十字峡から竜ヶ岳(ヤブコギネットオフ会) 06.09.10
通風山さん主宰のヤブコギネットでオフ会が催されるというので参加した。最近肋間神経痛が暴れだし、背中をどやされたような痛みが出る。すぐ治るのだが場所を変えてまた出てくる。ひどければ石榑峠往復のお手軽登山にするつもりだったが、調子がいいので近江側の又川まで出張することにした。ヤブコギのオフ会だから少々ヤブも漕がねば申し訳ない。
茨川林道には先日御池岳で見なかったアケボノソウが咲いていた。意外なところで見るものだ。8時半ごろ出合に着いて準備する。奈良ナンバーの青いジムニーが一台停まっていた。参加者だろうか。細々と付いた入渓ポイントから川原に下りる。気のせいか川が浅くなったようだ。8時40分出合出発。
天気はどんよりとした曇り空で、茶屋川支流又川は昼なお暗い。両岸の斜面からはギャーギャーと鳥獣の鳴き声が木霊して、アマゾンを遡行しているかのようだ。又川もちょっとした幽境だなと思って歩いていたら、ばったり人と会ってドキリとする。竿を置いて仕掛けを直している釣り師だった。二言三言、言葉を交わして失礼する。私がこの先ジャブジャブ川を歩けば釣りに影響を及ぼすことは必至だが、所詮登山者と釣り師は相容れない関係である。私は山に開眼する以前、渓流釣りに明け暮れていた。その頃、道があるのにわざわざ川の中を歩く、沢ヤというろくでもない人種に業を煮やしたものである。
又川は山日記を見ると6年ぶりだが、脳細胞が減少の一途をたどる昨今では記憶が薄れているのも仕方ない。こんな角ばった石の川原だったかなと思う。鮎タビを履いてきたので足裏が痛い。「かなんなあ」と一人ぼやいていたら、前方の高い枝が大きく揺れた。子ザルがたくさんぶら下がっている。私に気付いてあっという間に、まるでサルのような身軽さで(サルやちゅうの)撤収を始めた。カメラをズームに切り替える暇がなかったので、そのままシャッターを押した。アリぐらいにしか写っていなかった。
取付きと白谷出合の中間くらいのところで、左岸にミズナラの大木を見つけた。近頃持ち歩いているメジャーで幹周を測定する。ついでに休憩だ。急ぐ旅でもない。家から宇賀渓までクルマで10分という地の利だが、近すぎて申し訳ないので滋賀まで回ったものの、実は標高差で言えば宇賀渓起点より楽なのである。集合時間より早く着き過ぎても困るので時間調整用の娯楽本まで持ってきた。
円の中がおさるさん ミニゴルジュ 浅いので何の障害もない 大きなミズナラ 303cm
誰が名付けた「鈴鹿の十字峡」。ご本家と比較するにはあまりにしょぼくて涙が出そうだが、他に候補地が思い浮かばない。両岸の出合が一致するのは、余程珍しい偶然なのだろう。白谷側に座り込んで鮎タビを脱ごうとしたら、ネオプレーンの生地に頭を突っ込もうとしている勇猛果敢なヒルがいた。場所を変えて登山靴と履き替える。何処から尾根に上がろうかと白谷道を歩いていたら、尾根がどんどん高くなってしまった。戻りながらヤブを掻き分け、尾根筋を目指す。
尾根芯は木がびっしり生えて遅々として進めない。これはエライ尾根に入ってしまった。時間調整どころか、たどり着いた頃には解散しているかもしれないと焦る。左側を見たら急斜面に杣道の跡がある。風化しかけていて恐いが、ヤブがないので早く歩ける。道がなくなると右上が明るくなり、尾根が広がっているようだ。這い上がると風情のある二次林だった。傾斜も緩み、疎林の中を自由に歩ける。やれ嬉し、また休憩だ。
やがて左に竜ヶ岳が望めるようになり、天気も良くなってきた。ところが高度が上がるとまたヤブにつかまった。アセビである。こいつらは年中青い葉をつけて元気が良すぎる。落葉樹は盛者必衰の理を知って趣があるが、「もののあはれ」を知らん常緑樹は風情に欠ける。それらを掻き分けて登ると、尾根は左折する。ブナの木があり、見晴らしのいい場所である。だが、いまいちガスが晴れない。
十字峡 右上と左下から支流が入ってくる 白谷右岸尾根の快適な所 やや!尾根の向こうに富士山が
左折するといきなりガレにつかまる。しかし木がないので展望はよい。なんと尾根の向こうに富士山が頭を出した。良く見たら天狗堂だった(当たり前じゃ)。この先ナイフのような痩せ尾根になり、左側は谷底一直線、真ん中は木が生えて道はない。おまけに風化したボロボロの花崗岩でできている。進退窮まって思案する。右の斜面を草木をつかんでトラバースするしかない。泣きながら難所を通過すると、前方は壁のような急斜面となる。これはまあ右隣の白谷峠から登るときも同じことで体力勝負である。
真っすぐ登るほどエンジン出力がないので、ジグザグを切りながらヨタヨタ、ハアハアと登る。つかめる木は何でもつかむ。立ち止まって時計を見ると時間が押している。これを登りきってもまだP962で、竜ヶ岳はまだ遥か先。時間調整は不要となった。無駄になった娯楽本が重たくて捨てたくなった。ヨタヨタハアハアを繰り返していると無間地獄も終焉を告げ、上部が明るくなってきた。962で涼やかな風に吹かれて休息した。御在所岳方面の谷からガスが湧き上がり、墨絵のような風景が展開する。
ここから竜ヶ岳三角点までは1km強。傾斜も差ほどでもなく時間通りに着けると思った。ところがまたアセビとササのヤブが進路を妨害する。ここは冬にしか通ったことがない。当然雪に埋もれて快適だったので知らなかった。尾根北のシカ道から戻ったのが失敗だったようだ。ずっと北側を行けば良かったのかもしれない。ようやくササの大海原に出てほっとする。ここから見る竜ヶ岳は何か胸に染み入るものがある。
石榑峠からの登山道に合流して腕時計を見る。少々の遅刻は免れない。三角点に近づくと賑やかな声が聞こえてきた。ようやくゴールに座り込む。5分ほど遅刻した。メンバーの中にはいつもの顔、懐かしい顔、意外な顔、見たこともない顔が入り混じっていた。なぜか幹事のツウさんの顔が見えない。皆であーたらこーたら言っていたら、ツウさんの同行者という人が到着して、体調不良で遅れる旨伝言があった。着くまで待とうホトトギス。
谷間からガスが湧き上がる 遠景御在所岳 竜ヶ岳北面のササの海 山頂でくつろぐ参加者の皆さん
オーナーに代わって、ヤブコギの実質的な管理人である山日和さんが司会を務める。各々自己紹介と本日のコースを述べる。照れくさそうに短めに済ませる人から、演説を始める人まで皆さん個性を発揮する。昼食、雑談のあとツウさんの捜索に出ようと思ったら驟雨がきた。先に捜索に出たマヨさんの報告では、やはり疲労でダメだとのこと。宇賀渓組にあとを託し、石榑峠組に入って下山する。私は太尾から下山予定だったが、石榑峠に置車してある方々に乗せてもらえることになった。雨の中有難し。
山頂で聞くまで知らなかったが、山日和さんのグループが同じく又川起点で大井谷を経るコースだった由。私は下山したてのキタナイ格好のまま洞吹さんのホラフキ号に載せてもらった。生活用具満載の夜逃げスタンバイ特別仕様である。洗車は天然の雨に任せるという洞吹さんの環境哲学に恐れ入る。ツトムさん?は峠にデポしてあった自転車で。御池杣人さんは養老さんの車で宇賀渓へ。
又川出合まで送ってもらい、関西組解散。私は再び山越えで宇賀渓に戻る。駐車場には東海組が待っていてくれた。心配されたツウさんがいて安心する。えらく落ち込んでいたが、本人が考えるほど大したことではない。それよりもセッティングの労に皆さん感謝している。初めて会ったときより随分スマートになったのだが、骨折のブランクが大きかったのだろう。緑水さんに「関西組は帰るのでよろしく」という伝言を報告し、こちらも解散。