幾里谷北方尾根から霊仙山    01.04.01

 「鈴鹿の山と谷」第1巻 P151に幾里谷北方尾根の紹介がある。これは長大な霊仙山柏原道、4合目から直角に南東へ派生する尾根である。こんな所誰も行かないだろうから、面白い花でも咲いていないかと行くことにした。そう決めたのは先週のバカ陽気のことである。ところが、週末に寒波がきて山に雪がかかってしまった。雪は好きだが今ごろ降って欲しくなかった。でも標高が低いから大丈夫だろうと予定通り決行。

 ここへ効率よく取り付くには上石津の「時」から養老カントリー倶楽部を通りコエドへ向かう林道が良い。朝起きたら山は煙っている。R365で上石津へ入ったら雪が降ってきた。なんと言うこと。延坂集落に林道ゲートがあれば歩くつもりでいたが、ゲートはなくコエドまで車で上がれた。道は積雪がある。コエドというのは変な名前であるが、漢字で書けば越戸だろう。猿登の尾根がいったん低くなって峠状になっているからである。ここに建物があった。林道から見るソノド

 更に車で進むとじきにゲートが有った。ガッチリと鍵がかかっている。ここから歩きとなるが、延坂から歩くことを思えば時間の節約ができた。8時23分出発。ガスに煙るソノドや幾里山を眺めながら、とぼとぼと雪の林道歩きである。ソノドは別名霧が峰というが、今日はぴったり当てはまる。とても寒い。

 しばらく歩くと林道は3本に分かれていた。25000地形図に無い道だ。この地図は古いけれども「山と高原地図」2000年版にもそんなのは載っていない。まいったなあ。地形図にある道は真中だと思われるので、それを進む。雪の下の水溜りには氷が張っていてバリバリ鳴る。まるきり冬だ。取り付きを予定していたP731の東でスパッツを履く。8時45分。西へ向かって斜面を直登する。

 植林の急斜面を息を切らして登る。グズグズの雪で歩きにくい。やっとピークの手前まで登ってザックのショルダーベルトに挟んだ地形図を落としてきたことに気がつく。まいった。せっかく登った斜面をまた下りるか迷う。白い雪上に落とした白い地図が見つかるか確証がない。風で飛んだかもしれない。でもやはりこいつが無いと仕事にならないので下りる。運良く見つけてほっとする。時間と体力をロスした。

アセビ 植林の脇にアセビが咲いている。あれ、アセビってもう咲くんだっけ。違う花かもしれない。よく分からん。ピークらしき所は植林と少しの二次林で全く見通しは無い。紫のテープがひらひらしている。紫頭巾氏か?さすがに妙な所に出没されるようである。コンパスで方角を見定めて鞍部へ下りる。地形図を見れば、稜線をたどるだけのように思われるが、実際は見通しも無くコンパスが無いとお手上げである。

 下りてゆくと木がなく真っ白な場所があると思ったら何と林道だった。先ほどの分岐の左俣はP731を西から巻いていたのである。あほらし。この地図に無い道は延々と等高線の700mラインに沿って延びているようである。北方尾根は上まで植林で花などありそうもない。もう西尾氏の世界ではない。私たちが下界で何気なく過ごしているうちに知らないところで着々と工事は進んでいたのである。それにしても昨日今日できた道ではなさそうでこれは地図屋さんの怠慢である。

 雪に煙る幾里谷源流目的を切り替えて林道を歩くことにした。それだけで帰っては格好がつかないので谷山あたりのピークを踏んで帰りたい。林道は曲がりくねって延々と伸びており、直線距離の倍は優にありそうで、足が棒になってくる。しかし眺めは良い。幾里山が徐々に大きくなってくる。よくこんな所に道を付けたものだ。谷向こうの広大な斜面はすべて植林で人間のパワーは恐るべきものである。むろん北方尾根も上まで植林で上がる気がしない。谷底の幾里谷の沢音が這い上がってくる。道端にマンサクの花が咲いている。

 やがて降雪が激しくなってきた。花の稜線漫歩のはずが吹雪の林道歩きとは・・・これほど目算外れの山行は初めてだ。もう車を降りて2時間半も歩いている。林道は源流を大きく巻いて南に向かいだした。もう柏原道は近いと思って林道に別れを告げ植林の斜面を西へ登ったら、登山道に出た。霊仙柏原道の4合目と5合目の間である。有り難い事に今日のトレースがある。二人組と思われる。一人は私と全く同じビブラムソール、もう一人は見たことも無いソールパターンである。柏原道

 琵琶湖11時27分6合目看板。しばらく歩くとなんと樹氷まで出てきた。前回で冬山は終わりだと思っていたのに今ごろまた樹氷とは。嬉しいような悲しいような。7合目まで簡単に着いたので欲が出て、谷山はやめて経塚山、あわよくば霊仙山まで行くことにする。時おり日が射して樹間から、延々と歩いてきた林道が見える。その向こうは養老の笙ヶ岳か。

 正午、四丁横崖で斜面を登る先行者を視界に捕らえる。今日始めてみる人間だ。なんだか嬉しい。休憩もせずに8合目9合目と歩きとおしてやっと避難小屋のピークに着く。くたびれた。前方にはさらに高く経塚山が聳えていて気力が萎える。山頂までははるか遠い。

 山では距離感が狂い、近いピークがやけに高く遠く見えることがある。雨乞岳の東峰と本峰、クラ辺りから見る竜もそうだ。気を取り直して経塚山へ向かう。たいした傾斜でも無く程なく到着。風が強く標柱にエビの尻尾が付いている。しかし前方にはガスに煙った霊仙本峰がさらに高く遠く立ちはだかっている。

 山頂エビの尻尾気力回復のため小休止しているうちにガスに巻かれてお虎ヶ池の方に降りてしまった。また登り返して時間と体力を消耗してもうやめようかと思った。しかしここまできて引き返すのもシャクだからまた前進。登りでとろい団体さんに追いついてしまってペースダウン。しかし楽だ。突然ガスが晴れてきて右手に琵琶湖が現れた。白い比良の山々も見えて素晴らしい。12時40分三角点着。御池岳

 山頂では風が強く4月とは思えない寒さだ。南へ20mほど下りて岩陰に座り込んだ。コエドから4時間強、腰を降ろすのは初めてで、体の力が抜けていく。早速湯を沸かしてインスタントの味噌汁とおにぎりで昼食。アサリの味噌汁がうまい。こんなにうまくていいのか。最高点と南霊岳を結ぶ尾根に人が歩いている。いいねえ、こういう風景は。そのうちガスが完全に晴れて彼方に御池岳が姿を現した。それをおかずにおにぎりを食べて、極楽やね。

 経塚山を振り返る再び三角点に戻って大展望を楽しむ。伊吹山は残念ながら上部が雲に隠れているが、ほかは素晴らしい眺望だ。名残惜しいが、時間が押しているので山頂をおいとまして岐路に着く。柏原道を降っていると7合目辺りで林道が接近しているではないか。この先に車が有ると思うと、つい魔が射して林道に飛び降りてしまった。しかしこれは間違いだった。アップダウンが無い代わりに尾根の張り出しで大きく迂回しており、朝取り付いた地点まで相当長かった。振り返れば林道は谷山を巻いており、一体何処まで続いているのやら。まさかナガオを巻いて白谷の林道と接続しているのではないでしょうね。知っている方は教えて下さい。幾里谷北方尾根と林道

 天気は快晴となり伊吹山が美しい。暑いほどで、陰に入るとほっとする。雪はグチャグチャ。途中で幾里谷右股から釣り人が二人這い上がってきてびっくり。私に「釣れましたか?」とおっしゃる。釣りじゃないちゅ〜の。旅は道連れで、この羊腸として長々しき林道をゲートまでご一緒した。途中フキノトウを少し摘む。タラもあるけどまだ芽が出ていない。昼食もとらず釣っていたと言うお二人はグロッキー気味だ。林道を地図に書き込むため要所でGPSでデータを採った。もう足が棒になって更に枯れ木になるころにゲート着。4時45分。歩いた感覚では上高地--横尾間に匹敵する長さだ。

 家に帰ったら「何、その顔」と言われた。鏡を見たら酔っ払いの如く真っ赤に日焼けしていた。男前が台無しや。