竜・ホタガ谷遡行  02.09.15

同行者  とっちゃん

 竜ヶ岳ホタガ谷は日本百名渓に選定されている。飯豊、黒部、南アなどの名だたる大渓谷の中に鈴鹿の渓がぽつんと一つ挟まっているのは違和感を感じる。深田百名山に開聞岳のような山が入っているのと同じで、地域的なバランスを考慮してお情けで入っている感じが拭えない。だいたい選定した人も日本中の渓を遡行しているはずもなく、そんなものにたいした意味はないだろう。しかし鈴鹿でただ一つ選ばれているだけのことはあった。水量がやや少ないのが難点だが、凄みは隣の蛇谷より上である。

 15m 右から大高巻き参加予定の通風山さんとたまさんが都合がつかなくなり、結局とっちゃんとの二人旅。宇賀渓の売店から林道を歩く。ホタガ谷登山口を右に見送り最初の橋から出合が見えている。出合には侵入者を拒むように6mの滝が立ちはだかっている。水流の左側を登る。易しくもないが難しくもない。そのあと小滝が少し続くが問題なし。すぐに二俣。この二俣は地形図で見ると等分だが、左俣には水がない。右側はいきなり15mの険悪な滝が通路を塞いでいる。

 この滝を見て「こらあかん」とすぐに分かる。しかし爪痕も立てずにすぐに退却では癪なので、近付いてさぐる。左の瓦礫の堆積の上に乗ると錆びたハーケンが3枚打ってある。「鈴鹿の山と谷」には2枚と書いてあるが1枚増えている。 上と下のものにはスリングがくっ付いている。ロープだけ持って空身で取り付いてみた。真中のハーケンに自分のスリングを取り付けて引っ張ってみたら、抜けないまでもグラグラする。これは信用できん。最後の目の上2mがどうしても登れない。下からとっちゃんが「危ないからやめとこ」というのでやめた。どっちみちよう登らんのであるが。

 滝の写真を撮っておこうと思って、昨夜充電して元気満タンのデジカメのスイッチを入れる。するとNO CARD!の警告が点滅した。メモリーカードを入れ忘れてきたのである。おバカなこと、この上なし。これでカメラは只のお荷物と化した。しかしこのあと面倒なカメラの出し入れをしなくてもよくなったので多少心が安らぐ。(写真提供:とっちゃん)

 少し戻って左岸の急斜面を木につかまって巻く。左は岩壁で戻れないのでどんどん追い上げられる。15mの滝どころか50mくらい登ってやっと左の尾根に乗る。やはりはるか下に川が見えている。尾根を戻るようにしてまた高度を下げる。急斜面なのでとっちゃんに懸垂の練習をしていただく。降り立った所は滝のすぐ上だった。行き過ぎたかと思ったがちょうど良かった。

 切り立ったゴルジュの中に滝が続く。まるで山の骨が剥き出しになったような所だ。7mほどの滝を左から何とか登るとまた同じぐらいの高さの滝が見えている。危ういへつりで近付くと、井戸底のような場所に垂直の滝で、今度は手も足も出ない。へつりを戻りながら左(右岸)を高巻く。この高巻きは高度があり結構危ないのでロープで確保する。ようやく登りきった所には窯跡があり、下流に向かって踏み跡がある。どうも最初の滝の下から巻いた方が安全だったようだ。

左を登る垂直で登れない

 はっきりした巻き道(炭焼き道か?)が続いているが、辿っていったのでは沢登りにならないので途中で滝上に戻る。上から覗き込むとこの滝は二段になっていた。上から覗くとなかなか見事なものだ。進むと左岸に黒い送水管が吊るされていて、その先に取水用のボックスがあったが、今は使われていない。やがて廊下はいったんなくなって杉の植林が目立つ。

 小滝を楽しみながら登っていくと長く狭いミニチュアのゴルジュが現れた。まるでU字溝の水路だ。ただこのゴルジュは水に入らずとも上の右岸を簡単に通過できる。今日は涼しいので上を通過。と言うよりあまり積極的に濡れたくない。ここまで泳がず、へつり中心で来たのでまだ上半身は乾いている。

 このあと、よく覚えていないが問題になるような滝はなかったように思う。谷の中に倒木が目立つようになってくる。やがてホタガ谷登山道と出合い、木橋をくぐる。

 3段のナメ見かけはこの谷も終ったと思わせるが、また廊下帯になって面白くなってくる。滝の岩ににやたらとナガレヒキガエルがへばりついていてギョッとさせられる。やがて黒々とした大ナメに出合った。取り付いてみると見かけほど難しくなく快適に登る。広いのでコース取りは自由だ。しかし石が黒くなってきてからよく滑る(水成岩)。二度ほど転倒しかけた。問題は今日の靴だ。いつもの渓流シューズではなく、コロンビアのワトゥシトレーナーという水陸両用の靴を買って試しに履いてきた。これはフェルトではなく、ゴム底で細かい溝が切ってある。しかしフリクションはフェルトに及ばない事が判明した。また無駄な買い物をした。カタログを見ると何でも欲しくなる悪い癖が直らない。

 やがて背丈より深い釜を持つ2m程の滝に行く手を阻まれる。その上も見えているが、水流がなくなりザレの急斜面で行き止まりだ。おかしいなあ、と二人で悩む。偵察に行くには目の前の淵を泳がねばならない。遡行図に1:2とある二俣を間違えて右に入り込んだのかもしれない。結局間違えた事にして戻る。その裏には寒いので、泳ぎたくないという心理が働いた事は明白だ。

 少し戻ると人の声が聞こえ、左岸を見上げるとはるか高いところに登山者がいるではないか。手を振ったら振りかえして来た。見たところ普通のハイカーのようだ。登山道はずっと左手にあるはずなのに何であんな所に人がいるのだろう。遠足尾根か?頭がこんがらがってくる。しかしどう考えても二俣を見送った記憶がないので、また反転して前進する事にした。

 8m 飛沫を浴びて直登意を決して先ほどの淵に飛び込む。ひえー、ちべたい。距離は短いので三掻きほどで石をつかんで這い上がる。とっちゃんが例のモモレンジャーの腕浮き輪をつけた。用心深い人だ。滝上へ出ると水はなくなったのではなく、見えなかっただけだった事が分かった。谷は右へ屈曲していたのである。しかも右は8mはあろうかという手強い滝だ。シャワークライムで突破。ホールドはあるが高さがあるのでロープで確保。しかしとっちゃんはバランスがいいので危なげなし。

 すぐ登山道の橋の下に出た。なんだー、ここか。未知から既知に引き戻される。いつも休憩して水を汲む所であった。さっき上空にいた登山者は何の不思議もない所にいたのだった。ただ自分達の位置を間違えていただけの事である。まだ二俣の手前だった。倒木の籔っぽいところを長々と進むと水量1:2で少ない左が本流という二俣に出た。先ほどずぶ濡れになったのですごく寒い。

 ここから個性的が滝が続いて面白いが、登れないものはない。滝と滝の間の狭いが平らな所で昼食とする。いつの間にか12時40分。空腹になるはずだ。歩いていても寒かったものが、座り込んだら寒くて震えがきた。温かい食事が美味しい。 分レ滝

 

食後、続きを登り始めたらじきに分レ滝に着いた。高さ、広さともスケールが大きい。下部はナメと言うには傾斜がきつい広い滝で、上部は垂直になっている。一応垂直の下まで登って本日の沢登りは終了とする。また降りて登山靴に履き替え、左の植林帯をジグザグに巻き上がって登山道へ出た。

 登山道を下りながら時折見える下の谷を俯瞰すると、今日のコースがよく把握できる。谷底にいると現在位置が分かりにくいことは仕方ない。やがて服も乾き始めて快適だ。赤い粒を鈴なりにしたミズヒキがたくさんある。とっちゃんがヤマジノホトトギスを見つける。よく見るとけっこう沢山ある。ミカエリソウ、トリカブトなどもあった。