金山尾根から静ヶ岳    05.02.13

同行者  なっきいさん、とっちゃん、東雲さん、RINさん

 きょうはお姉さま方や東雲さんに金山尾根へ連れていってもらうことになった。落合橋の駐車場で持ち物について喧々諤々。アイゼン、ピッケル、ワカンどれが必要か。誰しも余分なものは重いので持っていきたくない。RINさんが 「今日はよう締まってるやろから、ワカン要らんで」 とおっしゃる。私は竜ヶ岳では深雪に泣かされた思い出しかないので、弁当を置いてでもワカンは持っていきたい。アイゼンはハナから持参していない。東雲さんもワカン。RINさんはピッケル、なっきいさんはピッケルアイゼン、とっちゃんはワカンアイゼン・・・と思い思いの武器を持つ。ここで人に余計な世話を焼くと、いざというときに 「あんたが要らん言うたから置いてきたんやで」 とか 「こんな重たいもん持ってこなきゃよかった」 とか叱られることになる。怖い人ばかりやから黙っていよう。

 つり橋を渡ってしばらく歩き、朽ちた看板のところから取り付く。登れど登れど雪はなく 「暑うてかなんな〜、服脱ごう」 の声が上がる。いったん傾斜が緩んだところでヨコ谷越しに竜ヶ岳の頭が見える。山頂はガスの中だ。600m付近で蛇谷分岐。690mの雰囲気のいいコバは雪に覆われていた。やっと雪山の気分。雪を見ると元気が出てくるが、やはり急登はしんどい。皆さんに「のろのろしてると置いてくぞー」と叱られながら着いていく。

 鈴鹿の山々は上部がガスに覆われている。しかし尾根の東は遠望が利き、冬型の典型だ。養老山脈の向こう側に一目で高山だと分かる神々しい山脈が展開している。ここであーたらこーたら山座同定するも、資料がないから結論は出ない。角度だけ測っておいて、帰ってからカシミールにかければ一発だ。それにしても曇天のわりに、やけに遠くまで見える。ホタガ谷を隔てた遠足尾根では、野蛮人どもが鉄砲をぶっ放している。

 それにしても一般道でもないこの尾根に、いつの間にやらテープがベタベタ。一昨年に降りたときは確か下部にしかなかったと記憶している。800mから900mの間はきつい傾斜の登りである。雪はクラストというほどではないが、硬く締まった上にパウダースノーが少し乗っている状態。キックをくれながら登る。今日はラッセルがないので一番手だろうがラストだろうが、しんどさは同じ。東雲さんはロケットターボのように登っていくが、私はヘロヘロになってしまい、とっちゃんとなっきいさんに 「このノロマな亀め!」 とストックで叩かれて泣きながら登った。

  ヨコ谷が見えてきた。山頂は隠れている      下界が見えると高度感がある        Boneさん達と会った付近から樹氷の花

 ようやく傾斜も緩み楽園状態になったところで、ホタガ谷から登ってきたパーティーの一人に声を掛けられた。はて、どなただったか。私は人の顔を覚えられないことでは人後に落ちない。 「Boneです」 。これはまことに失礼しました。ここから樹氷が登場し、風もいきなり強くなったのでジャケットを着る。ジャケットと言っても10年も着ているカッパである。お姉さま方はすでにアイゼン装備。一般道に出る所は本来ならササの海だが、先端を残してきれいに埋まり、ホイホイとどこでも歩ける。

 クラヘ出れば、これも本来ならササ分けの中のシロヤシオが顕わになっており、花盛りを思わせる樹氷を纏っている。人間なら完全に凍死だが、樹木の生命力には畏敬の念を覚える。残念ながら背景の山頂はガスの中。写真を撮るも、風雪にさらすとすぐに電池がギブアップ。懐に入れるとまた復活する。このような過保護では将来が心配だ。
 樹林帯に入るとどこが道だか分からないが、樹氷の回廊がとてもメルヘンだ。どういう加減か、今日の樹氷は見事な針状である。喉が渇いたのでかじってみたが、別段血だらけになることはなかった。やがて県境三叉路に着いた。

「今年のシダレ桜は早いのお」と、ボケるRIN嬢       いざ静ヶ岳へ!            チクチクの樹氷

 とりあえず前方の丘に上がる。ここでもシロヤシオの撮影をするが、やはり背景はまっ白け。どうせ竜の山頂は登ってもホワイトアウトだ。やれやれ、これでもう歩かなくてもいいと思ったら、お姉さま方が 「静ヶ岳へ行くんじゃ〜」 と言い出した。私は勘弁して下さいと泣いて頼んだが、 「そんな根性無しはヒルメシ抜きやな」 と脅されて渋々着いていった。

 冬は三叉路の看板からトラバースするより、この尾根を直進するのが正解だ。雪は締まってワカンの出番はない。静ヶ岳への縦走路はホイホイの快適さで、樹氷や巨大雪庇を観賞しながらのルンルンロードとなった。しかしルンルンなのは当然で、それは下りだったからである。大井谷源頭を過ぎると地獄の登り。体が重くて心臓がバクバクして動けなくなった。またお姉さま方に罵倒され、アイゼンで蹴られ、ピッケルで突付かれながら涙を流して登る。ようやく丘を越えて、夏なら美しい池が見られる場所に倒れこんだ。

 ここを昼食場所と定めてザックをデポし、空身で静ヶ岳を往復することになった。空身でも登りは登り。禁煙以来増えた体重が堪える。東雲さんはターボエンジンが付いているので、ノンターボSOHCの私は着いていくのに骨が折れる。地面が雪で高くなった分、樹氷の枝がヤブとなって行く手を阻む。卑屈に腰をかがめ、時に赤ちゃんのようにハイハイする。こうして艱難辛苦に耐え、苦闘の末にたどり着いた山頂は真っ白けのホワイトアウトに近い状態だった。でも今年初めての山頂なのでうれしい。交代で記念写真を撮る。私以外の4人は赤ずくめ。

   静ヶ岳に集結した赤軍派メンバー         帰りはしんどいわ            今頃晴れてきたで

 雪の山下りは大好きなので、先頭に立ってあっという間にデポ場所に着いた。さて楽しい昼食だ。カロリーを消耗したのでとてもおいしい。雪山で暖かいものを食べるのは至福のひと時。禁煙中の身ではあるが、Sさんにもらった海外土産のタバコを一本だけ吸う。久しぶりのニコチンが体内を駆け巡り、極彩色の曼荼羅絵図に恍惚状態。これは山に登ったときだけにしよう。そしてHPに登場する人たちをサカナに談笑す。こうしてみると自分がいないときに、何を言われているか分からんな。

 人生において苦と楽は交互にやってくる。食事の後は重たくなった体を引きずっての登り返しである。県境三叉路のピークがチョモランマのように高く聳えて見える。苦しい登りでRINさんが 「この尻セードの跡を見ると腹が立つなあ」 とぼやく。むろんそれは自分達が往路で付けたものなのだが、この不条理な発言に何故か頷いてしまう。そのうちやけに見通しが利くようになってきて、竜ヶ岳の山腹が美しい。丘に戻ると静ヶ岳がくっきりと見える。皮肉にも私たちが山頂にいた時だけ、視界がなかったようだ。まあ、そういうこともあるさ。でも樹氷の背後に、行きに見えなかった竜ヶ岳が姿を現わし、本日のハイライトとも言える見事な光景になった。青空はないが、下界では見られない素晴らしい風景に出会い、とても幸福な気分になる。

      マシュマロおっぱい              絶景に呆然とする人々             静ヶ岳と銚子岳を振り返る

 帰路はホタガ谷か遠足尾根か迷うが、静ヶ岳まで行って時間が押したので、ホタガ谷に決す。あら嬉しや、私はもう目の前のホタガ谷源頭の大スロープに飛び込みたくてウズウズしていたのだ。それっとばかりに飛び降りて大滑降だ。ストックの柄を差し込んでブレーキをかけないとすっ飛んでいく。ああ、楽しや面白や、ガキに戻っておおはしゃぎ。緩斜面では滑りが悪くなってきたので、シートを出してまた滑る。人の足型が固まった場所ではオケツが痛い。

     一瞬の光線に輝く竜ヶ岳           どこまでも滑れー

 結果的にはけっこう早く下山できて、これなら遠足尾根でも良かったなという時間だ。しかし人生ゆとりが大切だ。余った時間で皆で喫茶店へ行き、反省会?で楽しい時間を持てた。皆さん、有難うございました。結局冬山用の金物は何も必要なかった。急登の杖とシリセードのブレーキとしてピッケルが、あと6本爪程度のアイゼンは、あれば多少楽かなという程度だった。不要なワカンを背負っていった私の読みは、見事敗北を喫したのであった。

 ※ 本編はドキュメンタリーですが、一部フィクションを含みます