東 雲
鬼胡桃 落ち葉に隠れ 黒い玉
霜月の 日差し柔らか 苔の石
突然に 枯れ葉を叩く 霰かな
三句とも現場にいた人にはすんなり状況が浮かぶ写実的な俳句である。クルミは外の実が土に還りかけるときは炭のような「黒い玉」であった。おかげで手袋が真っ黒になったことよ。トトロに出て来るマックロクロスケを思い出した。
第二句の「日差し柔らか」がよい。苔むした石の輪郭が光るのは初めて見たような気がする。冬の陽射しは角度があり、穏やかだ。それがふんわりした苔に反射して本当に柔らかな光であった。
第三句は唐突に降ってきたアラレの様子。「叩く」にアラレの質量感が出ている。ところで作品に関係ないが、気象学的にあれはアラレなのか小粒のヒョウだったのか疑問は残る。
葉里麻呂
三句とも五七五の約束事―制限―を守ることを厳格に(あるいは頑固に)貫いている。この厳格さ(あるいは頑固さ)は、東雲氏の山行きのスタイルなのかもしれぬ、とふと思ったりもした。
山頭火の自由律俳句ばかり親しんでいる僕にとって、この厳格さ、頑固さはかえって新鮮である。この三つの句を何度か声に出して鑑賞されたい。鬼胡桃、苔の石、霰の場面が五七五のリズムにのって静かに伝わってくる。
御池杣人