御池相聞五十一首 

近藤朝臣(御池杣人)  柳澤郎女

目次  R1  R2  R3  R4  R5  R6  R7  R8  R9


本歌      ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くぐるとは   (在原業平朝臣)
      
作品No.01  霧雨降る 視界もきかず 御池岳 空晴れないに 笹くぐる汝(な)は    (近藤朝臣)

現代語訳  霧雨が降って、御池岳の茫々たる世界は視界もきかないだろうに私の説得など何処吹く風のあなた。 私の想いも悪天候もやぶこぎの魅力にはかなわないのね。空も晴れていないのに濡れた笹藪を今頃あなたは漕いでいることでしょうよ、びちょびちょになって・・・と誰かいってくれないかなあ。

管理人解説 万葉集に次のような歌がある。

     吾を待つと 君が濡れけむ あしひきの 山のしずくに 成らましものを

訳:私を待つために、あなたが濡れたとおっしゃる山の雫に、私はなりたいものです。

 近藤氏の言われる「誰か」とはこの歌を詠んだ石川郎女(いしかわのいらつめ)ではなかろうか。いらつめとは若い女性のこと・・・おっといけませんよ先生、不倫願望は。


この歌に柳澤郎女さんから返歌が届きました。よっ、色男!

本歌     浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき    (参議 等)
         
作品No.02    霧雨の 御池の笹原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき    (柳澤郎女 

現代語訳   お池の笹原を うらめしく思っては いつも偲んでいる わたしの心は わかってくださらないのですね

管理人解説  よくぞ返歌を詠んで頂きました。参議 等の原作を選ばれたセンスはなかなかのもの。浅茅生とは篠原のこと。これを御池岳の笹原にみたて、「どうしてあなたがこんなに恋しいのでしょう」という原作の意を生かして頂きました。


本歌     見せばやな をじまの蜑の 袖だにも ぬれにぞぬれし 色はかはらず  (殷富門院大輔)

作品No.03   見せばやな 御池のササに 袖だにも ぬれにぞぬれし 帰路はわからず  (近藤朝臣) 

現代語訳    霧雨の降る御池岳のササやぶををこいでいて、びっしょびしょにぬれてしまったこの袖をあの人に見せてあげたいものですよ。でも、こんなびっしょびしょの袖なんてただ汚いだけで誰も見たくないわなあと、そんなトロイことを思いながら彷徨っていたので、帰り道がわからなくなってしまったことであるよ。ああ、我ながらなんとお馬鹿さんだこと。

管理人解説    殷富門院の原作と交互に読むと、うなってしまう うまさかな。特に「色はかはらず」を「帰路はわからず」としたのは思わず膝を打つ素晴らしさ。それでいてちゃんと返歌の意が通っており、これは恐れ入りました。蜑は「あま」と読み漁夫の意。


本歌      有馬山 ゐなの笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする    (大弐三位)

作品No.04   すずか山 お池の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする  柳澤郎女)
 
現代語訳  お池に笹原に そよそよと風が吹くと 濡れた袖もかわきましょうぞ あなたの心もそよそよと揺れて どこかに行ってしまいそうで 疑わしいけど 私は決してあなたを忘れましょうか

管理人解説  なるほど、そよ風で袖を乾かす。選歌抜群!。もはや人の恋路を邪魔しないでおきましょう。


本歌     我袖は しほひに見えぬ おきの石の 人こそ知らね かはくまもなし  (二条院讃岐)

作品No.05   我袖は しずくにまみれ 御池の笹の 帰途こそ知らね かはくまもなし (近藤朝臣)

現代語訳  あなたのおっしゃるように、今御池岳にはそよそよと風が吹き始めてきております。しかし、まだ笹はしずくにぬれて、こうして帰り道さえわからなくなってしまったお馬鹿さんは依然としてやぶをこいでいます。だから乾く間もなくなおビチョビチョであることよ。(こうした時こそ、我が師匠−奥村光信氏の教えでは、「ミカンを食べて心落ち着かせ一息入れよ。それから冷静に、ルートを探れ」であったのにそのミカンももってきていないのですよ)

管理人解説  我が心の師、山本素石は山中で平常心を失ったときの対策として「まずゆっくりと立小便をせよ。それからゆるゆるとタバコを一本ふかせ」と、こう申しております。二条院讃岐は女性であるからそうもいかぬか。


本歌     こぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ   (権中納言定家)

作品No.06   こぬ人を まつ身の山の 夕やみに 焼くや焚き火で 身をこがしつつ   (柳澤郎女)

現代語訳   もう日が暮れてしまったわ あなたが早く帰って来れますように 火を焚いて合図しましょう  この火で濡れた袖を乾かしていただきたいわ わたしはこの火のように 身も心も焦がして待っているのです

管理人解説 濡れて彷徨っている人にとって、火を焚くことは有難い事でしょう。グッドアイデア賞。なかなか熱烈で妖艶な作品となりました。


目次  R1  R2  R3  R4  R5  R6  R7  R8  R9