岩 魚 土

   

     

     白船峠 鹿の親子か 北風か  駆け抜けた後に 落葉がシャラリ

 

     木和田尾の 枯れ葉のなかの 落し物   黒き瞳の 君は何処に

 

     いつの日か 丸尾の平に 木和田庵  星空見つつ 蓑虫になる

 

 

・第一首−「落葉がシャラリ」、この「シャラリ」には、僕には決して出てこない何かがある。

初冬の乾いた落葉が軽やかに舞う。そのただ中を僕たちも軽やかに歩いてきた。「シャラリシャラリ」の音の中を。

・第二首−あの「落し物」。あれは「落し物」ではあるけれど、実は「授かり物」。コツコツ歩けばそのご褒美をかねて、ほんとうにさりげなく置いてあるかのよう。じっと手にとって眺めれば、その磨耗の具合に、野生の「黒き瞳の君」の日々の姿の一端がうかがえる。だけどその「落し物」は実は、「自然と人間の関係をちゃんと考え続けなさいよ」という「黒き瞳の君」から未熟な人間への伝言そのもの。

・第三首−「御池相聞五一首」の「管理人解説」に一箇所登場している蓑虫君。僕はずっと岩魚土君を「みのむし君」と心の中で呼んできた。だからまぎれもなくこの歌はその本人の歌。「星空見つつ 蓑虫になる」がうらやましいほどいい。僕もいつか、みのむし君になって峠を逍遥したし。時に星空を見つつ。

 

                                                 御池杣人

 


 

 第一首   一陣の風のごとく走り去ったシカ。「落ち葉がシャラリ」はその余韻を見事に表現している。シカとの電撃的な出会いに、南伸介の 「びっくりしたなあ、もう」という名セリフを思い出す。もしくはハナ肇の「あっと驚くタメゴロ〜ォ」か。このような故人の古色蒼然たるギャグを現代に生き返らせるのもリサイクルの一環だ。岩魚土君以外は「古すぎて知らん」とは言わせません。

 第二首   落し物からその持ち主の消息に思いをはせた歌。着想が素晴らしい。「黒き瞳」と言う表現に、ばったりシカ君に出くわしたときのつぶらな目を思い出した。ひょっとして作者は女優の黒木瞳のファンなのだろうか。実はワシも好きなんです。

 ところで黒木瞳で思い出したが、宝塚と百人一首の関係をご存知だろうか。有馬稲子は大弐三位、霧立のぼるは寂蓮法師の歌から名付けられている。淡島千景(源兼昌)ほか多数。天津乙女なんていう人もいたらしい。相当古い人ばかりで、私も現役時代は知りません。以上ミニ薀蓄でした。

 第三首   管理人は偶然早朝の山中に転がっている作者と出くわしたことがある。死体かと思ってギョッとしたが、その自然と渾然一体になる露営スタイルに感銘を受けたものである。「星空見つつ」はテントでは味わえない境地である。

                                                    葉里麻呂