1. 鈴鹿山脈/登山日記

  2. 山行記録の向こう側
  3. 入道ヶ岳・磐座めぐり

入道ヶ岳・磐座めぐり

目次

入道ヶ岳・イシグラ 2014.11.23
  1. 入道ヶ岳と磐座
  2. 磐座位置図
  3. 石神のいわくら(井戸谷)
  4. イシグラ   (井戸谷右岸尾根)
  5. 仏岩・重ね岩 (イワクラ尾根)
  6. 天狗の腰掛  (二本松尾根)
  7. いわくら遙拝所(井戸谷)
  8. 石大神    (小岐須渓谷)
  9. 山行記録

1 入道ヶ岳と磐座

鈴鹿山脈の前衛・入道ヶ岳(906m、三重県鈴鹿市)は、四季を通じて多くの登山者に登られている。下部は植林されているが中腹以上は雑木林となり、広い山頂部からは伊勢湾など四方に展望が開ける。また、山麓の椿大神社は参詣者の絶えることがない。入道ヶ岳東面の主要な登山道へは、この神社の広い登山者用駐車場に自動車を置かせてもらい登ることになる。

入道ヶ岳・山頂鳥居 2002.02.24イシグラ 2004.02.28フクジュソウ(井戸谷)2004.02.28

椿大神社の社務所には多数の出版物が並ぶが、そのなかから「神代『いわくら』について」という小冊子を入手した。この冊子は「イワクラ研究の権威者遠山正雄氏」が「昭和8年から10年にかけて」実地調査をした研究成果を復刻したものとのこと。鈴鹿山域の研究書「鈴鹿の山と谷」の入道ヶ岳の項にあるイワクラの記載は、この冊子から引用したようだ。

入道ヶ岳の磐座はイワクラ尾根の仏岩、重ね岩が良く知られている。しかし、この冊子には山中の磐座として、イシグラ、イシゴウ、天狗の腰掛などの聞き慣れぬ名称が記載され、イシグラは不鮮明ながらも写真が掲載されていた。ところが巻末の「いわくら位置略図」は抽象的で所在場所を特定できそうにない。そのうち、この冊子のことを忘れてしまった。

そんなとき、井戸谷を歩いていると登山道から右岸尾根を登る踏み跡に気付き、その終点で注連縄が張られたイシグラに出会った。しかし、イワクラ尾根の磐座のように期待したほどの巨岩ではない。結局、奈良・三輪山の山頂にある奥津磐座に詣でるなどで認識を改めることになった。

こうして入道ヶ岳で出合った磐座などについて、その様子をここに残しておく。

2 磐座位置図

この地図は入道ヶ岳の磐座、標石、構築物の位置を示したものです。地図上の記号は、赤線:登山道、青線:林道又は林道跡、水色の記号:磐座、黄色の記号:構築物(祠、石組み)、緑色の記号:境界標石です。

磐座位置図・入道ヶ岳東面 磐座遙拝所 石神のいわくら(富士社) イシグラ 天狗の腰掛

1 イワクラ遙拝所  2 石神のいわくら・富士社  3 イシグラ
4 奥の宮      7 天狗の腰掛

磐座位置図・イワクラ尾根
重ね岩・仏岩

4 奥の宮  5 重ね岩  6 仏岩

この位置図はカシミール3Dを使用してGPSの計測データを編集し、国土地理院の1/25000地形図上に描画したもの。測量法第29条の規定により、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を複製したものである。(承認番号 平16総複、第671号)

3 石神のいわくら(井戸谷)

石神の祠石神のいわくら

井戸谷登山口から植林帯の急斜面を登山道で登る。鉱山の飯場跡なのだろう石組みの平地で道は水平になり、この先に以前は「石神」の標識(現在、通報ポイント3標識)があって、石段と小さな祠の前を通過する。この祠は木製から無機質な白っぽい材質に変更されたが、何故ここに存在するのか理解できなかった。しかし、あるとき祠の背後に大きな岩があることに気付いた。

植林が邪魔しているが、斜面の高い位置に尖った縦長の巨岩が見える。登ると注連縄などは見あたらないが、付近にはこれ以外の目立つ岩はない。ここは上述の位置略図では「いしがみのいわくら(通称ふじ社)」とされている。

また「椿大神社二千年史」には「縦5m近くの円錐形の古色蒼然と黒光りする自然石が重く突き立ち、その東方への傾斜20mほど下に小型の机石がある。これは太古祭司の供物台とみられる。さらに5m手前に木造の小祠があり『富士社』の額がかかっている。」とある。

植林帯はこの磐座付近が上限になっている。ここからケモノ道を拾って雑木の尾根を登ればイシグラを経由して山頂直下の草地に飛び出すが、登山道の利用が無難だ。

  1. 写真
  2. 上:石神(2003.03.02、旧祠、2007年頃に白い祠に代わった。)
  3. 下:石神のいわくら(2003.03.02)

4 イシグラ(井戸谷右岸尾根)

イシグライシグライシグラ

石神の祠を通り過ぎると、登山道は植林帯を出て井戸谷沿いになる。谷へ降りて左岸に渡り、避難小屋を通過すると水流を跨いで右岸へ戻る。まもなく水が消える谷底の道は、落葉期になれば落ち葉におおわれて、ゆったりと頂上部の笹原へ登っていく。

この右岸へ戻ったところからしばらく登山道を歩くと、左の斜面に薄い踏み跡がある。標識・通報ポイント5を通過して約30mのところだ。踏み跡は井戸谷右岸の広い尾根を登って、小規模な岩の堆積の前で終点になる。山頂三角点から東へ420m、標高710mの地点だ。

これが「イシグラ」と呼ばれる磐座であり、俗称「天狗の遊び場」とのこと。付近には注連縄が張られ、南側はオオハゲへ切れ込んだ崖になっている。この尾根にはあまり岩を見ないが、この周辺には多くある。

「神代『いわくら』について」には、オオハゲの砂防工事に使用する石材が不足したので、ここから岩を落としたこと。この作業で工事関係者に死者が出たことが書かれている。

イシグラは幾つかの岩が寄り集まって、天井のない小さな石室を作っている。この石室は一方が開いており、なかには小さな祠が入れられていた。(2002年11月時点。その後は祠を見ない。)形態が珍しくはあるが、仏岩や重ね岩のような巨岩といったイメージは薄い。ここは樹林のなかで夏季は日陰になるが、落葉期であれば付近は陽を受けて明るく清々しい。

イシグラからそのまま尾根を登ると、「境界」と刻み込まれた小さな標石に出合う。これより下部は山本町の所有地とのこと。「山本の昔いま」によれば、入道ヶ岳上部の国有地を売却したさいに、下部の山本町所有地との境界線が問題になり、これを争った40年裁判の勝訴によって戦後に標石を設置したものらしい。北尾根、オオハゲの南側、二本松尾根(天狗の腰掛)でも同様の標石を見ている。

主座のイワクラ付近

なおもケモノ道を登るとオオハゲ最上部を間近に望むようになる。そこは垂直の断崖で、「神代『いわくら』について」は付近の自然岩を「主座のイワクラ」と呼び、接近した位置からの写真を掲載している。崖上から近寄れそうに思うが恐くて近づけないので、未だにその自然石を特定していない。

  1. 写真
  2. 上:イシグラ(2004.02.28)
  3. 中:イシグラ(2003.03.02)
  4. 下:イシグラ(2002.11.10)
  5. 右:主座のイワクラ付近(2003.03.30)

椿大神社から入道ヶ岳へ:遠足手帳 「イシグラ」については、社務所で入手した「猿田彦大本宮物語」にも記述がある。昭和45年付けの前文に伊勢新聞社が山本宮司の話をまとめたとある小冊子で、イワクラ尾根の磐座に続いて、「第二の磐座は入道嶽の東の面、頂上三角点から二百メートルぐらいのところにある。この地点は、全く巨岩ばかりでできている。およそ三百坪(約一千平方メートル)の間はことごとく石の集積だ。とがった石もある。打ちつければ獣物も死ぬだろう。南も北も谷で、前面は尖こつとして登ることは不可能だ。この磐座は、多少人力を加えたかと思われる点がある。ここは、昔から『てんぐの遊び場』と呼ばれている。」とある。同じ場所かと疑われるが「イシグラ」の話のようだ。

昭和17年発行のハイキング案内「遠足手帳」(関西急行鉄道)には、時局向けとして入道ヶ岳登山「椿神社から入道岳」が紹介されている。「椿神社」を参拝後、「天狗の遊び場」や「頂上『奥の磐座』」を遠足で歩いたらしい。

5 仏岩・重ね岩(イワクラ尾根)

鳥居がある入道ヶ岳山頂から、北ノ頭を経由して「奥の宮」がある最高点へ向かう。ここはイワクラ尾根への出発点だ。鈴鹿山脈の主稜線に接続するこの厳しい尾根の中間ピークには、良く知られた2つのイワクラが存在する。

重ね岩仏岩仏岩(奥の院いわくら)

奥の宮から尾根を下ると、古生層の地質は花崗岩に変わり雰囲気が明るくなる。鞍部から登り直して中間ピークに着くと「重ね岩」の前に出る。重ね岩は、岩のブロックを積み上げたような高さ5メートルほどの大きなイワクラだ。

その正面(西側)に立って鈴鹿の主稜線に目をやると、北西方向に「仏岩」の頂部が見えているのに気が付く。また、椿大神社ではこのあたりの岩を「鏡岩」としてイワクラに数えている。一時期、社務所に写真が掲げられていたのだが、地面にある丸い岩でしかなく、どの岩なのかはっきりしない。

尾根上の道をそのまま歩けば仏岩(奥の院いわくら)は間近だ。右手に張られたロープを跨げば、少し離れて三角形のイワクラが鎮座している。高さ6メートルほどの三角形の岩。何故にこんな岩が出来上がったのか不思議そのもの。

椿大神社ではこれを剣岩、重ね岩を玉岩と解釈し、さきの鏡岩とともに三種の神器が影向したものとしているらしい。この付近からは北の展望が開けており、伊勢湾の一部を望むことが出来るが、イワクラ尾根はアップダウンが厳しいので山頂からの往復は苦労させられる。

  1. 写真
  2. 上:重ね岩 (2000.11.26)
  3. 中:仏岩  (2000.11.26)
  4. 下:仏岩  (2003.06.08)

6 天狗の腰掛(二本松尾根)

「神代『いわくら』について」には、伝聞として「天狗の腰掛」の記載があるが所在場所が解らなかった。しかし、平成15年に出版された「山本の昔いま」に「七五三懸岩(シメカケ岩)」或いは「天狗の腰掛け」と呼ばれる台状の自然石が南登山道にあると記載されているのを見つけた。それも、所有地境界の目印の岩であるという。さらに、この岩から上は急斜面になっており、雨乞いのために笛・太鼓を鳴らして登ったときに、笛を吹き続けられなかったため「笛離し」と呼ばれているとある。

境界標石と天狗の腰掛天狗の腰掛

イシグラの上方や、オオハゲ南側のほぼ同じ標高の場所に「境界」と彫られた標石が存在することは承知していた。ならば二本松尾根の同じ標高の場所にも標石があり、そこに「天狗の腰掛」があることは想像が付いたので確認に出かけた。

二本松尾根登山道の避難小屋や通報ポイント標識を過ぎたところで、左側にその標石を見つけた。そして、登山道の右側には岩があり、コンクリートブロックが一枚、置かれていた。高さは1mに満たない。大した岩ではないが付近にはこれ以外に岩は見あたらないので、どうやらこれらしい。

ブロックを取り去って横から見ると四角い台状に見える。天狗が腰を掛けるには都合が良さそうだが、座るとデコボコして尻が痛む。人間が座るにはブロックの方が良いようだ。

  1. 写真 天狗の腰掛 (2003.06.08)

7 いわくら遙拝所(井戸谷)

椿大神社から「なべ川」に沿って奥へ入る林道は、キャンプ場を通過すると舗装が途切れる。ここで路面を削って流れる「なべ川」を南へ渡って右に分岐する林道跡へ入ると、再度「なべ川」を右岸から左岸へ渡り返す。ここが井戸谷登山道の登山口だ。この付近で取水しているので「井戸谷」というのだろうか。

石組遙拝所全景オオハゲに残る石組

登山口の手前から右岸を上流へ入ると、枯れ葉に埋もれた石段がある。荒れているが付近は整地されており、さらに登ると立派な石垣が現れる。祠などがあったのかも知れないが既に痕跡はない。この石垣の左には大塚源作命、辻傳三郎命と刻まれた石碑が並び、酒など供えられているのを見ることもあった。

オオハゲでの砂防工事で死者3名が出たこと。このため、昭和9年に「イシクラの谷の麓に迎神祭壇イハクラ式のもの」が作られたと「神代『いわくら』について」に記載がある。さらに石碑に刻まれた名前は、記載された死者2名の名前にほぼ符合する。

また「いわくら位置略図」には井戸谷登山口付近と思われる位置に「いわくら遙拝所」が書き込まれている。

何れもこの施設に一致するが、この祭壇からは山頂やイシグラを望むことはできない。オオハゲ内部では、脆い斜面の驚くような高い位置にも石組みが残されていた。犠牲者を出しながらも砂防工事は完了し、椿大神社を始め地域の安全に貢献したが、現在は大方の人に忘れられてしまったようだ。合掌。

  1. 写真
  2. 上:石垣 (2002.03.03)
  3. 中:遙拝所全景 (2002.03.03)
  4. 下:オオハゲに残る石組 (2004.02.28)

8 石大神(小岐須渓谷)

石大神

石大神(しゃくだいじん)は入道ヶ岳の南、小岐須渓谷の対岸に聳える石灰岩の岩峰。椿大神社は別社・延喜式内社「石神社」としている。

社殿はなく岩峰が御神体。現在は周辺を鉱山に削られて哀れな状況だ。平成8年に三重県の天然記念物に指定されたが遅すぎる。「いわくら位置略図」には「石大神のいわくら」と書き込まれている。

司馬江漢の西遊旅譚に石大神の挿絵がある。西遊日記にも立ち寄った記録がないので伝聞による想像図だろうか。これを見て明治期に訪れた文学者の卵が、富士山が見えるに違いない云々と虚言を書き散らしながら実物を見てガッカリしているが、神様が天下るに相応しい岩峰だと思う。

  1. 写真:石大神 (2002.11.03)

10 山行記録

  1. 入道ヶ岳などの山行記録から、磐座に係わるものを幾つか、
  2. 2002.03.10 入道ヶ岳:磐座遙拝所、イシゴウ探索
  3. 2004.02.28 入道ヶ岳:オオハゲ、イシグラ
  4. 2004.03.27 鳩ヶ峰 :石大神
  5. 2007.11.16 入道ヶ岳:イシゴウ探索
  6. 2014.10.19 入道ヶ岳:イシゴウ探索、イシグラ
  7. 2014.11.23 入道ヶ岳:イシグラ、石神のいわくら
  8. 2016.11.26 入道ヶ岳:イシグラ、タテイハクラ式のもの

備考

「神代『いわくら』について」は、もう社務所に置かれていなかった。引用文献の内、置かれていたのは「椿大神社二千年史」だけ。(2017年3月11日現在)

(作成 2003.06.29、移転 2010.05.08、更新 2017.03.11)