したことはない。前方にはどっしりと台形をした宮指路岳が大きい。東峰手前に三体仏岩が見えている。振返れば野登から仙ヶ岳まで歩いてきたコースが霞みながらもよく分かる。またまた鞍部へ急降下で縦走の不条理さが遺憾なく発揮される場所だ。岩の間を縫うように下ると、登り返しは樹林帯だ。

 三体仏岩遠望2:08宮指路岳三角点着。七夕の短冊の如くプレートがあちこちにぶら下がっている。何年何月ここに来ましたと言う日付と名前が書かれている。地名を示すものは一つでいい。これらはまずゴミと言って差し支えない。では「残していいのは思い出だけ」というプラスチックのプレートはどうだろう。正論であるが現実はそうもいかない。ゴミの放置は論外としても、人間は所詮幽霊ではないので必ず歩いた痕跡は残る。植生の踏みつけ、土壌の流出への加担は否定できない。細菌や種子の持ち込み、食べ物の細片を落としていくなど無意識の痕跡も残す。屁理屈かもしれないが一応自覚しておきたい。
 「とっていいのは写真だけ」ともある。これは法律で決まっているから仕方ないが、人は昔から山の恵みを頂いてきた。山と共生してきたのである。特に鈴鹿のような低山はそうである。どの季節にどんな植物が食べられるか、どの材がどんな用途に適するか、あるいは魚や鳥獣の捕り方。自然をただ鑑賞の対象としてしか見ないなら、そうした山村文化は失われていく。いや既に大半は失われた。自給自足の時代はとっくに終ったのだから、そんなものは必要ないと言えるだろうか。私には今のような時代がいつまでも続くとは思えない。一人で歩いているとそういうことを自問自答する。

 奇岩のオブジェここは展望がないからザックをデポし、カメラを持って馬乗り岩に移動する。恐々と先端まで移動して岩に跨りパノラマ写真を撮る。すぐ先にある奇岩のオブジェが面白い。もう明るいうちに帰れる目途が立ったので急ぐことはない。最後のお茶を飲み干す。ヤケギ谷へ降りれば水はいくらでもある。

 再び三角点へ戻り南へ降下する。ヤケギのコルを越えると緩やかに東峰に向かって登りとなる。右手に三体仏岩が見えてくる。道から外れて寄っていく。素晴らしい展望だ。犬帰りの険東面の崩壊がすざまじい。朝から歩いてきたコースがぐるりと見渡せる。GPSで三体仏岩の正確な座標を採っておく。ルートに戻り少し先の東海展望に降りる。ここでも測定しながら岩の上に寝転ぶ。とうとう一日晴れなかった。小雨さえ降った。

 ヤケギ谷の滝810m位から尾根を外れて道は複雑な軌跡を描いて下降する。所々で座標取り。ヤケギ谷左岸を高巻き、また沢を離れて小尾根、小沢を越えどんどん下る。615m窯跡。チドリノキの黄葉が美しい。疲れてはいないが右足首、左ひざが少し痛くなってきたので、急斜面を後ろ向きに下る。後ろに目があると楽なのだが。やがて沢音が大きくなり本流に降り立つ。赤いもみじが淵に沈んで美しい絵を描いている。カワラコバ道分岐を過ぎるともうすぐだ。

 3:53林道着。タバコがうまい。少し一服してから大石橋を渡り舗装路を歩く。まだ駐車場までかなり歩かなければならない。右手に谷を見ながら延々歩いて4:15ようやく車にたどりついた。出発から7時間と53分。ちょうどコースタイムに昼食時間を足した時間だ。コースタイムを短縮した分を休憩や寄り道、撮影や測定に割当てられた勘定になる。ということは日の長い時期なら、これに入道を加えて更なる大四角形を描くことも可能かも知れない。でも私はやりたくない。私の体力では多分イワクラ尾根の登りあたりでぶっ倒れるだろう。