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     ユスリカ幼虫の検索と分類  (intro.)

   は じ め に
 ユスリカの幼虫の分類については個々の種についての記述は多数見受けられるが、総括的な文献は、邦文では限られている。.
このページはこれからユスリカ幼虫の研究を始めようと志す研究者の手引きになればと考え、筆者がこれまでに得た知見をもとに、まとめたものである。
ここでは属Genusの段階までを検索し、分類できるようにと試みた。 もとよりユスリカの研究においては、幼虫の形態をもって「種}の同定をすることは
特別な一部の種を除いては不可能と考えられている。これは成虫では明らかに異なった種であっても幼虫の形態ではほとんど区別ができないことが
あり、 同じ種と見られる幼虫を飼育したところ、異なった成虫が羽化したという例が多々見られる。また同一種であっても地理的な変異、個体差による
変異が見られるからである。 言うまでもなく、同定に用いるサンプルは終令幼虫(ふつうは4令幼虫)であることが原則である。幼虫の令による形態的
な変異は非常に大きく、特に触角の各節の長さや下唇板の形態に顕著に現れるものである。

このホームページの内容は、新しい情報をもとに今後変更していくことを含んで参考にしていただきたい。なお本ページに対するご意見、ご指摘があれば
次のメールアドレスにお寄せください。
                 
reichou@cty-net.ne.jp
                                                                                北川禮澄

1  ユスリカ幼虫はどこにいる?
 ユスリカの幼虫は淡水の河川や湖沼の他に、海水にも、陸上の湿った落ち葉や土の中にも生息するが、淡水中に生息するユスリカ
が大半を占めている。このホームページでは淡水に生息するユスリカのみを対象とした。
 河川や湖沼ではどのような場所に生息しているかといえば、まず水中の岩や石礫の表面に付着した藻類の中に生活するものがある。
ここに棲む多くのユスリカは特別な巣を作らないものが多いが、なかには岩の表面に固定された巣をもつもの、携行可能な巣を作るもの
もある。次に河川や湖沼の砂礫、砂泥底の中に生活するものがある。生息する種類や個体数はむしろ岩や石礫の表面に生息するもの
より多い。そのほか岸辺の植物の根や茎に付着して生活する種も多くいる。
 清冽な谷川、滝の急斜面の激流、pHが2〜4の強酸性の水域、水温が40度を超える温泉の湧出する水域にも生息する。きわめて汚濁
の進んだ、ほとんど溶存酸素のないような溝にも生息する。言い換えればあらゆる水域に生息するのがユスリカの特性であろう。もちろん
それぞれの環境に適応した種類の幼虫が生息している。
これまで万回を超える採取を試みたが、その中にユスリカの幼虫が1匹もいな
かったというのは数えるほどしかないくらい、まずどこにでも生息していると考えてよい。
 幼虫の採取は、現場で岩や石礫の表面にいるのをピンセットで1匹ずつつまみ取るのでは時間のロスが多いのでブラシなどでこすり取
り、顕微鏡のもとで拾い出すのが見逃しもなく確実である。また河川や湖の底の砂礫層に生息するものは目の細かい金網やプランクトン
ネットの生地で作ったタモなどでこしとるのが効率的である。それぞれの場に合った方法を工夫したい。


2  
分類に必要な主な部位の形と名称観察の方法

幼虫の分類に必要な部位と観察の方法

1:幼虫の生きている間に色を記録しておくことが必要である。死後は変色し、
  特にアルコールで固定した場合は退色してしまう。

2:スライドグラス上にガムクロラールを滴下し、体から切り離した頭部を背面を
  上にして置き、カバーグラスをかけて軽く指先で押し付けて、頭殻の形態を
   スケッチとともに記録する。
3:カバーグラスを静かにはずし、頭部の腹面を上にする。ガムクロラールを少量
  加え、カバーグラスをかけて、ガラスがずれないように、指先でかなり強く圧する。
4:尾端部は第10体節あたりから切り離し、スライドグラス上に滴下したガムクロ
  ラールに載せ、封入する。この際指先で圧することはしない。圧すれば肛門鰓
  や後擬脚は大きく変形する。
  必要に応じて、尾剛毛は台の付け根から切りはずし、別に封入する。
  サンプルが多数ある場合には背面、側面の標本を作る。
5:前擬脚は基部から切り離し、別に封入して、強く圧する。
6:体節の部分は背面を上にして封入する。

・1枚のスライドグラス上に上記2〜6のサンプルを並べるので、カバーグラスは
  予め1/4の大きさに切断しておく。
・いずれの操作においてもサンプルの間に気泡が残らないようにしなければならない

{ガムクロラールの作り方}
 グリセリン 3mg、 抱水クロラール 30g、 アラビアゴム 8g、  氷酢酸 1ml、
 水 10ml
 以上の薬品を混ぜ合わせ、弱く加熱しながら溶かす。 アラビアゴムが完全に溶け
 ない時にはガラスウールで濾過する。



fig


3  ユスリカ幼虫の分類に関する参考文献 


図説日本のユスリカ                日本ユスリカ研究会編 , 文一総合出版,  2010               
ユスリカの世界                 近藤繁生他,   培風館,     2001
日本産水生昆虫検索図説 ユスリカ科     橋本碩 、川合禎次(編) 東海大学出版会編 1985
水生昆虫学                     津田松苗    北隆館     1962   
ユスリカ類概説  (1,2,3)           森谷清樹,    用水と排水,  1983
川と湖の博物館                    北川禮澄,    山海堂,     1994
標生物シリーズ 1 ユスリカ          北川禮澄,    山海堂,     1986
ユスリカの幼虫の分類(1)           北川禮澄,    淡水生物,   1999
ユスリカの幼虫の分類(2)           北川禮澄,    淡水生物,   2000
ユスリカの幼虫の分類(3)           北川禮澄,    淡水生物,   2001
ユスリカの幼虫の分類(4)           北川禮澄,    淡水生物,   2002
ユスリカの幼虫の分類(5)           北川禮澄,    淡水生物,   2003
ユスリカの幼虫の分類(6)           北川禮澄,    淡水生物,   2004
ユスリカの幼虫の分類(7)           北川禮澄,    淡水生物,   2005
ユスリカの幼虫の分類(8)           北川禮澄,    個人出版,   2006
ユスリカの幼虫の分類(9)           北川禮澄,    個人出版,   2007

Chironomidae of the Holarctic region , Keys and diagnoses Part 1 ,  Larvae . W. TORGNY,  Entomologica Scandinavica , 1983
The biology and Identification of the Chironomid , Bryce and Horbart , Entmologist’s Gazette,vol1,  1972

Aquatic Insect of California    ROBERT  L. USINGER,   UNIVERSITY OFCALIFORNIA PRESS  1956
Aquqtic Diptera               O.A.Johannsen       Cornell University, 1973


4  検索と分類
国内でこれまでに記録した淡水性のユスリカ幼虫は6亜科あり、筆者の手元にあるものではおよそ120属800種におよぶが実際に生息する
ユスリカの属数、種数については定かでない。ここに取り上げたユスリカは国内で採取したものに加えて、国内では見られず、海外で採取した
3属( Goeldichironomus , Nimbocella, Odontomesa )を加えた。
                                                                      検索と分類へ 
1 Tanypodinae
モンユスリカ亜科

2 Chironominae  ユスリカ亜科

3 Orthocladiinae エリユスリカ亜科

4 Diamesinae ヤマユスリカ亜科

5 Prodiamesinae  オオヤマユスリカ亜科

6 Podonominae  ケブカユスリカ亜科

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