破地輪駆

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本歌    荒らし吹く 三室の山の もみじ葉は 竜田の川の 錦なりけり     能因法師

     あられ降る 御池の山の 黄葉は 真の谷の沢の 錦なりけり

 現在語訳

 激しいあられが降り散らす、御池の黄葉の葉が、真の谷の枯れ沢いっぱいに散って堆積していく。その様子は、錦を織り成したように美しいものだなあ・・・

管理人解説

 昨年は破天荒かつ驚天動地の歌?を作った破地氏だが、人は一年でこうも変われるものだろうか。ともあれ本形式で詠まれたことは歓迎したい。実は管理人も同じ本歌で、初句まで同じ試作をしていた。原稿を頂いて急遽変更した次第である。この形式初挑戦にしては出来栄えがよく、印象に残ったあのシーンが過不足なく表現されている。

御池杣人

 荒らし吹く→あられ降る の置き換えもいい感じ。もみじ葉→黄葉 も御池にふさわしい置き換えで、氏の山行きスタイルのドドドーとは趣きを異にしてなかなか芸が細かい。あられと黄葉の真の谷。錦を織り成す視覚的な美の世界。同時に山頭火の名句「おとはしぐれか」にあるように、あられが降りしきる音の世界―聴覚的な美の世界でもあったはず。ああ、この視覚・聴覚の立体的な世界に身を置きたかったことよ。


本歌    もろともに あはれと思え 山桜 花よりほかに 知る人もなし     前大僧正正行尊

     もろともに たのしと思え 近藤岩 岩よりほかに 知る人もなし

 現在語訳

 小生が楽しんだミルキーあんぱん吟行を、杣人氏も病院のベッドで楽しんで頂戴(ウッシッシ)と、近藤岩にささやいて来ました。こんな山奥では杣人氏のほかに小生のファンタスチックな心の内をわかってくれる者もいないのだから・・・  

管理人解説

 最後に近藤岩に寄るコース設定をした、破地氏の心のうちが作品に表れている。病床の友を象徴するこの岩に本日の山行報告をし、早期の回復を祈願をする美しく厚い友情である。「もろともにたのしと思え」は泣ける。
 次回は本歌の言い回しに似た発音から、全く意味の異なる言葉を創造する(でっちあげる)という荒業にも挑戦していただきたい。

御池杣人

 パロデイとしてもなかなかの出来でうれしくなってしまう。内容はいかにも破地輪駆氏的な明るさに彩られている。どこへでもズンズンドドドといってしまう氏にこれほどの「フアンタステイックな心の内」があったとは、わしゃ知らなんだ。

「あはれと思え」を「たのしと思え」とは、人生上の苦難を乗り越えていく姿勢・構えを示唆するものとしてすごい内容。

ただし「病院のベッドで楽しんで頂戴(ウッシッシ)」と言われても、楽しめるか。あの日、尿道カテーテルがとれて楽になった。うれしいなあ。だけどその直後、おもらしでオタオタ。なんとかコントロールがきくことをたしかめてホッと。そうか、考えてみればこうやって僕も楽しんでいたのかも。