2−1 Tanytarsini ヒゲユスリカ族

                                                                    2 Chironominae に戻る

  ヒゲユスリカ族に含まれる属の触角は高い台上にあるが、それぞれに特徴があり、これによっておおよその分類ができる。下唇板にも特徴がみられるが、その判別は困難を伴う。前大顎や後擬脚の鈎爪にも特徴がある。上唇部のSTは羽根型で、周囲は細かい鋸歯状に縁取られる。SUは長く先端部は縁が鋸歯に縁取られる。鋸歯の大きさや数は属により、種により形態的に差異はあるが基本的には変わらない。第4〜9体節の後端、側面に1対の細い毛の束があるのも共通した特徴である。

触角・台
下唇板・大顎
前大顎
上咽頭櫛歯
後擬脚の鈎爪 採集地
その他
 Tanytarsus  
ヒゲユスリカ 
 Lauterborn器官は小さく、柄は長
 く第5節の先端を越える
 台の指状突起は有・無両方がある
 下唇板の側歯は
 5対、なだらか
 な山型に配列。
・先端は3〜4裂
・3葉、各々数
 裂
 小さい10数本
 が環状に配列、
 鋸歯はない
 各地に広く分布
 20数種
清冽な水域に生息
Virgatanytarsus
 同上。
 台の指状突起は無い
同上 同上  鈎爪は10数本
 で、数本に細か
 い鋸歯
 各地に広く分布
 3種
 玉川、江の川、
 五木川等
Rheotanytarsus
ナガレユスリカ
 Lauterborn器官は小さく、柄はや
 や長いが、触角の先端を越えない
 台の指状突起は無い
同上 ・先端は2裂
・3葉、各々数裂
 か一連の10数
 歯
 10数本が環状
 に配列、鋸歯
 はない
 各地に広く分布
 10数種
 5角形の固定巣
Micropsectra
ナガスネユスリカ
 Lauterborn器官はTanytarsus
 同じ。
 台の指状突起は有る
 下唇板の中央歯
 は両脇の歯が独
 立して、3本に見
 えるものがある
・先端は2裂
・3葉、各々数裂
 10数本の小さい
 鈎爪のものと、
 30〜数十本の
 鈎爪が2〜3重
 の馬蹄形に配
 列のものがある
 各地に広く分布
 約20種、深度の
 大きい湖に生息
 する種もある
Paratanytarsus
ニセヒゲユスリカ
 Lauterborn 器官はやや大きいが
 第3節を越えることはない、柄は短
 い.
台の指状突起は無い
 下唇板の側歯は
 5対
・先端は2裂
・長卵形の3〜5葉
 小さい10数本、鋸
 歯はない
 各地に広く分布
 3種
Cladotanytarsus
エダヒゲユスリカ
 Lauterborn器官は非常に大きい
 台の指状突起はない
 下唇板の側歯は
 5対、中央歯は
 3本が山形に配
 列
・先端は3裂
・3葉、各々数裂
 10数本の鈎爪の
 うち、数本に鋸歯
 がある
 各地に広く分布
 数種
 Neozavrelia  Lauterborn器官の柄は太く、触角
 の先端とほぼ等長

 台の突起はない。
 下唇板の側歯は
 4〜5対。
 の背面は 凹凸。
・先端は2裂
一連の10余歯
 または3葉でそれ ぞれが数裂
 小さい十数本。鋸
 歯はない
 各地の分布、
 数種
Stempellinella
ケミゾユスリカ
 触角の第2節の基部と上端に非常
 に大きいLauterborn 器官。
 台には長い指状の突起がある
 下唇板の側歯は
 6〜7対、副下唇
 板は扇形に近い。
 大顎の背面に顕
 著な膨らみがある
・先端は2〜4裂
・長卵形の3葉
 小さい10数本、鋸
 歯はない」
 2種
 高梁川・
 加茂川(三重・
 鳥羽)
Stempellina
ムナコブヒゲユスリカ
 Lauterborn器官はCladotanytarsus
 と同様に非常におおきい
 台には指状突起と10余本の指をも
 つ大きな状掌突起がある
 下唇板の側歯は4
 〜5対。副下唇板
 は横に長いが、扇
 形に近い 
・先端は3裂
・3葉、各々数裂
 ごく小さい10数本。
 尾剛毛台は壺状
 で、多数の鋭い刺
 の列を持ち尾剛毛
 は太く、先端で数
 裂する
 各地
 数種
 細かい砂筒の携
 行巣を持つ

 頭部に粟粒状の
 多数の突起
Corynocera  Lauterborn器官はTanytarsusと同じ
 台の指状突起は無い。
 下唇板の側歯は4
 対。中央歯は山形
 大顎の背歯は2本
 が重なる。
・細長く、先端は2
 裂。
・三角形の3葉
 小さい10数本  阿寒パンケ沼
Pontomyia
台の高さは基節の1/2.
Lb器官の柄はない
台の指状突起はない。
下唇板の側歯は4対 先端は5裂
3葉で、それぞれが数裂
小さい鈎爪が2重の馬蹄形、それぞれが
30余本。
北海道、能取湖
Nimbocella  Lauterborn器官の柄の2/3にラセ
 ン状の環紋
がある。
 台の指状突起は無い。
 下唇板の側歯は5
 対。中央歯はわず
 かに山形。大顎の
 側歯は2本。
・先端は3裂。背面に1本の突起
・3葉、各々数裂
 淡黄色の16本 ベネズエラ
Tanytarsini Genus TA Lb器官の柄は太く、第3節の中ほどまで、Lb器官は大きい。 下唇板の側歯は5対 先端は4裂
3葉、それぞれが3〜4裂
淡黄色の16本 琵琶湖

Tanytarsus
体長は5〜10mm、淡橙色〜赤色の幼虫。清冽な止水、流水の砂礫底、岩石面の藻類の中など多様な場所に生息する。種類も非常に多く、20数種を数
える。それゆえ形態的にも多様で、特にLauterborn器官の柄の長さに種の特徴がみられる。

長いLauterborn 器官の柄が特徴。
台に突起は無い、突起を有する種もある。
副下唇板は横に細長く、中央で接近 上咽頭櫛歯は3葉、それぞれが数裂
  1 触角:図のLauterborn器官の柄は非常に長いが
  種によっては第3〜5節よりわずかに長い程度の
   ものもある。
2 下唇板:中央歯は種によりドーム型のものや山形
  のものなど。側歯は5対。
3 大顎:種による形態的な大きな差はない。
4 上唇部:上咽頭櫛歯は3葉でそれぞれが3〜5歯。
  前大顎は3〜5歯。
5 前頭片の剛毛:図は樹枝状に分裂しているが単毛
  か2分岐のものが多い。
6 小顎
7 後頭縁 腹面
8 尾剛毛台:尾剛毛は8本のものが大部分
9 体節の剛毛束:第5〜9節の後端側面に八の字型
  に拡がる2本の剛毛がある。これには細かい毛が
  覆う。

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Rheotanytarsus


Rheotanytarsusの幼虫は石、岩の表面に下の写真のような5角形の固定された巣を作る。体長は3〜5mm。淡橙色。比較的清冽な水域の流水に
生息する。10数種が確認されている。国内に広く分布する。

Rheotanytarsus:Lauterborn器官の柄は短い。
Lbの柄は触角の先端を越えない。触角比は種
によって大きな差がある。
下唇板の歯は山型のもの、これが3歯に分離した
ものなど。側歯は5対。副下唇板は弓状に曲がり、
放射状の線は粗い。
Rheotanytarsus:前大顎は2裂
・STは羽根型で、長い櫛の歯状、SUも先端は長い
 櫛の歯状。
・上唇膜は大きなスカート状で端は櫛の歯j状。
・上咽頭櫛歯は3ブロックに分かれそれぞれが3〜
 数歯に分かれるものと、1連の10数歯のものとが
 ある。
・第5〜9体節のすべてまたはいずれかの後端側
 面に八の字型に拡がる剛毛がある、これには細
 かい毛を有する。
・尾剛毛は8本。

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Micropsectra


体長4〜7mm、淡橙色。清冽な水域の砂礫底や岩面の藻類に生息するものが多いが、水深150〜300mの湖底(十和田湖、摩周湖)に生息するもの
がいる。10数種を確認している。後擬脚の鈎爪の様態から2つのタイプがある。

Micropsectra:副下唇板は横に長い扇形で、
  線状の模様が鮮明
Micropsectra: 台の突起が特徴。突起の大きさは
種によって異なる
Micropsectra:数十本の鈎爪が馬蹄形に並ぶ
ものと10数本の小さい爪が環状に並ぶものとが
ある
  Tanytarsus と形態的に類似する点が多いが、
次の点で区別することができる。
 大顎の先端が2裂なのがTanytarsusは3〜5裂
・第5〜9体節のすべてまたはいずれかの後端
 側面に八の字型に拡がる剛毛がある、これに
 は細かい毛を有する。

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Paratanytarsus

5mm前後の淡橙色。国内では3種見ているがLithotanytarsus と極めてよく似ているので再検討を要する。平瀬の砂礫底に生息。野洲川、長良川、
天塩川などで採取。

下唇板はやや高い山形に配列される。副下唇板は
下唇板より長い。中央歯は山型またはドーム型
Paratanytarsus Lauterborn器官は
やや大きく、第3節と等長、柄はごく短いか、
ない
STは羽根型で、10余本の長い鋸歯に縁取られる。
上咽頭櫛歯は3葉。中にはそれぞれが数裂するもの
がある?
・Lauterborn 器官の柄はごく短いか、無い。
・下唇板歯はドーム型あるいは山型。
・大顎の側歯は2〜3.指状突起は長い。
・STは羽根型
・SUは長い羽根型のもの(上右写真)と左
 図のように太い針状の2つのタイプがあ
 る。
・体側の剛毛束はある。

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Cladotanytarsus
体長4〜6mm。触角は頭長の0.6〜0.7倍。数種みられるがいずれも清冽な平瀬、早瀬の石礫面に生息。大きなLauterborn 器官と後擬脚の鈎爪に鋸歯
を有するのが特徴。

 下唇板:中央歯は山形に並ぶ3歯。側歯は5対。  Lauterborn器官は大きい。第2節先端に
 対生。
Cladotanytarsus:鈎爪に鋸歯。16本
 のうち数本に鋸歯。
次の2点がCladotanytarsus Tanytarsiniの中
 で最も異なる点である。

・触角の第2節は短いローソク台形でその先端
 に非常に大きいLauterborn器官が対生。
・後擬脚の鈎爪のうち数本に細かい鋸歯が
 ある。

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Virgatanytarsus

5mm前後の、淡橙色。球磨川の支流川辺川(五木村)と天降川(鹿児島県)水系中津川の2か所で採取。後者の地点はpH3.8の強酸性の水域である。

下唇板:側歯は5対。中央歯は単純な1歯のものと、
山形の3歯のものが見られる。
大顎の側歯は2または3本。 後擬脚の鈎爪に細かい鋸歯を有する
VirgatanytarsusTanytarsusとよく似た
形態ではあるが、下唇板の歯は
Paratanytarsusのようにやや高い山形に
配列される
後擬脚の鈎爪は鋸歯を有する爪の数が
Cladotanytarsusよりも多い
 後擬脚の鈎爪を除いてTanytarsusと区別しがたい。

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Neozavrelia

日本各地の河川に広く分布すると考えられる。数種確認しているが、支笏湖の水深100mの砂泥の湖底からも採取された。

中央歯と第1側歯は等大。側歯は4対。副下唇板は
他のTanytarsini ほど細長くない。
 Lauterborn器官の柄は太く、触角の先端を幾
 分越える。Lb器官も比較的大きい。
大顎の背面が大きく膨らむ。
・ 触角:Lauterborn器官の柄は触角の先端とほ
   ぼ同じ
・ 下唇板は中央の1歯と4〜5側歯、全体が高い
  山形に配列。
・ 大顎の背面にはこぶ状の膨らみ(凹凸)がある
・ 上咽頭櫛歯は1連の10余歯または3ブロックに
  分かれそれぞれが数裂
・ 前大顎は先端で2裂。
・ 後擬脚の鈎爪:いずれの爪にも鋸歯はない。
・ 尾剛毛台:尾剛毛は8本。
・ 第5〜9節にある剛毛束
 



                                                                                  ページの先頭に戻る
Stempellinella

2〜3mmの小型の幼虫。国内では高梁川(岡山県)と加茂川(三重県鳥羽市)の2か所で採取。ほかにカムチャツカでT種得ているが、いずれも形態的に
差異がある。

Stempellinella: 第2節の基部と先端に1本ずつ互生する大きなLauterborn器官と台の指状突起が特徴、 Stempellinella 下唇板の側歯は6〜7対。中央歯は
山形。単純なドーム型の種もある。
  ・触角の第2節のLauterborn器官は上下に互生する点で
 Cladotanytarsusと異なる。 触角台の指(角)状突起は
 Micropsectra
にも見られるがStempellinellaのそれはかなり大きい
・下唇板の中央歯は淡黄色、6〜7側歯は褐色。副下唇板は扇形で
 放射状 の線は鮮明。
・大顎は背歯、先端歯と3側歯。背面の下部に膨らみ。
・STは櫛の歯状、SUは高い台上にあり、長い先端は細かい毛に
 縁取られる。上唇膜は大きく、櫛の歯状。
・上咽頭櫛歯は細い3葉。前大顎は2〜4裂。
・第5〜9体節には剛毛束がある。
・尾剛毛は3、又は4本。

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Stempellina

幼虫は細かい砂t粒で作られた携行巣をもつ。国内の数河川で生息を確認したが、それぞれ異なった種と見られる。最も大きな違いは触角の掌状突起の形態にある。

細かい砂礫を綴り合わせた円筒形の携行巣をもつ 頭部の側面、背面に粟粒状の小突起が多数 第5〜9体節の側面、後端に細い剛毛の束
中央歯は山形の3歯。下唇板の側歯は4〜5対。
種により異なる。
触角台の指状突起と10余指の掌状の大きな突起。
指の数、形は生息場所(種)によって大きな差がある。
Lauterborn 器官は大きい、第2節先端に対生
Stempellina::尾剛毛台に刺状突起,の列
がある。尾剛毛は7本、太い尾剛毛の先
端は分岐するものが多い。
1:頭部 頭部全面に顆粒状の小突起
2:触角の第2節はローソク台状。
  Lauterborn器官は非常に大きい。
  角状突起は大きく、掌状の突起は
   種により異なる。
3:下唇板
4:大顎の側歯は2本
5:頭楯前端部
6:体節の剛毛〜胸部、腹部で異なる。
7:尾端部〜後擬脚、肛門鰓は第12
  体節の下部に位置する。尾剛毛台に
  は鋭い刺の列がある。尾剛毛先端は
  分岐するものがある。
8:上唇部〜STは櫛の歯状。SUの先
  端は毛におおわれる。上唇膜は大き
  い。上咽頭櫛歯は3ブロック、それぞ
  れが数裂。前大顎は3〜5裂。
9:小顎鬚
10:前擬脚の鈎爪

                                                                                                ページの先頭に戻る
Corynocera

本幼虫は阿寒パンケ沼の水深30mの湖底(4℃、pH6.4)より採取したものである。体長5mm。淡橙色。触角は頭長の0.6.

下唇板の中央歯は大きく、両側に膨らみを添える。側歯は
4対、副下唇板は横に細長い。
大顎の背歯は2重。先端歯と3側歯。
指状突起は長い。
触角は5節。触角比は2.6.
第2節先端に短い指状突起と、第2
節の3倍の長さの柄をもつLb器官が
ある。
・STは羽根型。SUは高い台上にあり、
 長く、先端は毛に縁取られる。
・上唇膜は大きい。
・上咽頭櫛歯は三角形の3葉。前大顎は
 細長く、先端は2岐。
・尾剛毛は8本、台の高さは径の2〜3倍
・肛門鰓は細長い紡錘形。

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Pontomyia

1:触角
2:下唇板
3:大顎
4:上唇部
5:小顎
6:後擬脚の鈎爪
7:前擬脚の鈎爪
8:尾剛毛

                                                                  ページの先頭にもどる

Nimbocera

本種はベネズエラのメリダ動物園内の小渓流で採取したものである。Tnytarsus と非常に類似した形態を有するが、触角のLaeterborn器官の柄の
下2/3にラセン状の紋様があるのが特徴。

    Lauterborn器官の長い柄の下部
2/3にラセン状の紋様がある
   

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Tanytarsini Genus TA

1:触角
2:触角の先端部分
3:下唇板
4:上唇部
5:後頭縁の腹側
6:大顎
7:尾剛毛台
8:後擬脚の鈎爪

                                                                             ページの先頭に戻る





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