石川啄木編


本歌  石をもて 追はるるごとく ふるさとを 出でし悲しみ 消ゆるときなし

    石をもて 追はるるごとく 駆け下る 水沢岳の 北斜面かな

    勢いついて止まらない


本歌  ふるさとの 訛りなつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく

    ふじわらの 福寿なつかし 天狗岩 人ごみの中に それを見にゆく

    久しぶりの福寿草。あまり人ごみは好かんが、たまには華やいだ山行もいいか


本歌  たはむれに 母を背負ひて そのあまり 軽きに泣きて 三歩あゆまず

    捻挫した 友を背負ひて そのあまり 重きに泣きて 三歩あゆめず

    やっぱり置いていこ


本歌  東海の 小島の磯の 白砂に 我泣きぬれて かにとたはむる

    到着の 遅れ加わる テント場で 我泣きぬれて かにとたはむる

    時間遅れで参加した夕食のナベ。すでにカニは無く、泣きながら殻の残骸をほじくる。


本歌  かなしきは 喉のかわきを こらへつつ 夜寒の夜具に ちぢこまる時

    かなしきは もよおす尿意 こらへつつ 夜寒のシュラフに ちぢこまる時

    朝まで我慢しよ


本歌  はたらけど はたらけどなほ わがくらし 楽にならざり じっと手を見る

    のぼれども のぼれどもなほ この傾斜 楽にならざり じっと空を見る

    いつになったら着くのやら。ああしんど。


本歌  大といふ字を百あまり 砂に書き 死ぬことをやめて 帰りきたれり

    大といふきじを三つあまり 砂に埋め 腹すっきりと 山をくだれリ

    啄木さん、ごめんなさい。


本歌  ふるさとの 山に向かひて 言ふことなし ふるさとの山は ありがたきかな

    ふるさとの 山に向かひて 言ふことあり もう林道が つかないように

    特に神崎川は。


本歌  放たれし 女のごとき かなしみを よわき男の 感ずる日なり

    はな垂れし 子どものごとき この顔を 吹雪の日には 人に見られじ

    だって寒いと勝手に出て来るんだもん。


本歌  こほりたる インクのびんを 火に翳し 涙ながれぬ ともしびの下

    凍りたる 右手の指を 火にかざし はな水たれぬ コンロのともし火

    冬の銚子ヶ口にて


本歌  たんたらたららんたんたらと 雨垂れが 痛むあたまに ひびくかなしさ

    ぴしぴしと てんとをたたく 雪の粒 眠れぬあたまに ひびくかなしさ

    あーあ、今何時ごろだろう。早く朝になんないかなあ。


本歌  わがあとを 追い来て知れる 人もなき 辺土に住みし 母と妻かな

    わがあとを 追い来た知らぬ 人なれど 辺土も都会も 同じ山好き

    訊けば名古屋の人。辺境に住む私も都会に住む人も同じ山好きであることよなあ。


本歌  いくたびか 死なむとしては 死なざりし わが来しかたの をかしく悲し

    いくたびか 行かむとしては 行かざりし わが来しところ また同じ山

    一度行っておかねばという山が沢山あるのに、また同じ山に登ってしまった。


本歌  夜おそく 戸を繰りをれば 白きもの 庭を走れリ 犬にあらむや

    夜おそく テント開ければ 白きもの 外を走れリ 霊にあらむや

    こっわ〜!


 ぼろぼろになって変色した啄木の「一握の砂」・・・。中学の頃買ったものだが、今ごろ引っ張り出してパロディーのネタにしようとは。啄木さんもあの世で苦笑いか。

 文豪や優れた歌人の人生をたどれば、名作を書くキーワードは貧しさと病気か。貧乏には不足のない私だが、いかんせん体が丈夫なため一生名作は書けそうもない。でも健康が一番やね。