北谷から北山・岩ヶ峰    06.08.20


 「鈴鹿の山と谷」第三巻P111に 「山慣れた人なら、大谷から北谷に入り岩ヶ峰より西山峠へと見事なルートを楽しむことが可能である」と書いてある。見事なルートにしては、誰も北谷へ入った話を聞かない。岩ヶ峰へ登るには栃谷から犬尾山西鞍部へ取り付くのが一般的である。ウリ坊さんにもらった氏製作の絵地図もそうなっており、主脈南面は省略されている。ともかく北谷から北山へ取り付いてみなければ、何がどう見事なのか分からない。

 実は北谷へは以前ネコノメソウの観察をしに入ったことがある。途中で引き返したが、谷沿いに安定した道はなかった。帰りは左岸の犬尾山から花市場へ至る尾根を歩いたが、良い道でハンターの薬莢が落ちていた。しかし西尾氏のルートがこの道を指しているとは思えない。わざわざ「大谷から北谷」へ入りと書いているのだから、谷沿いの道に違いない。しかし本には最終的に何処から北山へ上がるのか書いてない。地図を見ても大雑把すぎてよく分からない。まあ現場次第で適当に歩いてみよう。

 北谷出合は生い茂る夏草に隠されて、林道からでは見えない。堰堤が続く大谷沿いのヤブを掻き分け、本流を渡り北谷に入る。水量は渓魚が棲めるか棲めないかという程度。今日は暑いので渓流シューズである。谷が細いので流芯を歩いても横からヤブが入る。棒を振り回して歩かないと蜘蛛の巣が顔面にへばり付くことになる。年齢を重ねると腰を屈めるという作業が辛くなってくる。それでも登山靴だった前回に比べれば、何処でも歩ける渓流シューズは楽だ。

 しばらく平凡な川原で高度が上がらない。高度400mを越えると小規模ながら連瀑帯となり、困難ではないが楽しめる。階段を上がるような滝もある。犬尾山のコルへ向かう支流の出合で川から上がる。前回見つけたモミの大木を測るためだ。谷沿いにも並んでいるが、奥の台地のものが一番太い。巻尺を回すと366cmあった。文句なしの巨木だ。ここで休憩。谷コースの場合、わざわざ飲み物は持参しない。谷水を口に含んでみると昨夜の雨のためか温くて少し渋い。飲むのはやめた。下界ではまだ聞かないツクツクボウシが盛んに鳴いている。パンを一個。

  北谷最初の滝らしい滝       二段クランク状の滝          モミの巨木

 また川に戻ると、この谷で一番美しいと思われる階段状の滝がある。もう少し水量があると絵になるが、この谷の規模では仕方ない。ここから数分で垂直の壁状滝に突き当たり、その上に巨岩を見る。大谷にもりんご型の巨岩があるが、それに匹敵する。この垂直滝はバンドが斜上しているので登れる。ここを過ぎると傾斜が強くなり、谷も荒れてくる。550m付近まで来ると谷もV字状になり、そろそろ尾根に逃げたほうが得策だ。等高線から判断すると、もう少し下流の500m付近から左岸を登って・649の下に出るのが楽だろう。しかし戻るのもあほらしいし、なるべく源流の澄んだ水を水筒に詰めてそのまま尾根に取り付いた。

    階段状の美しい滝         滝の上に巨岩

 それにしても急傾斜で難儀する。照葉樹の落葉で滑りやすいところに、フェルト底の沢靴では全く踏ん張りが効かないのだ。帰路はまた大谷の沢下りと決めていたので登山靴は持っていない。喘いでいたらやがてジグザグの杣道に出た。有難や、昔の山働きの道だろう。こういうものは至る所にあるが、たいていまた自然消滅してしまう。 「いつまでもあると思うな親と道」 苦闘の末、ようやく尾根通しの道に這い上がった。

 北山下部の花崗岩が重なっている手前だった。岩を登ってしばらく歩くと好展望の場所があって下界が良く見える。ズームで何枚か写真を撮る。帰ってからパソコンで見たら自宅に駐車してあるクルマまで写っていた。谷の中では曇って暗かったが、ちょうどいい具合に晴れてきたものだ。ここから平坦な北山の森の中を抜け、ザレを巻き、鏡岩の良く見えるピークに着く。イワクラは複数の花崗岩の巨石が重なっているので、見る角度によって姿が違う。ピークから下りると例の岩の鎧にぶち当たる。

北山770mピーク。サラサドウダンの木?        岩ヶ峰と鏡岩              北山を振り返る。左福王山

 さてこのよく滑る足元で鏡岩に行くかどうか迷うが、せっかくだから寄っていくことにした。この前は12月で雪の付いた時期に岩盤沿いにへつった記憶がある。ところが今日は生い茂る草木でルートが見えない。今回は少し戻って砂ザレの斜面に下り、トラバースすることにした。途中で岸壁から水が染み出している場所があった。手が切れるような冷たい清水だ。ポタポタとチョロチョロの間くらいの量なので、水筒に汲めば10分はかかるだろう。迷った末、北谷から担ぎ上げた水を捨てた。休憩しながら根気良く満タンを待つ。珠玉の水は卒倒するほどおいしかった。

 久しぶりの鏡岩。最初の姿はお金明神風で、一番上の岩がなんとなく顔に見える。立地がアザミ谷源頭の絶壁なので、岩から岩へ飛び移るのが凄く恐い。向こう側へ回ると天を指す尖塔がある。口のような割れ目があるので天に向かって何か叫んでいるようにも見える。生き物に例えるならイルカでもない、大蛇でもない、強いて言うならウナギのような風貌だ。まず危なくて登ろうという人はいないだろう。陽射しはきついが、風が涼しいのでここで昼食にした。眼下に展開する自分の町を見下ろして昼食とは豪快だ。先ほど汲んだ清水で作ったカップ麺とお握り。簡素ながらおいしい。

手前の岩。人にも犬にも見える    奥にある孤高の尖塔

 食後は岩ヶ峰に向かって胸を突く急坂。大谷側を巻くルートとは別に、こちらにもかすかに道がある。相変わらずフェルトソールはズルズル滑る。シャクナゲに覆われたピークを過ぎるとヌタ場に少し水が溜まっていた。そしてイワカガミのコバに着く。西尾氏はここを大谷ヒルコバの有力候補としてあげている。ここで少し休んでから大谷側へ斜面を下りた。大谷出合からは水を楽しみながら下った。途中で左岸の巻き道に入り、私の中のヒルコバ候補地へ立ち寄った。ヤマザクラの大木と炭焼き窯のある平坦地である。ヤマザクラは実測202cmだった。もう少し太いと記憶していたので少し残念。でも一般的な木は直径30cm程度なので、やはり大木と呼んでいいだろう。

   りんごの形をした巨岩             大谷の淵   水浴びす              割れても末に・・・

 朝に用事があっても、こうして遊べる場所が近くにあって有難い。結局北谷を使うルートがどう優れているのか分からなかった。しかし部分的とはいえ道跡はあった。たぶん谷があまり急傾斜になる前に尾根に乗るのが正解なのだろう。


今日の花

      ヤマジノホトトギス                知らん                    シコクママコナ