丁字尾根・冠谷右岸尾根周回 07.10.21
御池林道は遠いから嫌だと書きながら、連続で御池橋。前回は夜行だったが、今回は早朝発。やはり昼間のほうが走りやすい。コンビニタイムを含めて1時間25分で着いた。早朝にもかかわらず、橋の袂には軽トラック2台と乗用車1台。乗用車は登山者かと思ったが、中をのぞくとチェーンソーのオイルなどが入っているので山仕事の人だろう。
駐車地から草を掻き分け、直接川原へ下りる。今日は天気もよさそうなので気分も晴れやかだ。しかし入渓して暫く歩いているうちに曇ってきた。またかいな。寒気が入るといっていたので、もしかしてとは思っていた。やはり山は下界とは違う。時雨れることも覚悟しなければならない。高低差のない川原をただ坦々と歩く。まだ木々は青々としているが、いつも一人フライングで真っ赤になっているシラキが美しい。やがて前回第4尾根に取り付いた、小ショベン谷出合に着いた。今回の計画はゴロ谷大滝を越え、すぐ4.5尾根に取り付き、途中で斜上しながらボタン岩東からテーブルランドに這い上がる。そして黄葉を見物しながら懸崖沿いを西進し、西のボタンブチから冠谷右岸尾根で帰るというもの。
4尾根を過ぎてもゴロ谷はまだ川原である。ときおり重機で整地した如く、砂の土手ができている。茶屋川と同じだ。やがて数本の倒木に行く手を阻まれた。巻くよりくぐったほうが早そうだ。最後の木が座り心地が良かったので休憩とする。お茶を飲んで何気なく辺りを見回していたら、朽木にキノコがワサワサ生えている。近づいてみたらナラタケだった。図鑑は持っていないが、まず間違いのないところ。ラッキーだが、往路というところが難点だ。一日型崩れしないように持ち歩かねばならない。
広い川原のゴロ谷下流 4尾根を越えると行く手に倒木 朽木に生えたナラタケ
やがて谷らしい地形になり、大きな石が積み重なって段を成している。ようやく高度が上げられる。しばらくで左の黒い岩盤から細長い滝が落ちてきた。付近は地層が露になっていて、瓦を重ねたような岩が見事な褶曲を見せている。その上を水が這うものだから、縮緬状の美しい模様の流れになっている。昔の地図に細滝(ホソダキあるいはササメダキ?)と言うのがあるらしいが、冠滝出合にある滝のことだという説もある。この滝もそんな感じだが、名がないなら「縮緬の滝」がよさそうである。
川原から岩塊重なる谷となる 縮れ模様の滝 褶曲が分かる地層
谷幅は狭まり、圧迫感のあるゴルジュになった。左手に岩穴がある。そして正面に黒い壁が立ち塞がった。下段は確かに滝だが、上段はチョロリとした水流しかない。写真で見た大滝にしてはおかしいと思ったら、水流は左奥に曲がっていた。大滝は奥にあるようだが、濡れるのはいやなのでここで巻いてしまおうと思う。恐々右の岩を登るが、途中でやばくなってきた。涸れ谷の落ち口へ出るトラバースは手懸りがないうえに足場は斜めだ。落ちたら死ぬか、よくて骨折。やーめた。
両岸が切り立ってくる 左手に岩穴 この岩盤の上に出ようとして失敗
もう少し戻って斜面を大巻きしようと思う。ズルズルの急斜面を木の根草の根をつかんで登る。ところがいつまでたっても急斜面で、どんどん追い上げられる。戻るに戻れず、進める場所を探して登っていく。ようやくシャクナゲだらけの骸骨のような痩せ尾根に這い上がった。左の谷を下りれば先ほどの涸れ滝上へ出られると思うが、相当急なザレである。仕方がない、面倒だがロープを出そう。木の根に通し、30m折り返し(15m)で3ピッチ下ったら、10mほどの崖上に出た。エイトカンもあるので懸垂可能だが、残念ながら岩盤の上で支点がない。進退に窮する。
判断を誤った。大滝まで行って巻けば良かった。仕方がない。もう沢身に戻ることをあきらめて、丁字尾根まで登るしかない。ロープで下ったザレを何とか途中まで登り返し、左の谷状地まで泥にまみれてトラバース。しかし何という場所だ。手を抜けるところがひとつもない。ガラガラの急峻な谷と、シャクナゲと岩盤の痩せ尾根を交互に選びながら攀じ登っていく。乗り換えのトラバースも指で木の根を掘り出してつかまねばならない。壁のような傾斜はまったく緩まず、泣きたくなるとはこのことだ。結局最後の最後まで虐め抜かれて丁字尾根の道に出た。
出たところはシャクナゲピークのすぐ西だった。へたり込んで地図を出す。やはり等高線が密集していた。ピークの東の谷ならもう少し楽だろうが、そこは滝を越えてからのルートとなる。どこで打ったかスネは傷だらけ、手の指は泥だらけで血がにじんでいた。とんだ失態だった。順調に4.5尾根ならもうテーブルランドに着いているかも知れない。しかし朝早かったので、今後の計画に支障はないだろう。歩き込まれた丁字尾根は登山道と同じで、あっさりとテーブルランドに着く。ボタン岩方面はガスが流れている。またも青空なしか。
痩せ尾根からボタン4兄弟 まれに真っ赤になるオオイタヤメイゲツ テーブルに上がるとガスが流れている
まずは真っ直ぐ進んで奥の池を見に行く。ちょっと水が少ないが、周囲の木が黄葉してなかなか良い。これで木に絡まるツタが色付くと風情も増すだろう。それにしても日曜なのに誰もいない。池の周囲を回って角度を変え、何枚も写真を撮る。ミズナラの大木を入れるかどうかで印象が変わる。面白いものだ。
写真を撮っているうちにガスが晴れてボタン岩が見えるようになってきた。予定コースからボタン岩を見上げるつもりが、丁字からテーブルに上がってしまった。仕方ないからボタン岩の手前から、見上げる角度になるまで下りてみた。上がったり下がったり疲れることだ。下から仰ぐと岩の塊が覆いかぶさるような迫力が何とも素晴らしい。遠目に黄色い葉が見えていたが、間近で見るとイワギボウシの枯れた(黄葉?)葉っぱだった。
静かな奥の池 ガスが晴れた ボタン岩の下まで下降して仰ぎ見る
またテーブルランドに上がり、おにぎりをひとつ。今日も特に昼食時間はとらず、行動食方式だ。以前見つけた池に行ってみる。乏しいながら、まだ水があった。そして池に覆いかぶさるようにピンクの花・・・と見えたはマユミの実だった。将来成長したあかつきには「まゆみちゃんの池」か。
そして幸助の池を訪ねる。これは見事な! テーブルランドとはいえ、まだ黄葉のピークには達していないのだが、この池の周囲だけは今がピークだろう。まばゆいばかりの黄色のグラデーション。黒味がかった水面に散る落ち葉や、映る木々なども良いアクセントになっている。呆れるくらい何枚も写真を撮る。「数さえ打てば一枚くらい残したいものが撮れるかも」方式だ。誰もいないと思ったら一人池を見下ろす場所で昼食中だった。やってきた二人組と入れ違いに出発。幸助の丘とボタンブチの間にあるオオイタヤメイゲツは、一本の木で赤・黄・緑と三色模様。まるで信号機だ。しかし黄が褐色に近いのが惜しい。
やはり美しい幸助の池 三色モミジ
ボタンブチに出ると、相変わらずたくさんの人で賑わっていた。ということは多くの人はボタンブチを見て引き返してしまうのだろうか。もったいないことだ。ここからはやはり丁字尾根が圧巻だ。まだ青いが紅葉に染まったときや、びっしり樹氷の着いたときは息を呑む美しさとなる。それにしてもこの尾根はクジラの尻尾に似ている。もうT字尾根の名が定着してしまったが、尾根の「尾」を生かすなら、「鯨尾」と呼びたかった。シャクナゲピークを眺め、あの下で苦闘したのかと思う。天気は回復し、所々日が射してきた。天狗の鼻で今一度眼下を眺め、西へ向かう。右手丸山の盛り上がりはかなり色が来ている。
ボタンブチから丁字尾根 天狗の鼻からボタンブチ 天狗の鼻から西のボタンブチ
ササがなくなった小尾根を越えて、実に久しぶりの風池に着く。名付け親は名古屋で入院中。テレパシーで画像を送ってみる。やはり無理か。水は浅く「あら足らん」状態で、アクセントのカジカエデもまだ真っ青。
いつの間にやら青空になって、オオイタヤメイゲツが黄金に輝いている。誰もいない明るく快適なテーブルの端を緩々と歩く。朝の泥まみれの格闘とえらい違いだ。早く通り過ぎてはもったいないので、ヌタ場の上の平坦地に腰を下ろしておやつタイムにする。のんびりしていたら女性登山者が通り過ぎていった。辺鄙な処に単独女性とは珍しい。山慣れた人なのだろう。
ひと雨欲しい風池 すっかり回復して青空が 快適な1180mライン
一山越えて丸池へ。ここは幸助ほどの黄色はなく、ひっそりとした佇まい。なんか最近丸池ばかり見ているような気がする。数えて見れば一筆書きで2回、ミルキー、鉢巻、今日と、短期間に5回だ。それからお決まりの夕日のテラス。ゴロ谷各尾根の観察台である。そして伊勢尾の向こうに御池橋が見えている。目いっぱいズームで撮ったら自分のクルマがはっきり写っていて、隣に一台クルマが増えていた。丁字尾根に目を移せば角度が横からになり、シャクナゲピーク付近の地形が分かり易い。ボタンブチを振り返れば山腹は微妙に染まり、来週辺りがピークかと思わせる。
また会いましたね、丸池さん 夕日のテラスから振り返る お花尾根のオオイタヤメイゲツ
西のボタンブチを越えてお花の尾根のメイゲツ純林を観賞する。まだ全体的に青いが、中には素晴らしい黄金色の個体もある。冠谷右岸尾根を下りるには、そろそろテーブルランドとお別れだ。コンパスを定めて斜面に飛び込む。しばらく我慢の急降下。もう林の木に紅葉はない。870mで平坦になり、尾根に乗ったことが分かる。窯跡あり。右に振らないように左の冠谷を見ながら下る。少々ヤブっぽいが問題はない。尾根は先端で岩場になり、横から巻いて下りる。
出合に下り立つとアザミ谷に美しい滝。冠谷には少し奥にイワタバコが生える高いゴルジュがあり、その中を糸のように細い滝が走っている。やはり冠滝が細滝なのだろうか。冠谷源流は登山道と無縁なので、水を掬って飲んでみる。すごく冷たくて味が良く分からない。アザミ谷を下流に向かって歩いていくと、この清水は忍者のように消えてしまう。正面には丁字尾根先端のピークが盛り上がっている。すぐだだっ広い川原になったゴロ谷出合に着く。ここから西のボタンブチ、そして本流との出合まで下ると本家ボタンブチを見通すことができる。はるか頭上を見上げ、よくまあ、あんな所まで登って下りてきたものだと、感慨に浸るのが下山後の常である。
870m 窯跡 冠滝 本日の花