薮ヶ谷・谷山・ソノド周回 09.06.28
今の季節にこのコースを歩くものではないことは分かっている。しかしヒルが減ったと言う報告が相次ぎ、それを検証に行くにはもってこいだ。幸い天気も悪い。しかし天気予報は三日前から二転三転。こんなのに振り回されては山へ行く日がないので、今日は予報と無関係に行くことに決めていた。
R306ではワイパーを使ったが、時山に入ると雨はやんだ。しかし薮ヶ谷林道はグチャグチャでクルマはワヤ。奥のほうで落石が幾つか道を塞いでいたので、降りてどかす。朝っぱらから力仕事で腰が痛い。最後は堰堤も車で越えられるが、帰路を考えれば乗り入れても意味はない。
堰堤を越えて薮ヶ谷入渓。最初のほうは概ね右岸に道があって快適だ。やがて渡渉を繰り返すようになるが、案外水量があって苦労する。石がツルツルなので、足の置き方に細心の注意が必要だ。それが何度も繰り返されるのでイヤになってきた。沢靴を履いてくればどうということはなかったのだが、今更遅い。こういう谷は長靴が良いが、今適当な長靴を所有していない。以前使っていたシマノのフェルト底のものは最高だった。
そろそろ出そうだと思って足元を見ると左右の靴に一尾づつ。塩水スプレーをかけたら丸くなって落ちた。しかし死にはしないようだ。私とて無益な殺生はしたくない。血さえ吸われなければそれで良いのである。やがて腰に違和感を覚えたのでシャツの下に手を入れてみた。やはりいた。引っ張っても取れないのでこれもスプレー。すぐ離れた。
やがて生い茂る草の中に古ぼけた「霊仙山ハイキングコース」と書かれた看板があった。この谷は登山靴で来るにはハイキングどころではない。途中から道なんかないのである。まだ薄暗い谷中に色のきれいな蛇がいた。帰宅後調べたらジムグリの幼体だそうな。花はヤマアジサイが多い。マタタビの白い葉も目立つ。
やがてヒル密度が高くなり、頻繁に点検が必要になった。次から次へと登ってくるので頭に来た。ちょうどタバコを吸うところだったので、ターボライターを見舞ってやったらイチコロだった。塩水より勝負が早い。以後靴の上からヤキを入れまくる。先ほどの動物愛護精神は何処へやらである。人間逆上すると理性も飛んでしまうようだ。しかしすぐに落ちるので、死んではいないかも知れない。
入渓直後の薮ヶ谷 昔は整備されていたことが分かる 窯跡も多い
いくら歩いても薮谷滝に出会わないので不思議に思う。ようやく滝が見えてきたのは高度600m弱。エアリアマップは大きく間違っている。ずっと手前から巻くのだろうが、一応真下まで見物に行く。庵座の半分くらいだが15mくらいの立派な滝だ。 戻って左岸を巻くがテープはあれど道はなしという状態で、けっこう苦労する。しかも落ち葉が滑って危ない。また薮っぽい谷に戻ってしばらく進むと鹿除けのネットがあった。頑丈なネットで、もはやこの谷は登山道としての用途は放棄されているようだ。無理やり潜ってザックが引っ掛かり、大変苦労する。近頃しゃがむという行為がとても苦痛になった。
唯一の滝ながら見事な薮谷滝 ワイアとネットが谷を塞ぐ 涼しげな落ち込み
その上流にまたハイキングコースの看板があって実態とかけ離れている。二俣にまたネットが行く手を遮り、鹿除けというより登山者除けの役目を立派に果たしている。またザックを絡めとられ、誰も見ていないからよいものの、みっともない格好だ。本流と思われる左に入ったら、木イチゴがたわわに生っていた。真っ赤な実と三裂の葉。ミヤマニガイチゴか。二粒食べる。
美しい鳥の羽 (カケス) ヤマアジサイ 真っ赤なキイチゴ
やがて恐るべきヤブ沢になって一歩も進めなくなった。しかもコンパスは西を向いている。間違えたようなので戻って右俣斜面にトラバース。ネット沿いに進むが、危ないトラバースだ。良くこんな所で作業したものだ。たまらず谷に下りる。この谷も薮で進めなくなったので右の山腹に取りつく。おっと水汲みを忘れるところだった。
ともかく真北に進めば薮谷峠付近に出ることは間違いないので、懸命に急斜面を登る。2m位に育った苗木の中だが、問題はその間に密生するサルトリイバラや木イチゴの棘だ。コース(あるのだろうか?)を外すとこんな地獄を見る。見上げるような急斜面は一向に緩まず、泣きたくなってきた。対岸にはのんきにヤマボウシが咲く。
ようやく出たところは何と林道だった。しかしイバラの薮から開放されてマジで嬉しい。荷物をぶちまけて休憩しながらGPSで位置確認。薮谷峠から100m位南東だった。峠はちょうど林道の交差点になっていた。その西にも林道が二俣になっており、もはや付近の尾根はすべて林道が取り巻いているようだ。ソノドは霧ケ峰とも言うから、林道はビーナスラインということになるかな?
植林に混じるヤマボウシ 薮ヶ谷を振り返る 林道に飛び出した
そして林道にもネットが張り巡らされ、通過は容易ではない。学習効果で荷物だけ先に向こうに渡し、空身で下を潜る。ネット裾のペグを抜いてめくり上げて通り、あとで元に戻す。薮を抜けてすぐに薮に入るのはイヤだったので、しばらく林道を西に進んだが、確認すると道はやがて南下し始めた。これはいかんとナガオP953に登る。ササユリが一本。953直下で地獄の逆目密薮につかまり、ここも泣いた。
一輪のササユリ 谷山手前からソノドを望む 谷山山頂
ナガオに出ると谷山まで良い道だったが、ここも延々とネットがあり、気ままに歩くことはできない。やっと谷山三角点を踏む。そろそろ昼食にしようと思ったが、ここは陰気くさい。西に向かい、樹林帯を抜けると一気に展望が広がり、霊仙山の全貌が見えた。御池藤原も見通しが利くよい場所だ。短い石柱が建っている。東南○河内○・・・字は不明瞭で読めない。
ここでシートを広げ昼食とする。鹿がまばらに逃げていく。木陰ではないが、曇っているからかまわない。靴を脱いで石灰岩の上に干す。靴下を脱ぐと被害は一箇所もなかった。早めの対処が利いたのか、ヒルの活性が落ちたのか定かではない。霊仙山は避難小屋、経塚山、三角点、最高点とすべて見えるが、人影はなかった。予報が悪かったからだろうか。
ランチ場から御池岳・藤原岳 鹿がこちらを偵察している 霊仙山の向こうに青空が覗く
一時間ばかりくつろいでいたら急速に天候が回復し、暑くなってきたので退散する。帰路地形図では谷山から真東に点線があるが、実際の道はなかった。かまわずコンパスどおりに進む。エゴの白い花が美しい。慌ててヤマドリが逃げていく。短い下草の中にウリハダカエデが林立する雰囲気のいい場所だ。
やがて林道に出てしまった。またかと思う。一瞬方角が分からなくなる。朝の林道とは違うようだ。東に進むと朝の二俣に出会って納得する。薮谷峠の二俣の間に切り開きがあったので、これに入る。鹿遊び(・908)への尾根である。すると、すぐまたネットに捕まりウンザリだ。あまりの歩き難さに辟易してまた林道に下りてしまった。このまま林道ばかりを歩いてソノドの裾に出れば楽だが、それでは矜持が許さない。林道から再び鹿遊びの手前鞍部に登り、尾根に復帰する。
エゴノキが花盛り ウリハダカエデの林 林道の縁に咲くコアジサイ
天気はカンカン照りになり、帽子を持って来なかったことを後悔する。しかも汗を掻きすぎて手持ちの水が心細くなってきた。西尾氏の言う楽園はもはやここにはない。尾根はベルリンの壁の如く、高いネットで東西に二分されている。ネット際の植林地帯を太陽に焼かれながら延々と歩く。暑い・・・。乏しい水を、時々少しづつ舐めながらふらふらと歩く。汗をかいたうえに、昼食の塩分が祟って、やたらに喉が渇く。今、腹いっぱい水が飲めたらどんなに幸せかと思う。ラクダに揺られて熱砂を行く、アラビアのロレンスになった気分だ。
道は緩やかに下降するが、前方には絶望的な高さでソノドが聳えている。なおも太陽はジリジリと脳天を炙り、車に着くまでに熱中症で死ぬかもしれないと思った。鞍部から林道に逃げようか・・・との思いが一瞬よぎるが思いとどまった。夢遊病者のようになおも進んでいくと、尾根は左へとネットを離れ、二次林に突入した。
これは救われた。樹林帯がこんなに有難いものとは知らなかった。木陰にへたり込んで、お猪口一杯ほどの水を飲んだ。ウマー。ソノドへの登りは緩やかな二次林である。本日唯一の癒される場所だ。夏ツバキの花が落ちていたので上を見上げるが、咲いているものは見つけられなかった。休み休み、ようやく平坦な山頂に登りついた。お祝いに贅沢をしようと、残っていたコップ三分の一ほどの水を一気飲み干した。ウマー。焼け石に水のような気がしないでもないが、少し力が戻った。ソノド山頂標識は5年前と変わっていた。
ここからのコースはコンパスが欠かせない。南西の尾根に乗り、南の尾根に乗り換え、途中で右折して谷に出るようになっている。外したって谷を下ればいいだけのことだが、できれば楽な所を下りたい。途中までうまくいったが、右折点がよく分からないまま急斜面を下降する。しかしテープがあったので、これでいいのだろう。
そのあともテープはあれど道は無しのひどい急下降だ。やがて待望の沢音が聞こえてきた。涙が頬を伝う(ウソですが)。流れに向かって駆け下りる。さっそく手で汲んで一口頂く。今までのペットの生ぬるい水と違って、鮮烈な冷たさが喉に沁み入る。ゴクゴク、ウマー、ゴクゴクゴク、ウマー。全身の細胞に水分が浸透していく。
ネットと植林でぶち壊しの鹿遊び ソノド手前の二次林に救われる 下山路に放棄されたワサビ田
すっかりリフレッシュして、意気揚々と先へ進む。少し下っていくと左岸に石積みの棚田のような遺構があった。ワサビ田の残骸のようだ。このあとの谷下りは滝こそないものの明確な道はなく、決して楽なものではなかった。角ばった石の堆積で歩き難いのだ。出合までけっこう長く感じたが、ちょうどそこにクルマがあるという具合で救われた。