銚子谷からクラ北尾根    09.10.11 


 掲示板にマヨネコさんからブナ情報が入ったので見に行くことにした。結局これは意外な結末に終わったが、それはあとのこととして、コースは久々(12年ぶり)の銚子谷を選んだ。青川峡谷が大荒れになったことは情報として知っていたが、やはり自分の目で見ておかなくてはならない。青川自体も6年ぶりだから、荒れてからは全く見ていない。ここは9.02以前にも荒れて、休みコバまでクルマで行けなくなったのも足が遠のいている原因だ。

 三連休の真ん中でオートキャンプ場は大賑わいだ。団地みたいにお隣さんとくっついて、設備の整った中でテント泊して面白いのだろうか。自宅の庭の方がまだマシだろう。普段はマンションやアパート暮らしの人達なのだろうか。その先のゲート脇に駐車して7時半ごろ出発。林道は少し落石があるだけで十分クルマでも通れる。しかしやがて巨大な岩が道を塞ぎ、道が崩落していた。納得して河原を歩きに切り替える。

 台風のあとで水量は多く、渡渉のたびに難儀する。こんな下流は歩いたことはないが、すっかり埋まったことは分かる。やがて河原の中に白い筋を発見。これはガードレールだった。なんと林道と川の落差が無くなり、道のあったところに水が流れている。支流のサゼン谷の堰堤は埋まり、ここからも大量の土砂の供給が見てとれる。休みコバは跡かたもなく、宙に浮いた舗装の上の看板で、ここがそうだったかと気付いたほどだ。

     サゼン谷からも押し出し              林道が川になっている               登山口だったところ

 大堰堤の巻きは必要なかった。すっかり埋まったからだ。相当大きな壁だったはずだが・・・。広川原はさらに広大になり、伏流で水が無かった。砂漠ならぬ石漠である。湯ノ谷出合付近は吊るしたアングルでへつったものだが、今は何処でも歩ける。信じがたい光景だ。次の藪の中の巻き道も淵が埋まったので不要となった。河原から右岸台地に上がると、下り藤付近は変わりない。しかし、やはず尾の隧道でびっくり。登山道とトンネルの間が深くえぐれて、入り口は対岸中空にあるではないか。いったん崖を下りて、数mの岩登りでトンネルに入った。トンネルが川になっているという情報もあったが、今は流れていない。まだ刻々と変化しているのだろうか。

    6年前の大堰堤         現在。10mは埋まっている      隧道への道が断たれた

 銚子谷は凄まじい土石流で埋まり、砂の土手が盛り上がっている。残置ハーケンのゴルジュはおろか、10m以上あった大滝すらなくなっていた。これが鈴鹿一の名渓と言われた谷とは悲しい限り。もはや記憶の中だけの存在となった。左手にガラン谷が陰鬱な空間を作っている。台風の直後なので谷コースは避け、更に進んだ大カラト谷手前くらいから尾根(・755の尾根)に取り付こうと思った。ガラン谷出合を過ぎると一気に暗い谷になった。

      土石で埋まった銚子谷            ガラン谷出合はトンネルのよう             水谷出合

 水谷出合。ようやく渓流らしくなってきた。土砂は殆どガラン谷から出たようだ。ということは三段滝は健在なのか。やはり滝は以前のままで、ここで行き詰る。前回は登ったが、今日は登山靴なので巻くよりほか手は無い。銚子谷はすべて埋まったと思っていたので予定外だ。高度感あり過ぎの怖い巻きだ。必死で巻いているうちに下りるタイミングを失い、どんどん追い上げられる。仕方ないので、もうこのまま登ることにする。傾斜は緩まず、一瞬の油断も許されない木の根と岩角が頼りの崖登りとなった。とんだ失態だ。

 手に擦り傷を負いながらようやく一息つける場所で地図を見る。水谷左岸の痩せ尾根に出た模様。このまま登れば・755の尾根に合流できる。やれやれだ。それはいいとして、巻きのつもりだったので水汲みをしてこなかった。左手に水谷の水音が聞こえるがトラバースは容易ではない。しかし水が無ければ昼飯が食べられない。もう少し登ってから尾根を離れ、決死の水汲みにトラバった。急斜面だが、木のある場所を伝って水谷滝場の下に出た。飲み水も兼ねて1.5リットルほど汲む。手が切れるほど冷たい水だ。増えた荷物に引力を感じながら、少ない体力を振り絞って尾根に復帰した。

  銚子谷上流の滝は健在       水を汲んだ水谷の滝

 この尾根は登るほどにいい雰囲気になってくる。やがてミズナラやブナが増え、シラキの紅葉も美しい。視界も出てきた。猫の額ほどの平坦地で一服。地面にはドングリが多い。たくさん落ちていた小さなリンゴのような実を齧ってみたが、とても酸っぱい。何の実だろう。急勾配を登って840mで最初の計画の尾根に合流できた。ブナがどんどん増えてきて素敵な尾根だ。マヨさんの言う場所はクラ北尾根ピークから北東に降りた付近だそうなので、910m付近にあった薄い杣道を利用して左へトラバースする。この付近まで来ればトラバースも安全だ。

     銚子岳とシラキの紅葉               ・755の尾根と合流               ブナが増えてくる

 やがて目的地付近に着いたが、それらしきものは無い。そう簡単には問屋がおろさない。ザックをデポして周辺を探る。少し下りた水谷源頭斜面に太いブナを発見。これだなと思う。ちょっとクセのある形をしているうえに、急斜面で測りにくい。最初295cmと出て狂喜する。しかし測るたびに数値が違い、厳しくみて283cmを採用する。古武士を超えて見事鈴鹿第二位だ。このブナは北から見ると人のようにバスト、ウエスト、ヒップに分かれていて、太もも辺りで地面に埋まっている。腕にあたる両の枝が上に向かい、ちょうどバンザイをしている様に見える。名前はバンザイブナにしよう。地上1.3mの位置がバスト下部で、背中側も形が複雑なのでメジャーの廻し方で数値がコロコロ変わる。二人掛かり、あるいは虫ピンで止めながら測らないと正確ではない。

     前からバンザイ            横からバンザイ           背中からバンザイ            239cmのブナ

 目的を果たし、安心して昼食とする。苦労して汲んだ水で食べるラーメンは美味しい。じっとしていると寒くてミズバナが出る。もう暖かいものが欠かせない季節になってきた。しかし竜ヶ岳北面は、ブナの産地としては穴場的存在だった。こんないい所があるとは、鈴鹿だけでも一生掛かっても遊び尽くせないことが分かる。付近はミズナラは多いがキノコは少ない。ナラタケが少々あったが盛りを過ぎている。食後に地図を検討する。違う尾根から青川に下ってもいいが、ロープを置いてきたので末端で危険な目に遭うのもイヤだ。それにまたあの荒れた河原歩きも難儀だ。いったんピークに上がって遠足尾根から帰る事にする。

 エンヤコラと北尾根ピークを目指す。途中で239cmのブナ発見。ピーク自体もなかなかいい場所だ。竜ヶ岳山頂に小さく人が見える。短いササの踏み跡を辿って、14番標識で登山道に合流する。クラからの急下りは土が滑りやすい。ホタガ谷分岐から遠足尾根に入るとササがうっとおしい。やはりここは冬が似合う。・964北西の池から北へ下れば隧道への尾根であるが、今日はパス。・964を過ぎると道は安定する。良い道の下りは楽だ。買い換えたばかりのカシオ・プロトレックは高度表示が大きくなって老眼の身には有り難い。800m弱で牛道分岐。キャンプ場へ帰るにはこれを通るのが近道だ。

      クラ北尾根のヌタバ                クラ付近から竜ヶ岳               遠足尾根の池と竜ヶ岳

 この道は登りはいいが、下りでは踏みあとも薄くて慎重になる。西尾本に牛道とあるが、末端は何処も等高線が密で、とても牛馬が通ったとは思われない。何を何処へ運ぶのかさえ分からない。やがて・700の平坦地があり、ウリ坊氏の地図には梨子ヶ平の表記がある。出典不明。ここには広場にアセビが密集して方向を失いやすい。あとは・522(大鉢山)を目指してひたすら下る。牛も登りは辛かっただろう。

 大鉢山は切り開かれて展望が良く、案内板まである。いなべ市から伊勢湾にかけて一望の下だ。案内板にはセントレアの表記もあり、青川キャンプ場のオープンに伴って整備されたものとみえる。しかし登る人は殆どいないだろう。ここで行動食の残りと野菜ジュースを飲んでゆっくりくつろぐ。下山は整備された道で問題はない。等高線は密だが、過剰なほどジグザグが切られているので勾配はきつくない。これが昔の道を利用したものかどうかは私は知らない。ジャストキャンプ場西端に下り立ち、クルマはすぐだ。けっこう長かったが、林道がなくなった青川を歩いて帰るよりは楽だと思う。

      大鉢山の看板と展望         登山道から見下ろす青川キャンピングパーク

 さて冒頭に書いた意外な結末とは、私が測ってきたブナとマヨネコさんの写真が一致しなかったことである。家で写真をどう比べても形が一致しない。しかも周囲の地面からして違う場所だ。明らかに別のブナであると断定せざるを得ない。喜んでいいのか悲しんでいいのか。でもたぶん、タヌちゃんやzippさんの鑑定ではマヨさんのブナ写真は250cmくらいに見えるということだから、私の見つけた方が太い可能性がある。瓢箪から駒、あるいはタナボタか。何にしても、もう一度行かねばならない。私にはマヨさんの写真のブナは250より太く見えるのだ。