竜ヶ岳蛇谷廃道ルート    07.05.20


 @ 2万5千地形図には金山尾根から蛇谷へトラバースする破線がある(標高650mあたりで忽然と消えている)。

 A 旧エアリアマップには蛇谷通しに破線があって山頂直下へ出ているが、これは純粋な沢登りコースで@の破線とは別である。

 B 中道(ヨコ道)登山道の860m付近にロープが張られて「蛇谷行止り」とある。

 C新しいエアリアマップには「蛇谷コースは荒れているので危険」とある。

 D以前沢登りで蛇谷へ入ったとき、中程で 「桑部親子自然教室」の看板を見た。

以上のことから昔は沢登りとは別に、金山尾根−蛇谷−中道を繋ぐコースがあったことが分かる。そのルートが現在どうなっているのか確かめつつ、竜ヶ岳山北面のシロヤシオを見に行こうと思った。険しい蛇谷のいったい何処から七ツノヤマ尾根に上がるのかが興味の焦点である。

 日曜の天気予報は上々。絶景が見られるかもと期待する。朝起きて窓から山を見れば、新緑も鮮やかに空気が澄んでいる。こういうときは山が近く見える。ただ山頂付近はどの山もガスが取りきれていない。しかしこれは時間とともに消滅するだろうと楽観する。

 自宅から宇賀渓までは10分ほど、あわてることはない。むしろ遅い方が天気が良いだろう。とは言え、いったん行くと決めたら他のことをにする気にもなれず、結局朝食後すぐ出掛ける。8時ごろ落合橋に着いたが、すでに満車である。皆さん朝が早い。車から降りるととても寒く、早朝よりも陽射しがなくなっている。いやな予感。

 売店から林道に入ると妙なものができていた。パラボラアンテナ付きのトイレみたいな建物であるが 「名大理学部 地殻活動観測点」という物々しいプレートがある。しばらく歩くと林道山側の崖にトンネルのような構築物があった。ここにも同様のプレートがあって、入り口は金属製の扉でふさがれている。たぶん中に観測機器があって、先ほどのパラボラからデータが送信されるのだろう。
 なぜ突然、地殻変動の観測施設が・・・? やはり日本沈没のウワサは本当だったのか。諸外国が一億人以上の日本人難民を受け入れてくれるだろうか。特に反日感情の強い近隣諸国は厳しい。今のうちに避難先を考えておかねば。やはり欧州の娘を頼るか。それにしてもこの横穴らしきものは、どう見ても火葬場にしか見えないのだが。

 ホタガ谷登山口を通り過ぎて二つの橋を渡る。複数の分岐を山側にとり、金山尾根へ入る。この尾根は何度か歩いたが、芸術的な道が付けられている。落ち葉を踏みしめて歩いていると、ひょっこり炭を担いだ杣人と出会いそうな雰囲気がある。ホタガ谷登山道なんかより安全で歩き易い。負バレ石のような花崗岩を巻くと見事に平坦な自然の椅子がある。そろそろ汗が出る頃だが、今日はいっこうに暑くならない。やがて標高560mの水平道にでる。ここは一部展望があるのだが、山頂付近のガスはいっこうになくならず、それどころか下方へ下がってきている。風も出てきて寒い。そして小雨がパラパラと。何のことはない、先週の二の舞だ。

       いつの間にこんなものが                 良い道が続く金山尾根

 600m付近で蛇谷分岐。これもはっきりした道型である。炭焼きの杣道として付けられ、のちに蛇谷登山道として利用されたのだろう。ただ山腹をトラバースしているので尾根道よりは荒廃しやすく、一部あやふやな箇所がある。それに落葉が積もっているので、竜ヶ岳の他の道と同じく滑りやすい。落ち葉は良く見ると殆どアカガシである。照葉樹の落葉は丈夫で厚く、落葉樹より滑りやすい。

 道はなかなか蛇谷に下りない。むしろ登っている。ようやく谷に近づく付近に差し掛かると、道は山腹に吸収されてなくなっていた。もう強引に下りてもいいのだが、むりやり道跡と思しき所をトラバースするとまた道が現れ、やがて谷に下りた。予想通り「桑部親子自然教室」の標識のある場所だった。6年前に険しい沢登りの果てに、このようなほのぼのとしたプレートを見て随分違和感を持ち、拍子抜けしたものだった。なるほどちゃんとルートはあったのだ。

 ここは谷も穏やかで、階段程度の滝が点在している。そのまま谷を横切って右岸を上がる道はなかった。ここからは暫く遡行するようだ。親子観察会の日付は昭和63年1月24日とある。もう20年近く前の古いものである。それはいいとして1月24日とは何ごと? 厳冬期に子どもをこんな場所に連れてきたのか? 謎は深まるばかり。

          蛇谷に下り立つ                       昔見たプレート

 しばらく谷沿いに道跡があり窯跡が現れ、ヒメレンゲが咲いていた。徐々に谷は荒れてきて、歩きにくくなった。もはや登山道ではない。やがて7mほどの垂直の滝に突き当たる。6年前に何処をどう登ったのか、あるいは巻いたのか記憶にない。右岸から巻き上がって進むが、この先谷通しは困難となった。どこかに尾根へ上がる道があるはずだと周囲を観察すると、左手上部にまた「桑部親子・・・」の黄色いプレートを見つけた。よく見ると立ち木に巻いたテープもある。しかしルートにしてはとんでもない急斜面だ。

       蛇谷の河原にある窯跡                      7m滝

 息を切らせてテープを追う。右手には樋状に流れる細いルンゼ。道型など全くない。ただの急斜面を一本調子に登っている。木をつかまなければ滑り落ちる傾斜で、とても昔からある道とは思えない。このテープは適当に登った人が巻いていったものではなかろうか。だとすれば蛇谷ルートは別に存在するのか? それは分からないが、可能性としてはもう少し下流から南へトラバースしつつ七ツノヤマ尾根に登り、中道と合流するのが等高線上合理的と思える。

 傾斜が緩むとギンリョウソウの咲く窯跡へ出た。何でこんな場所に窯跡?と一瞬思ったが、別に急斜面を登らなくても、上の尾根から容易に到達できるだろう。雰囲気の良い林の中を登っていくと、じきに七ツノヤマ尾根に出た。そして例のロープが張られた所で中道一般道と合流する。ガレの淵に立って下界を眺める。眺望絶佳にして、自宅付近の溜池も確認できる。しかし山頂方向は厚いガスに覆われていて、これは冬型の天気と同じだ。風もますます強くなってきた。

 しばらく中道を登るとシロヤシオ最初の一本が咲いていた。よし、時期は外していないぞと思う。しかし問題は天気で、このまま樹林帯を抜けると展望がないばかりか、猛烈な風にあおられるだろう。ここらで風を避けながら天気待ちの昼食にするのが上策だ。道を外れて風下の樹林の中に分け入る。斜面に倒木を見つけて腰を下ろす。今日は火を使わないからこれでいい。しかも周囲はシロヤシオの花園だ。無風で暖かい日なら極楽の状況だが、何の因果かこの冬のような天気。お握りを食べつつ、寒さに震える。ミニ温度計は9度を指している。地面にはまだ盛りの花が強風でたくさん落とされていた。

      ガレから眺める砂山と福王山                  風に吹かれるシロヤシオ

 食後周囲のシロヤシオを撮影する。接写主体となるが、風でどうにもならない。花が大揺れで写真にならない。辛抱強く風の呼吸の合間を狙ってシャッターを切る。ここでもっと長く時間を潰すつもりだったが、寒くてじっとしていられない。仕方ないので、荷物をまとめて出発する。一本だけ咲きかけているベニドウダンが、風鈴のように震えていた。

 樹林帯を抜けてササ原へ出ると猛烈な風に煽られた。時間つぶしの甲斐もなく山頂は全く見えない。しかしクラからその西のピーク付近は、ガスの切れ間にシロヤシオの群れが見え隠れしている。うーん、ガスもさることながら、咲いている個体が少ない。6年前の半分、いや1/3くらいか。しかし昨年よりマシかと気をとり直し、撮影ポイントを探してササの大海原へ漕ぎ出す。濡れて滑る斜面のササ原を歩くのは容易ではない。

 この辺が良かろうという場所でカメラを構えたとたん、強風に押されてひっくり返った。「誰も見てなかったやろな」と周囲を見回すが、こんな所には誰もいない。ただ、クラから山頂に向かう登山道を歩いている人が豆粒のように見えている。ということは向こうからも私が見えるだろう。しかし、これだけ遠ければ大丈夫だ。

 ガスの動きは早く、切れ間は殆どない。風景が開いてから電源を入れていたのでは間に合わない。雨とも霧ともつかないものが風に乗って飛んできてレンズを濡らす。まるでアルプスのようなガスの動きだ。よし!開いたと喜んだら、風に煽られて本日二度目の転倒。これは弁解しておくが、老化現象ではない。足場が非常に悪いうえにファインダーを覗いているので、風でコケてしまうのだ。まあ、そんなことはどうでもいいが、時間がたつに連れてガスの状況は悪化するばかり。指もかじかんで痛くなってきたので、ひとまずしゃがみ込んで一服する。座ると多少風が当たらない。

      ガスが絶え間なく下りてくる            一瞬幕が開くが、開花している木がが少ない

 待っても待っても良くならない。足腰が疲れるわ、指は痛いわ、鼻水は垂れるわで、もう限界だ。結局着いたばかりのときが一番良かった。ガスの幻想的な味が出せればよいかも知れないが、そんな腕も機材もない。やはりここはガスよりも草原の開放感が命だ。晴れないと分かれば撤退である。

 帰路は中道登山道。忘れていたが、ここの下りは道が悪いと再認識。濡れるとさらにいけない。川原に下りると風も止み(というか風が当たらないのだろう)、日も差して暖かくなってきた。この好天が気になって後ろを振り仰ぐ。やはり上部はガスに隠れているようで妙に安心する。ミズキの素朴な花やギンリョウソウ、五階滝など観賞しながらブラブラと帰った。

ギンリョウソウはお馬の親子