綿向山のブナ測定      2012.08.05


 このクソ暑いのに山へ行くのか? 冷房ゴロ寝オリンピック観戦の方がええやろ。でも雨も降らんのに家に居るのも不健康のような・・・汗かいた方が健康にいいやろし。 頭の中で葛藤が続く。今朝は墓地の共同清掃作業があった。そのうえグズグズ自問自答して時間は更に過ぎていく。いつもながらの優柔不断。よし、しろやしおさんに尻叩かれてからかなり日が経つ宿題を片付けにいくことにしよう。それを動機付けにようやく重い腰をあげた。

 鈴鹿スカイラインの工事が終わってから、初めて武平峠を越える。懐かしいなあ。綿向山へなかなか足が向かないのも、この峠越えが面倒だからだ。滋賀の集落「平子」から熊野神社へ向かう。水無山を通るには南尾根が近かろうというわけだ。初めて来たが山奥にしては立派な神社で、特に社務所が不釣り合いに立派だ。清掃作業でたくさん人がいた。許可を得て神社の駐車場に停めさせてもらう。

 南尾根取りつきの目星を付けた所まで林道を登る。林道は差ほど荒れてなく、もう少しクルマで登ればよかった。林道山側は崖であるが、目星付近で木を渡したトラバース道を発見。林業用だろう。植林の中を北西に登る。早くも汗が噴き出す。やっぱ体に悪いような気がする。おっと蛇がいて遠巻きに逃げる。よれよれになったころ平坦地に着く。どうやら南尾根に乗ったようだ。休息して「夏のはちみつレモン」をガブ飲みする。ここから尾根は北東へと向きを変える。やがて切り開きや境界杭があって登山道のようになってきた。今まで道がなかったところをみると、西側からこの尾根に取りつくのが正解なのかな。前方から派手な色が目に飛び込んできた。オレンジ色の花が群生している。キツネノカミソリかと思ったら、ヒオウギだった。何の花でも心が和む。背後には視界が開けて南部の山々が見えてくるが、山名の見当がつかない。

    歩きやすい水無山南尾根                     ヒオウギ                    南部の山々

 880m付近で黄色い看板発見。上側へ回って読むと「道は全くありません。引き返してください」とある。これは水無山から下りてきた人向けの看板である。じゃあ下から登ってきた私は何なのだろう。引き返すには急勾配に見えるし、実際ここまで来て戻る人なんかいるのだろうか。と言うか、ここまで来る人は確信犯だろう。こんなものは水無山に付けてこそ意味がある。

 水無山は遠く(実際は遠くないが)、暑さでへばってきた。ともかくノロマでも足さえ動かしていればいつか着くだろうと頑張る。足元には早くもヤマジノホトトギスが見られた。ようやくブナの木がちらほら現れ、宿題を思い出して気力が出る。南尾根にあるという三俣のブナはどれかいなと探しているうちに水無山に着いてしまった。ありゃりゃ。いや、ここは南峰と書いてある。今まで・985が水無山と思っていたが、するとブナはこの先だろうか。右手を見れば文三ハゲの向こうに巨大な綿向山が聳え、山頂はガスに包まれていた。あそこまで登るのかと思うと気力が萎えてくる。例の「道はありません」看板と同じものがここにもあった。下のは不要だろう。

 程なく水無山990.7mと書かれたピークに着いた。う〜む、どうやらブナを見落としたようだ。戻る気力もないので帰りの仕事とする。エアリアにはこのピークから西へ赤線があるが標識はない。綿向山は僅か三回目なので登山道すら把握していないのだ。北東へ下りていくと表参道へ下りていく分岐があった。変更されたのか、エアリアが間違っているのかは知らない。ここから文三ハゲ沿いの尾根道と、すぐ左のトラバース道があってややこしい。

 トラバース道をとると、すぐ右側に巨木があった。葉を見るとブナに間違いない。これがたぬちゃんから報告があったブナのようだ。遠足尾根下の龍神ブナと同じ格好で、半身がやられている。しかし龍神よりひと回り大きい。山側地上130cmに印を付けて、ざっとメジャーを回す。374cm! 更に裏へ回って水平を手直しすると378cmと出た。しろやしおさんの報告より10cmも多く出たが、コブや膨らみで少し測る高さが変わると数字はころころ変わる。しかも斜面なので単独でメジャーを正確に当てるのは困難である。あくまで目安と思われたい。この木が健全であった頃は少なくとも430cmはあっただろう。スゴいぞ綿向山!

    南峰から文三ハゲを眺める        ブナ巨木 向こう側が欠けている         やっと山頂へ

 登山道をとって金明水を目指す。水無山北尾根コースは登山道としては非常に悪い。急斜面に足幅ひとつ切っただけで、それも雨後などは崩れやすくて冷や汗ものだ。金明水で水筒を満たした。消費ペースが早かったので助かる。金明ブナはすぐ上方にあった。これも見事なものだ。262cm。みぶな野に迫る太さだ。身体測定中に人が通るとバツが悪いが、幸い誰も通らなかった。山頂への正面階段は足がなかなか上がらない。山頂神社で耳の平癒を祈願する。誰もいないと思ったら、青年の塔の向こう側にご夫婦がいて挨拶する。雨乞岳はガスが掛かっているが、南部の仙ヶ岳方面は何とか見える。ま、今日は眺望はどうでもいい。天気が悪い方が涼しく、小雨程度なら歓迎だ。遅い昼食を食べる。しかし大群でまとわり付くアブどもには閉口する。時間も押しているし、ブナの木平へ下りると登り返しがきついので、もうやめようかなとも思う。しかし食後寝転んでいたら気力が戻って、やはり行くことにした。

 草原を適当に下りていくと、じきにブナの木平に着いた。これはまあ下りだから当然だ。名前の通りの場所で素晴らしい。ここも別荘候補地。水がないのが難点だが、上の斜面にパイプを打ち込めば出るだろう。それはまあ置いといて、ここのブナは数があってもみな若い。端っこまで足を延ばすが目ぼしいものはない。しろやしおさんのメールでは「330cmのものはブナ平西尾根」とあったので西側に注目するが、地形図でも実際でも西側に尾根はない。入り口まで戻るとダイラ上に目ぼしいのを見つけて測る。250cm。これは報告のなかで「抱き寄せると女房より太い」とあったブナと思われる。しろやしおさんの奥さんが見たら怒るで。

    ブナの木平へと下りていく               平には若い木が多い              しろやしおさん報告の木

 これ以上探す気力がないので帰ることにする。地形図を見て、ここから金明水付近までトラバすれば登り返しの必要がないと考える。しかし過去に「トラバは近道に有らず」ということを散々経験した。急がば回れで登り返す。しかしやはりトラバが楽に思えてきた。左のササやぶに踏み込む。学習能力ゼロだ。やはり非常に歩き難くて、なかなか距離が進まない。小谷に手を焼き、小尾根でハァハァ、ガレで滑り、腐った立木をつかんで転倒し、ヘロヘロになって進むと文三ハゲに捕まった。いつの間にか高度が落ちたようだ。登り返してハゲ沿いの道に出た。トラバース道より解放感があってよろしい。

 歩きながら文三ハゲを見下ろすと、なんとハゲの末端に林道が見えている。こんな高い所まで伸びているのか。崩壊止めの工事用に付けた道だろう。あれが熊野神社までつながっていると思うと、目の前にそびえる水無山なんぞ登り返すのがあほらしく思えてきた。水無ブナのことも忘れて鞍部からハゲに飛びこむ。ハゲでも結構歩ける。末端の堰堤越えがどうかと思われたが、谷に下りずに林道へ出られた。

   水無山へ登り返しが大変そう             ハゲの下に林道を見っけ        下りてから文三ハゲを見上げる

 山側からの染み出し水で、汗まみれの手や顔を洗ってサッパリする。路上で寝っ転がっていてもクルマに轢かれる心配はないのでゆっくり休む。テクテクと林道を下りていくと雨量観測所があった。案外いい道だが尖った落石が散乱しているので、クルマで踏み込むとタイヤを切る可能性は大。林道のお陰で神社までかなり時間短縮できた。

 熊野神社の境内を散歩する。策で保護されているのはタコ杉で見事な巨木である。もう一本巨木がある。クスノキかと思ったら、タブノキ(イヌグス)の古木だ。幹周5〜6mはありそうで、今まで見たタブの中では一番大きい。天然記念物ヒダリマキガヤは案内板がなく、聞こうと思っても辺りには誰もいない。帰って調べたら左巻きなのは種子の溝で、学者レベルの細かい話だ。木そのものは変哲のないカヤで、巨木でもなく、見てもしょうがないものらしい。綿向山もうひとつの天然記念物「接触変成岩」も何が有難いのか分からない、つまらぬ代物である。

     タブノキ巨木                 熊野神社

 今回のブナ調査は下調べ不十分のやっつけ仕事であった。涼しい時期に早発ちして、もう一回やらねばと思う。思うだけで、いつやるとも分からないのは毎度のこと。そういえば仙ヶ岳の弁慶ブナも是非見に行かなくては。今回見逃したしろやしおさん推薦の樹は、写真を見る限り低い所で枝分かれしている。そういう例は多いので、やはり木は一番細い所を測るのが妥当だと思い始めている。しかし環境省の指標に則って始めたものを、今更全部やり直す気力もない。ところで熊野神社と文三ハゲを結ぶ林道680m付近にトンネルのマークがある。エアリアにもあるし電子国土にもある。しかし私が下りたときに、トンネルはなかったと断言できる。この「トンネルの怪」というべきものの真相は如何に。